２　作戦篇　　1/4、戦争に拙速はあっても巧久は無い

孫子曰、凡用兵之法、馳車千駟、革車千乘、帶甲十萬、
孫子曰わく、凡そ用兵の法は、馳車千駟・革車千乗、帯甲十万、
軍隊を運用する時の原則として、戦車千台、輸送車千台、鎧で固めた兵卒十万人、
千里饋糧、則内外之費、賓客之用、膠漆之材、車甲之奉、
千里にして糧を饋るときは、則ち内外の費・賓客の用・膠漆の材・車甲の奉、
千里先に食糧を運搬する時は、内外の出費、外交使節をねぎらう費用、にかわや漆などの材料費、戦車や甲冑の供給などで、
日費千金、然後十萬之師舉矣、
日に千金を費して、然る後に十万の師挙がる。
一日に千金を費やしてようやく十万の軍隊が動く。
其用戰也、勝久則鈍兵挫鋭、
其の戦いを行うや勝つも久しれば則ち兵を鈍らせ鋭を挫く。
戦いが長引けば勝ったとしても兵士たちを疲れさせ、鋭気をくじく。
攻城則力屈、久暴師則國用不足、
城を攻むれば則ち力尽き、久しく師を暴さば則ち国用足らず。
城を攻めれば戦力は底を尽き、長く軍隊を外に露営させていると、国家財政が疲弊する。
夫鈍兵挫鋭、屈力殫貨、則諸侯乘其弊而起、
夫れ兵を鈍らせ鋭を挫き、力を尽くし貨をつくすときは、則ち諸侯其の弊に乗じて起こる。
兵士たちを疲れさせ鋭気をくじき財貨を使い果たせば、そのスキにつけこんで攻め込んでくる諸侯も出てくる。
雖有智者、不能善其後矣、
智者ありと雖も、其の後を善くすること能わず。
どんな知恵者でも、善後策を立てることができない。
故兵聞拙速、未睹巧之久也、
故に兵は拙速なるを聞くも、未だ巧久なるを睹ざるなり。
戦争には拙速…やり方はまずくても早めに終わらせるということはあっても、巧久…うまい具合に長期間行う、ということはありえない。
夫兵久而國利者、未之有也、
夫れ兵久しくして国の利する者は、未だこれ有らざるなり。
そもそも、戦争が長引いて国家に利益などあったためしが無い。
故不盡知用兵之害者、則不能盡知用兵之利也、
故に尽々く用兵の害を知らざる者は、則ち尽々く用兵の利をも知ること能わざるなり。
だから、軍隊を運用することの弊害を知り尽くしている者でなければ、その利点も知ることはできない。