「大地」とわれわれが呼ぶところのもの（水もその中に含まれる）は、人間にとって、本源的には居住の場所のみならず、食糧やその他既成の生活手段を貯蔵するいわば天与の大倉庫として現われる。人間は労働過程に入るに先立って、むしろ生産活動の前提として、それを自然から与えられたものとして占取するのである。大地のこのような根源的な性質は、歴史をはるかに溯って原始的ないわゆる「採集経済」の時代に目を向けるならば、おそらく疑問の余地なく明瞭となるであろう。しかし歴史上、人間の労働過程にとって大地のもつ意義はもちろんそうした天与の生活手段の大倉庫というような点につきるものではない。というのは、大地は人間に独自な、全く独自な生活過程である生産活動（＝労働過程）に対して、そのために必要な原始的な客観的諸条件（原始的生産手段）の堆積という意義をもおびて現われるからである。このばあい原始的というのは、人間の手が加わることなしに、なお伏能的に自然から与えられたままのものであるということ、労働の成果ではなくて未だ自然そのものであることを意味する。すなわち大地は、「土地が富の母であるように労働は富の父である」などともいわれるように、生産のための原始的な客観的諸条件が、あるいは、素材的観点からすれば一切の生産活動がその上で展開されるところの基礎的な客観的諸条件がそのなかに原始的な形のままで包括されているところの自然そのものであり、したがってそうした原始的生産諸手段の天与の一大倉庫ともいうべきものなのである。人間は生産活動の前提として、こうした「大地」甲―の諸断片を占取する。そして、そのように占取された限りにおける「大地」が他ならぬ「土地」なのである。
　このようにして「土地」は、まず、生産する諸個人にとって彼らが自然から与えられた労働の場所であり、天与の仕事場であるばかりでなく、生産活動にとって必要不可欠な原始的労働諸手段の一大倉庫を形づくっている。たとえば、捕獲されうる水中の魚類、伐採されうる原始林の木材、採掘されうる鉱石などのように、労働によって直接に大地から取り出される一切の物を思い浮べてみるがよい（それらの物は労働によって大地から切り離されたとたんに第二次的な消費資料や原料に転化する）。「土地」は、さらに、彼らの原始的な労働手段の武器庫でもある。たとえば、投げたり、突いたり、打ったり、切ったりする原始的な労働手段としての石材や木材は、自然から与えられたものとしてまずその「土地」のなかに見出される。ところで、「労働手段の創造と使用は……独自的、人間的な労働過程を性格づける」といわれるように、「労働過程は、いやしくもほんの幾らかでも発展しているならば、すでに加工された労働手段を必要」としはじめており、しかも「労働手段は人間の労働力の発展の測度器である」ともいわれるように、労働の生産性が上昇するに伴って、第二次的の、生産された生産手段（労働要具、原料、助成材など）、なかんずく加工された労働手段はその種類と数量をしだいに増大してくる。しかし、それにもかかわらず、いまわれわれが当面するような「共同体」成立の物質的基礎が問題とされているかぎり、言いかえれば、そうした生産力の発展段階に止っているかぎり、それら第二次的の、生産された労働手段は、これまた生産された労働対象（原料）や消費対象とともに、未だ母なる大地の懐のうちに、「土地」のなかに、なお包みこまれたものとして現われざるを得ないのである。そのことは、そうした生産力段階にあっては、労働主体がなお多かれ少なかれ自然的個人として――自然的であるが故に彼らは必ず何らかの形の「共同組織」に所属している――自然的な労働客体である大地に付着し、いわばそれにじかに働きかげねばならぬ関係に立っているために、人間自体さえもが大地に密着して生産の非有機的条件として現われざるをえないという事実、あるいは多かれ少なかれ大地の付属物として、家畜とならんで、客観的な自然物の系列のうちに埋没されて現われるという事実、に対応している。これは、生きた活動的な人間とその対象条件である自然の原始的な直接的統一ともいうことができようし、また人間がなお母なる大地の懐に抱かれたままの状態ともいうこともできよう。もちろん、歴史上労働の生産性が上昇するに伴って、労働主体である人間は、「労働力の発展の測定器」であるのみでなく「社会的諸関係の指示器」でもある諸労働手段ともども、母なる大地の胸からしだいに離れて独立の形態をとり始めるが、しかしそれらが完全に分離しきるのは、労働力についても、また労働手段についても、いわゆる原始的蓄積という一時期を経過することによってであることは、決して忘れないでいてほしいと思う。こうして、当面「共同体」成立の物質的基盤として問題とするかぎり、「土地」は何よりもまず何らかの度合においてあらゆる生活手段、生産手段および生活資料、そしてさらには労働主体である人間をさえもその中に包含するところのものなのであり、そうしたいわば天与の「倉庫」ないし「宝庫」という性格をおびて現われることになる。なお、ついでながら一言しておけば、労働主体である人間およびその労働手段の土地からの分離の度合は、後段において、「共同体」諸形態の差異を生みだす一契機として考察されることとなるであろう。

　（４）　さまざまの派生的な諸形態にまで目を広げるならば、「土地」のうちに包含されている物質的利害は、物質的利害だけでも、おそろしく多種多様であるといわねばならない。