「共同体」とは、いったいどのような社会関係であり、そしてまた、どのような物質的基盤の上に立つものなのであろうか。われわれはさしあたって、きわめて一般的に、このような問題からはじめなければなるまい。
　そして、まずその手がかりを、経済学の研究成果のなかに求めることにしようと思う。もちろん、経済学の本来の研究対象は近代の資本主義社会――その内部的編制および運動の法則――そのものであるが、しかしそうした対象の分析と解明を通じて、経済学は資本主義以前の諸社会の基本構成をも資本主義社会との対比において照し出すという成果を、いわば副産物としてあげているからである。そうした成果のうち主要なものとして、さしあたって次の二点を指摘しなければならない。
　第一。『資本論』第一部、冒頭の「商品」の構造分析が行われている個所で「商品」との対比において、いわば間接的にではあるが、資本主義以前の諸社会においては社会の「富」がそれと原理的にまったく異なった形態規定のもとにあること、そしてそれを支える生産関係が「共同体」に他ならぬこと、が指摘されている。「社会的分業は商品生産の実存条件であるが、しかし逆に商品生産は社会的分業の実存条件ではない」。というのは、資本主義以前の諸社会においては「有用的諸労働は相互に独立的に私事として営まれる」ことなく、社会的分業は「共同組織」として編制され、したがってそのもとで「富」は「直接に社会化された」形態をとる。そこでは、「共同組織」という外格にはめこまれて「労働の自然的形態が、労働の特殊性が――商品生産の基礎の上でのように労働の一般性ではなく――労働の直接に社会的な形態である」。念のためにいえば、このようなばあいにおいても、部分的には、つねに多かれ少なかれ何らかの形での商品生産をともなって現われはするが、そうした商品生産は「共同体」という主要な関係に対して、「一つの従属的役割を演ずるに過ぎない」のである。
　第二。ところで同じく『資本論』第三部で、資本主義的地代の理論的解明ののち、それとの対比において資本主義以前の諸社会における地代の歴史的規定性――それが余剰労働一般の正常的形態であること――が明らかにされている個所では、資本主義以前の諸社会にあっては「土地」あるいは「土地所有」がなお生産の主要条件として、他の動産所有に圧倒的に優越するものとして現われている事実が指摘され、さらにまた次のようにも述べられてべられている。「……本来的自然経済のもとでは大所有地（ここでは「土地」）の生産物および余剰生産物は決して単に農業労働の生産物のみから成り立つのではない。それは同じように工業労働の諸生産物をも包括する」と。少しく説明を加えるならば、そうした諸社会においては、他ならぬ「土地」が、多かれ少なかれ、その上でおこなわれるあらゆる労働のための包括的な「主要な生産条件」をなしており、それに照応して「土地」は、そのなかにあらゆる種類の労働生産物をその「自然的形態」のままで、したがってそうしたすべての個別的な「富」をその「特殊性において」「直接に」包みこんでいるところの、「富」の包括的な基盤−あるいは原基形態といってもさしつかえなかろうＩとして現われている、というのである。
　このような「富」の包括的な基盤ともいうべき「土地」こそが、他ならぬ「共同体」がまさにそれによって成立するところの物質的基礎となるのであり、したがって、後にみるように、「共同体」が何よりもまず占取するところの対象となるのである。われわれはまず、このような基本的事実を確認することから出発したいと思う。それでは「土地」とはどのようなものであろうか。われわれはそれをどのように理解すべきであろうか。最初にこの点について、少しく立ち入って考察しておくことが必要であるように思われる。なお、ついでながら、「土地」という語にはときにある種の近代的な観念がつきまとっているので、さしあたっては、むしろ、これまたしばしば用いられている「大地」という語がわれわれにあたえるところの表象をまず思い浮べておいたほうがよいかも知れない。すなわち、「土地」とは、やや立ち入っていえば、一定の社会をなして生産しつつある人類によって「占取」された限りにおける「大地」――生産の原始的な客観的条件としての「大地」――の一片に他ならないからである。

　　（３）　ここで念のため次のような諸章句を引用しておくことにしよう。「原生的な部族的共同態は……彼等の生活およびたえず再生産される対象的活動の客観的諸条件の占取の第一の前提である」。「労働主体が自然的個人であり、自然的定在であるごとく、彼の労働の最初の客観的条件は自然、大地として、彼の非有機的肉体として現われる」。「大地は労働手段のみならず、労働素材を、さらに共同体の居住地、基地をも提供するところの大仕事場であり、武器庫である。人々は共同体の所有としてのそうした大地に素朴に関係する」。「原始的な労働要具のみならず、仕事場、原料貯蔵所としての大地、そうした自然的な労働条件の占取は、労働によるものでなく、労働に先行している。……労働の主要な客観的条件はそれ自体労働の生産物として現われることなく、自然としてすでに存在している。……それは、あたかも、皮膚や感覚諸器官が生活のうちに再生産され発展せしめられるにしても、やはりそうした再生産の過程に対して前提となっているのと同様に、彼の活動の前提であって、単なる成果ではない」。「生産の原始的諸条件は……根源的にはそれ自身生産されたものＩ生産の成果ではありえない。……生きた活動的な人間と自然的な非有機的諸条件との統一。……労働自体が……生産の鈩扣か郎舮かとして、家畜と並んで、あるいは大地の付属物として、その他の自然物の系列のうちにおかれることとなる。言いかえれば、生産の原始的諸条件が自然的前提、つまり生産者たちの自然的な実存諸条件として現われることは、あたかも彼の肉体が、彼によって再生産され発展せしめられるにもせよ、根源的には彼によって措定されたものでなく、むしろ彼自身の前提となっているのと全く同様である」。「生産の外的な原始的諸条件−大地は原料、要具、果実からなっている。……生産の原始的諸条件はそもそも直接に、労働を加えることなしに、果実、野獣などの消費資料をそのうちに包含している。すなわち、消費資財はそれ自体原始的な生産資材の構成部分として現われている」。「土地は伏能的に、そのなかに原素材のみならず原始要具の、また大地のみならずその原生的果実の所有をも含んでいる。最も原始的な形態のうちにおかれているということは、占取者として大地に関係することであり、そのうちで原素材、要具、そして労働によってでなく大地自身によって作られた生活手段をみつけることである。この関係がすでに再生産されたものとなってのちは、第二次的な要具や労働そのものによって作り出された大地の生産物が原初的な形態の土地のなかに包みこまれたものとして現われるようになるのである」。