前回にはマルクスの経済学の方法について述べましたので、きょうはヴェーバーの「社会学」
の方法についてお話してみたいと思います。ところで、ヴェーバーが「社会学」Ｓｏｚｉｏｌｏｇｉｅと
呼んでおりますものは、現在社会学の研究をされている方々か「社会学」と呼んでおられるも
のと、内容か或る程度までくい違っているんじゃないかと思うのです。ヴェーバーは、そうし
た狭義のものをも合めながらも、自分の独自な社会科学の基礎理論を「社会学」と呼んでいる
面がありますので、ここでは「社会学」をそういう広い意味に解しておいていただきたいと思
います。マルクスのぱあいには経済学―というよりも経済学批判−が、狭義で経済学とよ
ばれるものをそのうちに含みなから、社会科学の基礎理論という意味をもたされておりますが、
ヴＩＩバーのばあいには、社会学かそれと同じような地位におかれているわけです。そうした
意味あいでヽ今日はヴェーバーの「社会学」にみられる独自な方法とその意味を皆さんと一緒
に考えてみようと思うのであります。
さてヽヴＩＩバーの「社会学」のばあいにも、認識の対象になるのは、社会をなして生活し
ている生きた人間諸個人であります。それか出発点であり、また最後まで認識の対象となり続
けるわけです。マルクスのぱあいも、或る意味で同じであることは前回に説明いたしましたか、
彼のばあい、さしあたって経済という文化領域に視野を限定する、そうした抽象化かおこなわ
れるのに対して、ヴェーバーのばあいには、認識対象は研究のどの段階でも、重点の差異はあ
れ、終始さまざまな文化諸領域に手足や頭をつっこんだ、そうした生きた人間諸個人でありつ
づけるわけです。だからまた、経済的利害状況に押しうごかされつつも、それぞれ自由な意志
をもち、さまざまな目的を設定し、そのための手段を選択し、決断しつつ行動する、そういう
人間諸個人が認識の対象となりつづけるわけであります。
それでは、ヴＩＩ‐‐・バーのばあい、そういう生きた人間諸個人の営みというか、あるいは彼ら
の行動の軌跡ともいうべき社会現象を対象として、どうして科学的認識か成立することになる
のか。言いかえるならば、そうした生きた人間諸個人そのものをいきなり認識の対象としなが
ら、しかも因果性の範疇を使用し、社会現象を因果的に説明したり、法則を設定したりするこ
とか、どうしてできるのだろうか。そうした問題が当然に出てくるわけです。そして、ヴＩＩ
バーもその学問的処理をもちろん怠っていないのですか、ただそのやり方は、前回に述べまし
たマルクスのばあいとひじ。うに違っております。そうしたヴェーバーの独自なやり方差これ
から説明していきたいと思うのですか、ただ、そのばあい、マルクスとヴェーバー両者の方法
か、この点についてもまるで無縁で、お互いにふれあうところかないというようにおとりにな
ると、それはこまるので、少々横道に入るようですか、少しばかりその点にふれておきましょ
このまえ申しましたように、マルクスのばあい、自然成長的分業によって惹きおこされるあ
の人間の疎外現象、それを通じて人間の営みか物化され、社会現象が自然現象と同じように科
学的認識の対象となりうることになるわけですか、マルタスがやった、こういう学問的手続に
照応することをヴェーバーがぜんぜんやっておらな・いのか、と言いますと、私は必ずしもそり
であるとは言いきれないと思う。というのは、マルクスは人間の疎外現象を通じて人間の営み
の歴史をひとつの自然史的過程とみ、そして自然科学のばあいと同じように理論的方法を適用
することかできるとしたのですが、それとある意味で同じことを、ヴＩＩバーは、違った視角
から、別の仕方でやっていると言えないこともないのです。もう少し具体的にいいますと、例
の「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」という論文で、さらに広くは彼の『宗教
社会学』、とりわけ「世界宗教の経済倫理」で彼が追求している問題かそれで、マルクスか疎
外の問題を追求したのも『ドイツーイデオロギー』という宗教批判の書物であったということ
と思い比べてみると大へん面白いのですか、ともかく、マルクスのばあいには、疎外の結果（た
とえば価値法則）をしっかりとつかみ、そこから経済学批判を展開して行くのに対して、ヴ１１ ５
バーのばあいには「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」その他で、そういう疎外
か生起してくる内的一心理的な過程（等価交換のエーおス）を逐一追いかけるという仕方で、結局
は同じ問題に取り組んでいるといってよいのではないかと思うのです。もちろん、そうした接
