さて「原始共同態」においても、その初期には集団それ自体が基本的な生産力として現われるのであるが、しかし、さきにも示唆しておいたように、その内部における生産諸力のいっそうの発展は、いまや何よりも「分業」の展開として、すなわち個人的な生産諸力の新たな形成と拡充という形をとって進展することになっていく。こうして、生産諸力の発達にともなって、とくに牧畜から定着農耕への移行の過程に、「共同態」をなして生産しつつある諸個人のもとに「生産された労働要具」の私的な蓄積がしだいに増大してくる。しかも、。分業関係の自然発生的な性質の結果として、その蓄積は当然に各個人間に不均等に、性別からいえば、とくに男性の手中に集中しはしめる。そして、それとともに、「固有の二元性」ももはや「原始共同態」の内部に眠ったままでいることができなくなり、しだいに古い部族組織の血縁関係の枠を内側から突き破りは匕める。そしてその結果として、もはや単なる原始的な「血縁共同態」ではなく、すぐれて「共同体」とよばれるにふさわしいような生産様式が生れてくることになるのである。このような変革が遂行されるのは、モーガンの有名な表現をかりれば、「野蛮の上段」とよばれる発達段階に相当するのであるが、世界史のいわば曙の時代に重要な文化諸民族が経過したそのような変革過程について、フリードリッヒーエングルスは次のように説明している。「この段階は、生産の進歩において、それ以前のすべての諸段階の総和よりもなお豊かであった。英雄時代のギリシア人、ローマ建設より少しまえのイタリア諸部族、タキトゥス〔時代〕のドイツ人、ヴィーキング時代のノルマン人がこれに属する」。「それはすべての文化諸民族がその英雄時代（Ｈｅｒｏｅｎｚeiｔ）を経過した時期であり、また鉄刀の、そして鉄犂と鉄斧の時代である。鉄は人間が使用しうるものとなった。……鉄は、いっそう大きい面積の耕作を、広い森林地帯の開墾をもたらし、手工業者に、石やその他知られたどの金属も及ばぬ、堅くて切れ味のよい道具をあたえることとなった」。「牧畜、金属加工、織布、そして農耕の導入とともに事態は変化する。……当時の家族内部における分業では、食糧の生産ならびにそれに必要な労働要具は男性に属し、したがって労働要具の所有権も彼に属していた。……だからまた、当時の慣習に従って、男性は新しい食糧源たる家畜と新しい労働手段〔として次第に姿を現わしつつあった〕奴隷の所有者ともなったのである」。「いまや、家族内における本来の関係は顯倒した。そして、それはもっぱら、家族外における分業が変化したためであった。いままで家族内部における女性の支配を確保していたのと同一の原因が、すなわち、女性が家庭内の仕事のみに携わっているという、まさにその同じ事情がこんどは男性の支配を確保することとなった。……古い血縁的秩序の中にこうして一つの裂目が現われたのである」。このようにして、原始的な「部族共同態」のまっ只中にもろもろの「家父長制的家族共同態」が成立し、そしてこの「家父長制」の形成と成長をいわば酵母として、土地占取の主体である「共同体」そのものの全構造もまた、いまや「原始共同態」をこえていっそう高度な形態である「共同体」に、さしあたっては家父長制的「部族共同体」（マックスーヴェーバーのいわゆるＣｌａｎｓｃｈａｆｔないしＳｉｐｐｓｃｈａｆｔ）に、編制替えされることになったのである。