以上述べてきたところは、さしあたって、「共同体」の第一次的構成ともいうべき原始的な「農業共同体」に関することがらであるが、歴史上「共同体」の存在形態はＩ基本的な「農業共同体」だけについてみてもＩそうした第一次的構成のみに止るものではない。もっとも、さきにも指摘したように、地理的・自然的な諸条件の相違によって同一の発展段階にある諸「共同体」の間にも形態上無数の偏差が見られるのであるが、この事実はここではしばらく視野の外におくこととしよう。いまわれわれにとっていっそう重要なことは、むしろ、歴史上における「共同体」諸形態の継起的発展の事実である。詳言するならば、「共同体」の内部において生産諸力（＝分業）がいっそうの進展をとげる結果、それにもとづいて土地占取関係においても私的所有の契機がより以上に拡大され、それに伴って、「共同体」のいっそう高度な歴史的諸形態がつぎつぎに展開されてくる、という事実なのである。その基本点を以下簡単に説明してみよう。すでに「ヘレディウム」（宅地および庭畑地）という私的所有の橋頭堡をうちたてた個人的生産諸力の拡充――それは一般に「共同体」内部における分業関係の進展（＝手工業の成立と成長）として現われる――は、その担い手である諸個人の私的活動をますます活発ならしめる他はない。しかしそれは、もちろん、なんらか原始的な集団性（＝共同組織）を根底としてうちたてられている「共同体」関係そのものと結局矛盾するにいたるであろうし、場合によってはそれを解体にみちびく危険をさえ生ずるであろう。とはいうものの、われわれが当面問題としているような生産諸力の発展段階にあっては、そうした個人的生産諸力も、各個人が個々に自立して私的に生産を営みうる（＝小ブルジョア経済の成立）には未だあまりに幼弱である。つまり、彼らの「私的な」生産諸力も活動もなお「共同体」によって「共同態的に」ｇｅｍｅｉｎｓｃｈａｆｔlich占取された土地を基盤としてのみ可能とされており、それを離れては独立に存在しえないのである。したがって「共同体」そのものの解体はさしあたって彼ら諸個人の生活の再生産自体を全般的に不可能としてしまうであろう（歴史上独立自由な私的生産者が一般的に成立しうるためにはいわゆる原始的蓄積の時代の到来を待たねばならない！）。このゆえに、そうした幼弱な諸個人の生活の再生産のためには、「共同体」そのものが、ただし事態に適合した何らかの新しい形態において、やはり存続し再生産されていかねばならない。このようにして生産諸力の、したがって諸個人の私的活動の発展の段階に応じて、それぞれ独自な形態と構造をもつ「共同体」がＩさらにそれに照応した階級分化の諸形態もまた１つぎつぎに生みだされていくことになるのである。さて、このような「共同体」諸形態の継起的な段階的な発展は、まず「土地」占取関係の基盤における私的所有の拡大とその形態進化という形をとり、さらにそれに照応して、その上にうちたてられた「共同体」の形態と構造における変容として現われてくる。こうしたことはすでに述べたところから容易に推測しうるであろうと思うが、いまこの観点に即してきわめて大づかみにいうならば、研究史上次のような三つの基本形態Ｉそれらも現実には当然に無数の偏差をもって現われてくるＩが指摘されているといえる。ただし、ここで念のためあらかしめ一言付加しておくならば、それら三者は形態と構造を相互に異にしているとはいえ、すべて「共同体」である以上、いずれも「土地」の「共同態的占取」の土台の上に打ちたてられており、したがって後述するように何らかの形で「共同地」（＝共同マルク）と「共同態規制」をともなって現われるという点では、もちろん三者共通の特徴を具えている。−三つの基本形態は、次のとおりである。まず、（１）アジア的形態。そこでは土地の占取関係における私的所有の契機はなお「ヘレディウム」といういわば橋頭堡を確保したに止っているのであって、「共同体」の基本形。態もまだもっぱら血縁関係にもとづく「部族共同体」である。「共同地」（＝共同マルク）はなお全面的に部族の共同占取と規制のもとにおかれている。つぎに、（２）古典古代的形態。土地の占取関係における私的所有の契機はここでは、ローマ人の表現を借りれば、「ヘレディウム」を基地としてさらに「フンドゥス」（ｒ乱読）にまで拡大されており、「共同地」は(<ａｇｅｒ ｐｕblicｕｓ))としてこれと空間的に並存しかつ対抗しあっている。「共同体」の基本形態もマックスーヴェーバーのいわゆるＫｒｉｅｇｅｒｚｕｎｆｔ
（戦士ギルド）としての「都市共同体」（＝古代都市）となってくる。いま一つ、（３）ゲルマン的形態。土地の占取関係における私的所有の契機は、ゲルマン的表現を用いれば、「フーフェ」｝｛叭Ｑという形をとりつつ、およそ共同体関係の内部で存在しうる極限にまで拡充されており、「共同地」（Ａｌｌｍｅｎｄｅ）さえも持分化されて私的占取関係のうちに組みこまれている。「共同体」の基本形態もいまや土地占取そのものに密着した「村落共同体」（および「都市ｎギルド共同体」）となっている。−だいたい以上の三者を指摘することができるが、これらの基本諸形態について立ち入った検討をおこなうことは後段における重要テーマの一つとなるはずであるから、詳細な説明はその際にゆずらねばならぬ。ここではただ、およそ「共同体」とよばれるところの、近代以前における生産諸様式の基盤を形づくる基礎的生産関係が、一般に再生産されていくその基本的な筋道というか、独自の法則というか、そうした基本事実についてきわめて一般的な説明を行なって、この章を終ることにしたいと思う。
一般に「共同体」とよばれる基礎的生産様式が自己を再生産していく基本的な筋道はおよそ次の通りである。（１）まず、「共同体」を構成するところの諸個人（＝家族）が自己の生活をたえず維持していくための基本的な営みは、全体によって「共同態的」に占取された「土地」を基盤に、その只中に形成された「私的占取地」（＝私的所有の対象である「土地」）を拠点として生産活動を営み、これによって成員諸個人のそれぞれの生活需要をたえず充していくことである。これが第一の、もっとも基礎的な事実であり、他ならぬ「共同体的土地所有」である。（２）ところで、そうした成員諸個人（＝家父長制家族）の私的活動は、それが自然発生的な分業関係の上に立っていることの必然的な結果として、上述のような「共同体」全体の基本的筋道と矛盾し、衝突するであろう。といって、諸個人はなお独立して自由な私的生産を営むには未だあまりに幼弱であるから、「共同体」の外枠（＝「共同組織」）はどうしても維持されねばならぬ。そこで成員諸個人の私的活動の恣意性が「共同体」全体によって抑制されることになる。これが第二の基礎的な事実であり、他ならぬ「共同態規制」である。ところで、このような役割を果すところの「共同体」の外枠（＝「共同組織」）が、既述のように、多かれ少なかれ「原始的性格」をその身に帯びたものであることの結果として、右の「共同態規制」も何らか非合理的、伝統主義的な性格の「経済外的強制」ａｕｌＤｅｒｏｋｏｎｏｍｉｓｃｈｅｒ Ｘwａｎｇとして立ち現われざるをえない。つまり、「共同体」とよばれる生産関係が自己を再生産していく基本的筋道は、このようにして一定の経済外的な「共同態規制」に媒介されながら進行するのである。