近の仕方のちかいとともに、それか取り扱われる理論のレベルもまたかなりちがってはおりま
すか、しかし、そのように対象的には両者たかいに重なり合いながらも、ヴェーバーの社会学
のばあいには、やはりマルクスの経済学とはまるでちがった社会科学の方法論か展開され、そ
してまた、そこにヴェーバー理論の強みも出てくれば、弱みも出てくることになるわけです。
か、ともかく、そうしたヴＩＩバー独自の方法の特徴をまず見ていくことにいたしまし。う。
さて、さきにも中しましたように、ヴェーバーの社会学のばあいには、その認識の対象は終
始生きた、自由な意志をもって行動する人間諸個人であります。しかも、そうだとすると、そ
ういう人間行動のいわば軌跡である社会現象を対象として、自然現象を対象とするばあいと同
じように、十分に科学と言いうるような、そういう認識かどうして成立しうることになるのか。
よく知られているように、マルクスのぱあいとちがって、ヴェーバーはさしあたって（インリ
ツヒーリッケルトの科学認識論を援用しながら、その問題に取り組んでいくのです。それを出
発点として彼の社会学の基礎理論を展開していくわけです。それはたしかにそうであり、事実
ヴェーバーはリ″ケルトの科学認識論をさかんに援用するのですけれども、ただ、はたして、
ヴェーバーの科学方法論か全部リ″ケルト哲学のなかにすっぽり入りこんでしまうのかどうか、
あるいは両方ぴったりと一致しているのかどうかという点になりますと、私はひじょうに疑義
をもつのです。むしろ、両者のあいだには何か本質的にくいちがうものかあるように考えるの
でして、いつか哲学に詳しい方の御教示をえたいと思っているところなのであります。（興味の
ある方は、安藤英治さんの前掲書を御参照下さい。）が、ともかく、そうした疑問をもつのも、そもそ
も私か一個の社会科学者としてヴェーバーのものを読むということに関係かあるかもしれませ
ん。というのは、こういうことです。マックスーヴェーバーは、メトディーク（方法論）という
ものをそういう仕方で整然と展開しておりますか、しかし彼はご承知のとおり科学方法論専門
の学者といった人ではなかったわけです。むしろ、方法論学者であるまえにすぐれた社会科学
者であり、厖大な業績を残しているのでして、じつは、そうした彼の社会科学の分野での具体
的な業績のなかから、方法論議のなかには必ずしもあらわれていないか、具体的な業績では盛
んに駆使されているような、そういう独自な方法を読みとることかできるようにも思うんです。
そういうもの・として見て行きますと、私には、どうしても、彼が方法論という形で展開して
いるものから本質的にはみ出すかもしれないもののなかに、彼の社会科学の方法−かなり広
い意味になるでしょうかＩを特徴づけるようなものか、いっそうはっきりと見られるんじゃ
ないかという疑惑をさえ、拭い去ることかできないのです。いろんなことかあるんですか、こ
こでその一つ二つだけを申しておきますと、ヴェーバーはシュパンスング（緊張）とかフリュッ
シッヒカイト（流動性）とかいうことをさまざまな個所で問題にいたします。彼が議論を展開す
るばあいに、いちばんかんじんなところでは必ず出てくる方法概念なんですか、彼のいわゆる
方法論のなかに、それかどういうふうに組み入れられているのか、私には必ずしもよくわから
ない。むしろ、狭い意味での方法論からははみ出しているようにさえ思われるのです。彼のい
うシュパンヌング（緊張）やフリュッシッヒカイト（流動性ないし移行）は、マルクスのばあいの
「矛盾」とはもちろん違いますか、しかし、まさに彼の「矛盾」に照応するような概念であり
まして、マルクスか矛盾という方法概念で対象をとらえていくところを、ヴＩＩバーなら、シ
ュパンヌング（緊張）とユーバーガング（移行）という方法概念を駆使しながら対象を処理して行
くのでありますか、これはここではこの位にしておきまして、また後で触れることにもなりま
し。うが、ともかく、そういう点だけでも、私にはリッケルトの科学認識論と彼の科学方法論
とか本質的に一致しているのかどうか、根本的な疑問をもつのです。が、しかし少なくとも彼
は形の上ではリッケルトの科学認識論を出発点として議論を展開しておりますので、私もまた
そういう形で、彼の問題追求のしかたを説明して行きたいと思います。
さて、リッケルトの科学認識論にしたかいまして、ヴェーバーも科学的認識の二つの途を考
えるわけであります。普遍的に妥当する関係概念としての法則を追求するような認識方向と、
それからもう一つ、普遍的なＩわれわれに判かりやすい表現を用いれば、歴史的なＩ意義
