以上のように、「共同体」成立の主要な物質的基盤をなす「土地」は、その内部に原始的な生活諸手段の堆積を包みこんでいるところの自然それ自体、ないしはその諸断片にほかならない。人間はそのなかから、原始的な生産諸手段のみならず、さらにある程度まで労働によって加工された生産諸手段をも、また生産諸資財のみならず消費諸資財をも、見つけだすことができる。われわれがいま問題としている生産力段階においては、人間はそうした「土地」に密着してのみ自己の生活を再生産できるだけでなく、その限りで、自己の生活を十分に再生産できるのである。こうして「土地」は、比喩的に、「天与の宝庫」とも表現することができるであろう。実際また、「共同体」を構成する当の労働諸主体Ｔ諸個人）にとっても、あるいは神授の賜物、あるいは君主の恩恵というように、種々な度合でカリスマとして意識されていたのであった。
　　　壮麗なインダスの大河よ。　　　　汝の流域は馬と車ゆたかに、
　　　黄金、数知らぬ織物、穀物　　　　また羊毛と青草にみちたり。
　　　ひろびろと広がる平野は　　　　群れ咲く花にておおわる。
　しかしこの「宝庫」は、現実には、「額に汗する」はげしい人間労働によってのみ開くことができるのであり、また開かねばならない。したがって、古代イスラエル人のばあいのように、それが「呪いのもと」にあると意識されることもありえた。それはともかく、労働主体としての人間（＝共同組織に編制された諸個人）はこの「宝庫」を直接に占取し、自己の「労働」という鍵をもってその扉をひらくのである。
　　　牛を犂につけ、これに軛をおけ。　　　　大地の懐ふかく種をおろせ。
　　　われらの讃歌に穀物熟るれば、　　　　鎌は実りを畑より刈り取る。
　　　大地を切り開く犂に牛を繋ぎ　　　　これに軛をおけば、賢者は
　　　天つ神々に作物を実らせ　　　　たまえとの祈りをささぐ。
　「共同体」がその上に築かれるところの物質的基盤は、何よりもまず、こうした「土地」の占取なのである。「共同体」――原生的なものであれあるいは何らか歴史的にいっそう緩められた形のものであれ――は「土地」を直接に占取し、自己の生活および社会関係の再生産の物質的基礎としてこれに関係する。すなわち、諸個人の単なる「共同態」はこうした「土地」の占取によっていっそう内容豊富な「共同体」に生成するのである。つまり、近代以前の、「共同地体」という基盤の上にうちたてられた生産諸様式のもとにあっては、このような意味における「土地」の占取あるいは占取された「土地」が、つねに何らかの姿で「富」の包括的な原基形態を形づくっているといわねばならない。
　なお、このような「土地」の宝庫的性格についてここでいま一言だけ付加しておきたい。これはおそらく容易に推測しうることであろうが、歴史上労働過程がいくらかでも発展してくると（とくにたとえば定住にともなって）、人間は自己が直接に占取する「土地」のなかから必要な生活手段――必需品にしろ奢侈品にしろ――のすべてを必ずしもつねに獲得できなくなってくる。それはさしあたって、地味や地下埋蔵物やその他の諸条件の地域的相違によって生じてくるのであるが、たとえば、塩や青銅、鉄、また家畜や穀物などのように歴史上早くから「共同体」間の交換の対象となった諸物資を思い浮べてみるがよい。そして、このような「共同体」間の商品交換がある程度展開し、素朴な形ではあれ貨幣とよばれるべきものが発生してくる――これはきわめて古いことである――と、特定の「土地」において不足する種々な物資を、いわば伏能的に自己のうちに包含するところの「貨幣」が、まさしく宝庫としての　「土地」の欠けたるを補うものとして現われるようになり、こうして、「土地」の補充物として「貨幣」の堆積が形づくられるようになってくる。まさに文字どおりの「宝庫」が作られるようになる。たとえば、古代東方諸国やギリシアの神殿、ローマの公立銀行、中世の封建領主や農民、手工業者たちを悩ましつづけた金融乙扼など、簡単な事実を考えてみるだけでも、その意味をある程度まで了解しうるであろうが、この点後段において前期的資本を取扱うさい、別の関連でいっそう立ち入って考察するつもりである。