歴史上「共同体」のさまざまな諸形態は、すでに示唆しておいたとおり、さしあたって次のような事情によって決定されるものと考えられる。まず、（１）自然的諸条件（客観的諸条件はもちろん、人種という概念によって言い表わされるところの主観的諸条件をも含めて）の如何によって、無数の偏差を含むきわめて複雑な地域的特殊性が作り出されるのであるが、しかも、（２）そうした複雑な様相を貫いて一定の歴史的な継起的発展諸段階が識別されるということも、すでに述べたとおり、研究史上くりかえし指摘されているところである。第一の点を正面から取扱うことは、ここでの問題の立て方から、当然に割愛しなければならない。以下の叙述においては、第二の点、すなわち「共同体」のさまざまな歴史的諸形態のなかに基本的な発展諸段階を、そうした意味での基本諸形態を識別し確定しようとする主要な諸学説、その紹介が中心テーマとなるであら兄。ところで、そのような「共同体」の基本諸形態としては研究史上、アジア的
→ 古典古代的 → ゲルマン的（封建的）の三つを設定するのが現在もっとも有力な見解となっている。そこでこの第三章においては、そのような三つの基本形態のそれぞれについて、基礎的な諸特徴を、主要な史実をもって例解しながら、理論的に追究していくことにしたい。
さて、すでに述べたところであるが、「共同体」の三つの基本形態とその根本的な特徴を主要な史実のうちに確認するためには、われわれはさしあたって次の二つの基礎視角をつねに正確に保持していることが必要であろう。すなわち、一般的にいえば、さきに述べたような「共同体」に内在する「固有の二元性」の各契機がそれぞれの基本形態においてどのような存在形態をとって現われているか、を具体的に確定することであるが、なかんずく次の二点がおのずから中心的なクリテリアとなってくるのである。（１）共同体内部にみられる土地の私的な占取関係の進展度。この事実のうちに生産諸力の発展、したがって社会的分業（＝生産諸力の分化）の展開度が直接に表出されており、したがって土地の私的占取関係の如何は「共同体」とよばれる一定の生産関係の積極的な側面を形づくっているのである。この点からするならば、「共同体」なるものは社会的分業の体系であり、その特定の歴史的存在形態だとみることができる。（２）それに照応する基本共同態の推転および「共同体」の内部的編制の如何（＝とくに血縁関係の弛緩度）。およそ「共同体」が原始的血縁共同態から系譜をひく一定の原始的な、経済外的な外枠Ｔ共同組織）をもち、これが 「共同体」とよばれる生産関係のいわば消極的側面を形づくっていることは、すでに見たとおりであるが、土地の私的占取関係とそれに照応する成員諸個人の私的活動の進展の結果として、「共同体」のもつこの共同態的側面もまたそれに照応した姿をとって現われ（＝とくに血縁関係の弛緩）、それぞれの段階に応じて基本共同態は、部族
→ 都市 → 村落、というコースで上向的な推転をとげる。――以下の叙述でわれわれは、この二つの基礎視点をたえず正確に保持することに力めながら、「共同体」の三つの基本形態のそれぞれについて、その主要な特徴を理論的に追究していくこととしよう。まず最初に、「アジア的形態」を問題とする。