をもつ個性的な事物概念としての個体を把握しようとする認識方向とを峻別します。しかし、
彼はもちろん普通常識的にやるように法則追求の認識方向を自然科学に、個体把握の認識方向
を文化科学（あるいは社会科学）に結びつけてしまうようなことはしない。むしろ、この認識の二
つの途は、自然を対象とする自然科学のばあいにも、それからまた人間の営みを対象とする文
化科学（つまり社会科学）のばあいにも、どちらにも同じように見られるというわけたのです。そ
の点では自然科学も社会科学もちっとも違わないということを、リ″ケルトと同様に力説する
のです。
ところで、自然を認識の対象としたばあい、力学にその典型か見られますような、普遍的に
妥当する法則を最高の認識価値あるものとして、それをあくまでも追求していくという認識方
向か成りたちうることは、われわれの素人目にもよく判かるのですか、もう一つの、個性的な
事象の把握をめざす認識方向は、自然を対象としたばあい、どんな形で成り。たつというのでし
うか。それについて彼は、高いところから落下する岩石か粉々に砕けなから飛び散っていく
過程を例としてあげておりますか、こういうこともその例解となるわけでし。う。いま本土に
台風か近づいておりますが、南太平洋に発生したそうした低気圧か、いったいどこを襲うこと
になるのか、細かいところは正確に判からぬまま、結局九州南部に上陸し、日本本土を横断し
て、各地に暴風雨をひき起こすにいたったとする。そうしたばあい、その暴風雨について、最
初にそれか南洋で発生した個性的な事態や、また日本本土を襲うにいたった個性的な経過を逐
一迫いかけていく、そういうふうな認識の方向もあるわけですね。さきの力学のばあいには法
則それ自体か認識の究極目標となっていますか、台風のばあいには、その個性的な経過の認識
か究極目標となっているのでありまして、したがってその経過の個性的な因果関連の追求のた
めに、法則的知識が不可欠な手段として援用されるにしても、決して法則認識それ自体か究極
の認識目標となっているわけでないことは明らかでし。う。そういう個性的な因果関連を逐一
追いかけていくという認識方向を、誤って法則的知識の応用にすぎぬものとして、法則認識よ
りも学問的に認識価値のいちだんと低いものとするような考え方も広くみられるわけですか、
ヴェーバーはそういう考え方にはぜんぜん賛成しない。むしろそれを、法則認識に対立する独
自な認識方向としてとらえ、そしてこういうふうに考えるわけです。自然現象を認識対象とす
る自然科学のばあいでも、個性的な因果関連を追及しようとするばあいには、大筋はともかく、
それを細部にいたるまで完全に計測することなどはどうしてもできず、したがって将来の経過
を事こまかに正確に予測することなど原理的にできはしない。そういう予測不可能性といいま
すか、計測不可能性といいますか、芒ｎｂｅｒｅｃｈｅｎｂａｒｋｅｉｔ})という事態はどうしてもさけがたい。
つまり、そういう計測不可能という意味での非合理性というものなら、人間の営みである社会
現象だけに特有なものではなくて、自然を対象とするばあいでも、認識方向か個体の把握をめ
ざすかぎり、同じように見出されるのだ、というわけです。
このようにヴェーバーのばあい、そうした認識の二つの方向は、自然現象にも、社会現象に
も同じように成びたつというわけで、その点では自然科学も社会科学も根本においてかわらな
い。つまり、社会現象に関する科学的研究の認識方向を本質的に個性認識に結びつけてしまい、
そこから法則論的知識の成立の可能性やその本質的な意義を追い出してしまうようなことはけ
っしてしないわけです。ただ社会科学のばあいには、対象か生きた人間の営みでありますから、
因果性の範疇を用いながら、しかしわれわれはどうしても質を、量よりはいっそう質を問題に
しなければならなくなる。そういう意味で個性的な因果関連を把握しようとする認識方向のほ
うか、いっそう前面に出てき、法則論的知識はむしろそれの手段として背後に置かれるといっ
た性質がいっそう顕著になってくるのですか、しかしともかく、そうした点では社会科学は自
然科学と原理的に異なるところはないので、それどころか社会科学も自然科学と同じように囚
果性の・範疇を用いて対象を取り扱うのですから、そうした点で当然に科学的認識の名に値いす
ることになるというわけせす。
ところか、まさしくそうした点で、もっとも根本的な問題がおこってくるわけです。人間は
意志の自由をもっている。だから、どういう目的を設定し、またその目的のためにどういう手
段を選択し、どういう決断をしつつ行動するかということは、的確にはとうてい予測しがたい。
