*社会科学の方法
内容のあらまし
一 社会科学における人間の問題
人間の営みにほかならぬ社会現象を対象としたばあい、自然科学と同じような意味で、科学的
認識ははたして成りたつものであろうか。もし成りだつとすれば、どのような意味においてか。
こうした問題に正面から取り組んだ典型的事例として、マルクスとヴェーバーのばあいを取り
あげ、両者の解決のしかたを比較対照してみたいと思う。
二 マルクス経済学のばあい
ａ 自然成長的分業による疎外−唯物史観 ほんらい、社会をなして生産しつつある人間諸
個人の力にほかならぬ生産諸力の総和、すなわち社会の生産力は。その基礎を制約する分業関係
か自然成長的な（つまり計画的でない）ばあいには。あたかも自然と同じように、人間に対して彼
らの意志および行動から独立した、むしろこれを指揮する一連の諸様相および発展諸段階という
姿をとって、つまり自然史的過程として現われることになる。
ｂ 理論的方法の適用の可能性−経済学、正確には経済学批判 こうして、人間の労働生産
物か商品という形をとるばあい、それは人間労働の社会的な諸性格を労働生産物の自然的諸属性
であるかのように人間の眼に反映させ、したがって人と人との社会関係（生産関係）が物と物との
関係として現われることになる。そして、このゆえにこそ、人間の営みである経済現象にも、自
然科学と同じ理論的方法。の適用か可能だとされるのである。
三 ヴェーバー社会学のばあい
ａ 自然科学および社会科学双方に共通な科学的認識の二途 普遍的に妥当する法則の迫求と、
法則的知識を手段としておこなわれる普遍的な意義を有する個体の追求、この二途は自然科学お
よび社会科学双方においてみられるか、ひとしく因果性の範疇を用いつつも現実の質を取り扱う
社会科学ではとうぜん後者か優位を占める。対象か人間の営みたる社会現象だからである。
ｂ 動機の意味解明による理解−目的論的連関の因果連関への組みかえ 人間の個性的な行
為はＪ‘科学的認識において、そうしＩだ因果連関の追求をあいまいにし、困難にするものではない。
逆に、その動機の主観的に思われた意味を解明することによって、内面的に理解か可能であるた
めに、個性的な自然事象よりも、かえって原理的に非合理性が少なく、したがって、いっそう的
確にその具体的な因果連関を追求することかできる。こうして、社会現象を対象とする科学的認
識か可能となるとされる。
ｅ 歴史における理念と利害状況の相関 ヴェーバーのばあい、社会科学認識の根拠を以上の
ように捉えることに照応して、歴史のダイナミックスは理念と利害状況の相関として捉えられる
ことになる。「人間の行為を直接に支配するものは、理念ではなくて、利害である。しかし、理
念によって作られた『世界像』はきわめてしぱしば転轍手として軌道を決定し、その軌道にそっ
て利害のダイナミ″クスが人間の行為を押し動かしてき弯卜
今日はたいへん大きな表題を掲げまして少々気恥かしいのであります。この「社会科学の
方法」ということにいたしましても、「マックスーヴＩＩバー」や「カールーマルクス」だ
けにいたしましても、とても一回や二回でお話し尽くせるものではないので、そうした問題
のほんの一面だけをお話して、皆さんのご批判を仰ぎたいと思っているわけであります。と
ころで、「内容のあらまし」に書いておきましたことは、私かお話したいことの本筋だけで
あります。あるいは、このお話の前提として必要不可欠なことだけであります。実際はこれ
から脱線して、いろいろなところに枝葉か出ることになるでしょう。そして皆さんは、むし
ろそのあたりのほうをおもしろく感ぜられるのではないかとも想像いたしますか、ともかく、
そういったつもりでお聞き願いたいと思います。
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