およそ「共同体」は、それがどのような転化形態であるばあいにも、ともかく「土地」を占取し、成員である諸個人の労働をもって鈩舮それに関係することによってヽ自己を現実に「共同体」として再生産していく。このことはすでにくりかえし述べておいたとおりである。ところで、これに関連してわれわれは、そのさい占取の対象となる「土地」が内包するところの自然的および歴史的な諸契機の如何によって、「共同体」の存在形態が根底的に制約され、規定されることになるという事実を、つぎに問題としなければならない。ただし、さしあたって、そうした「土地」の内包する諸契機のうち、とくに歴史的な諸契機に主として注目することになるが、ともかく、われわれはここでも前述したような「土地」の経済学的意義を想起しつつ問題を一歩一歩展開していくこととしよう。
　すでに見たように、「土地」とｕ、まず、その内部に原始的な生活諸手段の堆積を包みこんでいるところの自然の諸断片であり、そのなかには単に既製の原始的生産諸手段ばかりでなく、種々な原始的消費諸資財をも包含するところのいわば天与の宝庫であった。さらにそれに関連して、次のような重要な指摘がなされていたことも想起してほしい。すなわち、天与の宝庫ともいうべき「土地」のなかには、人類の労働過程がおよそ幾らかでも発展しているばあい、単に原始的な生活諸手段ばかりでなく、さらに労働によって加工され獲得された諸手段、とくに生産された労働要具が含まれているということである。すなわち、われわれが当面問題としているような生産諸力の発達段階にあっては、そうした労働によって生産された労働諸要具もなおまだ、近代におけるように「土地」から分離され完全に独立な姿をとることがなく、何らかの程度において、「土地」の付属物としていわばその外枠の中にはめこまれたままでいる。しかも、そのばあいきわめて重要なのは、「共同体」がそうした「土地」を自己の生活の客観的条件として占取するに際して、そのうちに包含されている諸種の生産手段や消費資財のなかでもとくに生産された、すなわち労働によって加工されたものについては、その占取の仕方に、ヽ他と異なった一定の決定的な特徴が、しかも歴史上われわれの溯りうるもっとも古い時代からすでに現われていることである。すなわち、富の包括的な基盤である「土地」そのもの、さらには「土地」のなかに包括されている原始的な（すなわち労働が加わっていない）生活諸手段は、さしあたって、まず「共同体」全体によって占取される（「共同態」的占取ないし共同占取）のであるが、これに対して、何らかの形ですでに労働が加えられ、生産活動の結果としてえられた生活諸手段のばあいには、共同労働によってえられたものを別とすれば、それらは、自己の労働でそれを生産した当の個々人によって、私的に占取される（私的占取）のをつねとした。これはきわめて古い時代からのことで、研究史上匕つは階級社会成立以前の「原始共同態」の段階からすでに見出されるものと想定されており、また事実、民族学や文化人類学の豊富な成果は「到るところの未開民族の間で、武器や道具ばかりでなく、人間が自分で生産し、もしくは生産したものと交換によってえられたすべての使用対象も彼の所有物とされており、しかも男性ばかりでなく既婚の女性も、自分の使用および需要のために生産した対象については承認された個人的所有権をもっている」ことを伝えてぺ琵。ついでながら、生産物交換という現象がこれまたおそろしく古い時代から見出されることも、この事実と深く関連しているといわねばならない。

　このようにきわめて早くから個人的な私的占取の対象となったところの白砂かかか生活諸手段のう气とくにか舮要具については、さらに一言の説明を付け加えておかねばならない。どのように幼稚なものであれ、生産された労働要具が存在するという事実は人類の労働過程がすでになにほどかでも発展を開始していることを意味するが、さらに、生産諸力の進展にともなって生ずるそうした生産された労働要具の種類と数量の増大は、またおのずから「分業」の形成および拡大として現われるほかは心心。すなわち、労働の生産性の増大は分業の進展として現われ、その結果、そうした分業労働の個々の担い手たちの掌中に、おのずから、生産された労働要具の蓄積をよびおこしていくことになる。したがってまた、後述するように、労働要具の私的占取と蓄積の問題は、つねにそうした社会的「分業」の進展との相関において捉えられねばならぬ、ということにもなってくるのである。ところで、すでにしばしば指摘されているように、分業のもっとも古い形態は男女両性間の性別分業である。これは、生産された労働要具の発生とともにきわめて古いようで、もちろん無階級の原始共同態の段階からすでに開始されている。これについで農耕と牧畜が分化し、さらに「青銅」製、ついで「鉄」製の武器（刀）や犂、斧などが生産されるようになるとともに、手工業もまたはっきりと独立した形態をとりは匕める。そして、あたかもこうした生産諸力（＝分業）の展開に並行して、人類は英雄時代を経過しつつ野蛮状態から文明の段階に入りこむことになるのであって、このことはすでに研究史上知られているとおりである。それはともあれ、たとえば、しばしば無階級的「部族」共同態（あるいはいわゆる氏族制社会）の典型として紹介されているところの、白人文明に接触する以前の北米インディアン人種イロクオイ族について、次のような事情が報告されているので、ここで簡単に紹介して心付。−彼らの間には私的な土地所有なるものはなく、大家族の居住するいわゆるｌｏｎｇ ｈｏｕｓｅ付属の庭畑も、利用されるかぎり私的に占取されるに止って、相続されることはなかった。ところで、土地と異なって、衣服、道具、武器、丸木舟、台所道具などの動産は私的に占取され、夫と妻の間にもそうしたものの共同の占取ということはなかった。たとえば、夫に属するものとしては武器、道具、狩猟具、丸木舟、衣服など、妻に属するものとしては壺、籠などの台所用具、世帯道具、衣服、装飾品などがあり、妻のものはその娘および姉妹とその子たちに、夫のものは兄弟姉妹および母方の叔父たちによって相続された。このような占取関係には次のような分業状態が対応していた。男女両性はそれぞれ別個の労働領域をもっており、大体において、男性のそれは戦闘、狩猟、漁獲、武器、道具、丸木舟、雪靴などの製作、ｌｏｎｇ　ｈｏｕｓｅや木柵、土壁などの建造、その他一切の開墾や伐木など、女性のそれは庭畑や外畑の耕作、胡桃や球根などの採取、陶器や筵、籠の製作、衣服の調製や煮焼などの家事であった。