人間の自由な意志という非合理なものは本質上計測を許さないからだ。したがって社会現象の
ばあいには、因果関連というようなものを、とても自然現象におけるように的確に追求できる
はずかない。こういった疑問か当然起ってくるでし。う。ところでヴェーバーは、こういう考
え方にたいしてまっこうから反対する。そして逆に、人間の意志の自由の領域か拡大されれば
されるほど、社会現象における因果関連の追求はかえって容易になるのみか、一般に自然現象
のばあいよりも、社会現象のばあいのほうか因果関連をいっそう確実に認識し得るのだとさえ
言うわけです。このことはヴＩＩバー社会学の方法を特徴づける一つのポイントともなります
ので、少し念を入れてお話することにいたしまし。う。
さて、ヴェーバーの「社会学」のばあいには、その認識の対象は終始生きた、自由な意志を
もって行動する人間だということは、すでにくりかえし中しましたか、そういう生きた人間諸
個人というものは、どこまで意識的であるかは別といたしましても、とにかくたえずさまざま
な目的を設定し、その手段を選択して、決断をしつつ行動するのであり、社会現象はそういう
生きた人間諸個人の社会的行動の軌跡にほかなりませんから、およそ社会現象のなかには、人
間行動における目的−手段の連関、いわゆるテレオロギー、目的論的な関連か奥深く含まれて
いることは中すまでもありません。したがって社会現象のなかでは、自然現象のばあいとちが
って、そうした目的’手段の目的論的な関連というものを辿っていくことかできるわけです。
そして、それは社会科学の研究にとって無意味でないばかりか、本質的に重要なことでもあり
ます。しかし、大切な点は、そうした目的論的関連の追求は、原因‐結果の連関を辿っていく
因果関連の追求とは、相互に本質的な関わりあいをもちながらも、それ自体としては全く別の
ことだということです。これは私、いちばんかんじんなところだと思います。ともかく、目的
論的な関連は因果関連とは違ったものですから、社会現象のなかにいくらそうした目的論的な
関連を追求しても、それだけでは、自然科学か科学であるというような意味において、科学的
認識は、したがってすぐれた意味での社会科学というものは、どうしても成りだちえません。
それでは、いったいそうした社会現象を対象としながら、どうしたら因果性の範疇を使用し
十分に科学的と呼ぶにふさわしい認識を成立させることかできるのか。この難問について、ヴ
ェーバーはじつに明快な解決をあたえております。そして、そのことによって、そうした目的
論的関連を含んでなりたっている社会現象を対象としても、われわれは因果性の範疇を使用し ゜
て十全な意味で科学的認識を成立させることができるんだということを根拠づけているのであ ″
ります。その解決の仕方を私は「目的論的関連の因果関連への組みかえ」というふうに呼ぶの
ですか、それはどういうことかと中しますと、だいたいこういうふうに説明したらよいかと思
います。ある目的を設定し、そのための手段を選び、そして決断しつつ行動することによって
一定の結果をもたらすということは、われわれの主観においては、たしかに目的一手段の連関
として意識されていますか、それを客観的な過程のなかに置いてみますと、それはそうした行
動を惹きおこした少なくとも原因の一つとして働いているわけですね。つまり客観的には、そ
れは一つの原因―結果の関連ともなっている。ともかく、こうして目的−手段の関連をたえず
原因１結果の関連に組みかえていけば、社会過程における客観的な因果関連か逐一たどってい
けることになるわけです。しかし、そうした目的一手段の関連を原因−結果の関連に組みかえ
て行くことは、いったい、どういうふうな手続によって可能になるのでしょうか。じつはそこ
に彼のすばらしい着想か出てくる。それか有名な「理解的方法」ｖｅｒｓtｅｈｅｎｄｅ Ｍｅtｈｏｄｅなので、
彼自身の表現を借りると、「社会学とは、社会的行為の〔主観的に思われた〕意味を解明しつつ
理解し、それによってその経過と影響を因果的に説明しようとする学問」だということになる。
つまり社会科学的な認識のばあいには、そうした自然科学にはみられない、動機の意味理解と
いうことがつけ加わってくることになる。そしてまた、このあたりでリ″ケルトの方法との相
違もはっきりしはじめてくることは、自分でもみとめているとおりであります。
そこで、さきほど申したことをもう一度思い出しなからその点を説明してみますと、こうい
うことになるでしょうか。普遍的に妥当する因果法則を追求するという認識の方向と、それか
ら個性的な因果関連を追求するという認識の方向、これは自然科学のばあいと同じように社会
