以上のようにして、「共同体」とよばれる生産様式がたえまなく再生産されていく過程においては、物質的土台である「土地」の占取についても、また成員諸個人の私的活動を全体のうちに包みこんでいく「共同態規制」についても、「共同体」自体（＝共同組織）がまず主体として前面に現われてくることになる。ところでそのばあい、「共同体」の根底を形づくる「共同組織」が多かれ少なかれ「原始共同態」の痕跡を止める原生的集団の性格をもつことはすでに繰り返し述べたとおりであるが、あたかもこのことから「共同体」に関する第三の基礎的事実が帰結する。すなわち、再生産構造としての「共同体」は、決して、資本主義社会の基礎を形づくる「商品流通」のように全社会的な規模における単一の構成として現われるものではありえない（いわゆる集団性）。むしろ、あたかもその昔エピクロスが構想した諸世界のように、もろもろの「共同体」が大なり小なりの諸部分単位として、そして全社会はそれらの集合体として現われるのである。別の表現をもってすれば、一つ一つの「共同体」がそれぞれ多かれ少なかれ独立した「局地的小宇宙」をなしつつ、全社会はそうしたあまたの小宇宙の連結体として構成されることになるのである。あるいは、デュルケムの「環節的組織」というやや奇警な表現方法を想起してもよいであろう。ともかく、経済的基盤がこうした「共同体」という諸単位をもって形づくられているかぎり、社会の全構成（階級分裂の特有な様式をも含めて）は、おのずから諸「共同体」の連結体という形をとってあらわれる他はないのである。
このような、社会の「共同体」的構成に固有な法則をとらえる手がかりとして、マックスーヴェーバーは、「共同体」の内と外、すなわち「内部経済」と「外部経済」を鋭く対比しつつ、あの有名な「共同体」の構造的二重性の理論を構想したのであった。いま、その要点だけを紹介してみると、ほぼ次のとおりである。
（１）まず、「共同体」の内部過程（＝「共同体」内部における成員諸個人の生活）は、さきに見たような基本的筋道をもってたえず再生産され、「共同態規制」を媒介として維持されていく。そしてその規制をうちだしていくところの基本的な原理は他ならぬ共同態的「平等」であり、その種々な構造的規定性と現象諸形態は、後段で「共同体」の諸形態に立ち入った検討を加えるさい、重要な論点の一つとなるであろう。ともあれ、この「平等」法則（とわれわれは仮りにいっておこう）は、その経済外的性格からして、通常何らかの宗教的外被を伴った道徳意識として主観的に表出され、いわゆる「共同体意識」の根底を形づくることになるのである・たとえば、あの「恭順」の意識をおもえ。
（２）ところで、このような「共同体」内部における成員諸個人の生活がたえまなく再生産されていく基本的な筋道は、当然に、外部からの侵害や攪乱に対して「共同体」全体によってたえず防衛し維持されていかねばならない。そこで、まず、物質的基礎をなす「土地」が外部に対して排他的に独占され、それにもとづく「共同体」成員諸個人の生活の維持が何にもまさる必要事として優先することになる。こうして内と外がはっきりと区別される。ヴェーバーの表現を借りれば、「共同体」は外部に対して 「封鎖」されるのである。こうして「共同体」と「共同体」のあいだには、何らか共通の利害が形づくられることはあっても、共同の利害が形づくられることはありえないことになる。したがって、ある一つの「共同体」の成員たちにとっては、その外部にある人々はＩしたがって当然に他の「共同体」の成員たちもまたＩ「共同体」による「規制」と「保護」の外側におかれているところの「他所者」となるのであり、場合によっては、潜在的な「敵」とさえ化するであろう（意識における「対内道徳」lと「対外道徳」の構造的二重性）。そのことは、たとえば、古典古代の都市間におこなわれた戦争のあの皆殺し的な激しさや、中世の村落間やギルド間の縄張り争いの烈しさを思いおこすだけでも、ある程度まで了解することができよう。
（３）さて全社会が、それぞれこのような構造的二重性をもつところの諸「共同体」の集合体として構成されているばあい、構成単位である諸「共同体」相互の中間に、あたかもかつてエピクロスが神々の住所として想定した「諸世界間の間隙」のように、「共同体」の規制力の及ばぬ一種の社会的真空地帯が形づくられることはおのずから明らかであろう。もし、どれかの「共同体」の成員が「追放」
（いわゆる「村はちぶ」をおもえ）をうけたとすれば、彼らはまさに文字どおり
ouｔｌａw としてそうした社会的真空の只中へ孤立無援のまま投げだされるのであり、そこへは「共同体」の規制力が及ばぬと同時に、完全に「共同体」の保護の外におかれることになる。したがって、そこでは多かれ少なかれ（人は人に対して狼）という状態が現実に形づくられるということができよう。たとえば、インドの不可触賎民（パーリア）や古典古代における戦争捕虜などの運命を想起してみるがよい。しかしこの点に関して、ここではとくに、歴史上このような「共同体」間に存在するいわば社会的真空地帯がいわゆる前期的資本（商業資本および高利貸資本）の成長と活動にとって本来の地盤を形づくってきた、という重要な事実を指摘しておきたいと糺兆。というのは、いわゆる「資本の原始的蓄積」（したがってその歴史的前提をなす小ブルショア経済の一般的形成）は何よりもまず、こうした「共同体」組織とそれに必ず随伴する社会的真空地帯の、すなわちそうした経済の構造的二重性の克服をもって始まることとなるのであって、資本主義の発達によって前期的な資本諸形態が消滅に帰するにいたるのも、まさしくそのためなのである。しかし、これについては、後段において別の問題的関連から改めて詳論しなければならない。