「富」の包括的な基盤である「土地」を「共同体」が占取し、それによって自己を現実に「共同体」として再生産していくばあい、以上述べたような「土地」の基本的な規定性からして、「共同体」内部にはいやおうなしに「固有の二元性」がはらまれてくることになる。「固有の二元性」とは、いうまでもなく、土地の共同占取と労働要具の私的占取の二元性であり、「共同体」の成員である諸個人のあいだに取り結ばれる生産関係に即していえば、「共同態」という原始的集団性と、そのまっ只中に、それに対抗して新たに形づくられてくる生産諸力の担い手であるところの私的諸個人相互の関係、そうした二元性である。あるいは「共同体」に固有な「内的矛盾」（＝生産力と生産関係の矛盾）といいかえても差支えないであろう。ところで、いわゆる英雄時代以前の無階級状態に照応するような、生産力の発達の未だきわめて低度な段階（すなわち原始共同態）にあっては、こうした「固有の二元性」あるいは「内的矛盾」はなおいわば眠ったままの状態にある。あたかも、私的に占取された幼稚な労働要具が、共同に占取された外枠である大地の懐になお深く埋没しきっており、それ自身として独立にはほとんど用をなさないのと同様に、幼弱な自然的諸個人もまた未だ共同態的関係のうちにいわばまったく眠りこんでいるのであって、したがってそのばあい共同組織はなおさしあたって全く血縁的な「原始的共同態」そのままの姿で現われるのである。もっとも、ひとくちに「原始共同態」といっても、そのうちには、さきにも触れておいたように、たとえばタスマニアやオーストラリアの一部のきわめて低度な土人にみるような単なる原始的「群団」Ｈｅｒｄｅｎwｅｓｅｎから、またたとえば、モーガンによって明らかにされたアメリカーインディアン、イロクオイ族にみるように、いわばそれなりに極度の発達をとげてまさに階級分裂を開始しようとしているような段階に立つ「部族共同態」にいたるまでの種々な形態が含まれており、かつそれらの間には一連の発展系列が形づくられているのであるが、ここではそのうち、「農業共同体」への移行直前にあったともいうべき前述のイロクオイ族のばあいを例にとって、「共同体」諸形態の歴史的展開にいわば原型を与えることになる「部族共同態」なるものについて、簡単な説明をおこなっておくこととしたい。−アメリカーインディアンの一支族であるイロクオイ族は、はじめてキリスト教の伝道師が彼らに接触したころ、五個ないし六個の「部族」Ｓｔammからなる連合体の形をとっていた。各「部族」はそれぞれ二個の「大氏族」 （あるいは「胞族」に分かれており、それらは軍事上、宗教上の基本的共同組織を形づくるとともに、相互に母系的族外婚制のいわゆるＨｅｉｒａｔｓｋａｒｔelleをなしていた。「大氏族」はさらに「トーテム団体」の性格をもつ多数の「氏族」Ｓｉｐｐｅ｢（ｊｅｓｃｈｌｅｃｈｔｅｒｖｅｒｂａｎｄ たとえば、狼・海狸・鷸・亀・毬・熊・鹿・鰻（オノンダガ部族の例）や熊・海狸・亀・鹿・鷸・蒼鷺・鷹（セネカ部族の例）というようにＩからなっており、この「氏族」はまたそれぞれ数個の「大家族」（rfoｓｓfamilie（=Ｆａｍｉｌｉｅｎｓｉｐｐｅ）に分かれていた。イロクオイ族のばあい「土地」占取の主体は明らかに「部族」自体であって、各部族はそれぞれ固有の特別地域（ゲルマンの歴史にみる用語をかりれば、マルク）をもっていた。「部族」の成員たちは大小さまざまの「村落」をなしてすみ、各「村落」には集会所（それはいわゆるＭａｎｎｅｒｈａｕｓでもあった）を中心に一四ないし二〇のいわゆるｌｏｎｇ　ｈｏｕｓｅあり、そのｌｏｎｇ　ｈｏｕｓｅで各「大家族」の共同生活が行われていた。母系制の必然的な結果として「村落」内には種々のトーテム団体（＝氏族）の成員が混住しており、そのことからしても「氏族」や「大氏族」が自分の特別地域としての土地Ｔマルク）をもっていなかったことがわかる。諸個人（というよりは、諸家族）による土地の利用は「部族」全体によって根底的に規制されていて、「土地」の私的所有なるものは未だ見られず、ｌｏｎｇ　ｈｏｕｓｅ付属の庭畑なども、さきにみたように、私的に利用されていたものの、そのばあい私的な占取は利用される限りのことであって、相続されるというようなことはなかった。「氏族」にも「部族」にもすでに世襲の族長その他が現われはじめていたが、彼らはなおいわばその個人的カリスマによって全体から選出されたところの、いわゆるｐｒimｕｓ　inｔｅｒ　ｐａｒｅｓ（同等人中の第一人者）であるに止り、その権能も具体的にはなお「部族共同態」の会議に従属するものに過ぎなかった。