科学のばあいにも両つなから成り立つのですか、社会科学のばあいには、対象か自然ではなく、
意識をもち行動する、そうした生きた人間諸個人なのですから、その因果関連を確実に追いか
けていくには、自然科学にはみられない独自な方法、つまり動機の意味理解という手続をどう
してもふまねばならない。のみならず、それによって因果帰属は自然科学のばあいよりかえっ
ていっそう確実なものになるとさえヴェーバーはいうのですか、それはこういうことなんです。
たとえばさきほど中しました台風の例をとって考えてみますと、最初南太平洋で起った一
つの低気圧か大きな弧を描いて日本本土を襲うという個性的な経過について、気象学者たちは
さまざまな法則論的知識をば使いまして因果帰属を確かめながら、その個性的な経過のなかに
みられる因果関連を追いかけ、またできるだけ正確に将来を予測しようとする。つまり、普遍
的に妥当する法則を追求するという認識方向によってえられた法則論的知識を援用しなから、 Ｉ
個性的な因果関連を明らかにしていこうというわけです。ところで、社会現象のばあいにｌ、 ６
それと原理的には同じことか行なわれるわけです。たとえば、経済学における景気の分析や予
測のことをお考えになればよくお判かりのことと思います。そして、そういう点では自然科学 ６
のばあいとまったく同じことなんですか、ただ社会科学のばあいには、単なる外面的な経験に
よって得られた規則性というか、そういう法則論的知識に加えて、動機の意味理解という手続
をとることによって因果関連の認識か成りだつばかりか、いっそう確実になると、ヴェーバー
はいうのです。というのは、人間の行動のばあいにはそうした行動をとる意味かわかるわけで
すか、自然現象にはそういうふうな意味などあろうはずがありません。詩人は自然を見て、な
にか自然か非常に悲しんでいるとか、怒っているとか、そういうふうに感するかも知れません
か、科学的にみるばあいには、自然にはそうした意識などありようはずかないと考えるほかは
ありませんね。そんなこと言い出したら、科学は成り立ちませんから。つまり、自然現象のぱ
あいには、科学者かその意味を問うというようなことはぜんぜんありえないわけですか、人間
の営みについては、人々かどういうわけでそういう行動をするのか、その動機のもつ意味かわ
かるわけで、そしてそれによって、単なる経験的規則性によるよりも、確実に原因−結果の連
関をたどり、また将来を予測することかできることになる。早い話が、われわれの個人的交際
のばあいでも、或る友人のやることをずっと見ているだけでなく、彼はどういう動機でそれを
やるのか、その意味かわかると、こんどはこういうばあいに彼はどういう行動をするだろうか
ということをいっそう確実に予測することかできるわけですか、もう少し別の例をとってみま
すと、たとえばある街角か何曜日の何時ごろかにいつも人出で混雑するとします。が、そうし
た経験的にたしかめられる混雑のくりかえしだけではなくて、その人出がたとえばその近くに
ある野球場へ野球を見にいくためのものだというふうに、そうした意味かわかりますと、その
混雑の因果関連か確実にみとおされ、将来における混乱の日時や程度がいっそう正確に予測で
きるようになるということは明らかでしょう。
そういうふうに、ひとびとが主観的にどういう意味をこめて目的を設定し、手段を選択しつ
つ行動しているのか、彼らの行為の意味を理解し、いわば追体験することかできますと、それ
を介して、社会現象における因果関連を確実においかけ、また予測することかできる。そうい
う意味で、社会現象を対象として、自然科学のばあいと同じように、十分に科学的と呼ばれて
よいような認識か成立し得ることになるというわけなのです。しかもそのばあい、人間の意志
の自由か増大するということは、じつは人間がいっそう合理的に行動するようになるというこ
とでありますから、人間の意志か自由になればなるほど、ますます彼らの行為の主観的に思わ
れた意味は学問的に解明し理解しやすくなりますから、社会現象における因果関連はいっそう
辿りよくなる。つまり、意志の自由ということは、社会現象を対象とするところの社会科学的
認識を、程度の低いものにするどころではなくて、かえっていっそう確実にするものだとさえ、
ヴェーバーは言うわけです。ともあれ、彼のばあい、現象のうちにみられる経験的規則性の確
認だげではなく、さらにもう一つ重要な「理解」という手続を加えることによって、因果性の 64
範疇を的確に使用することかできるようになり、社会科学における客観的認識か成立すること
になるんだ、というふうに説明するわけなのであります。
*