以上のような原始的な姿の「農業共同体」は、もちろん十九世紀中葉のインドにおいてさえも、きわめて辺境の地域にわずかに残存しているにすぎなかった。むしろ一般には、交替する王朝の政治的支配の影響によってさまざまな偏差の歪みをうけ、さまざまな形の階級分化をはらみながら、地方ごとに種々な型を構成していたことはすでに周知のことに属する。そうしたさまざまの型を紹介することはここでは割愛せねばならぬが、ただ、ベイドン＝ポウェルの記述にもとづいて、マックス・ヴェーバーがインドの「農村共同体」の基礎的特徴として掲げているいくつかの事実はきわめて興味ぶかいものであるから、以下簡単に紹介することとしたい。
（一）もっとも古い時代には土地所有の法的根拠は開墾か、或いは征服に求められていた。
（二）したがって、部族（ときにはその部分体である大氏族）自身がその占取した地域の所有者とみなされ、その防衛にあたった（なお、それと同時に、村落マルク内部においては私有の「庭畑地」ひろく成立していたことをも、ヴェーバーは他の個所で指摘している）。
（三） ところで、古い時代の村落には（土地があり余っており、かつ、大氏族団が存続していた結果として）、ヨーロッパ的意味での、すなわち「フーフェ」の構成部分をなす「総有地」および「総有権」なるものはなく、また発生する必然性もなかった。
（四）村落全体の共同耕作は、原始的な（歴史学的に溯りうる限りでのＩ引用者）農業制度でもなかったし、またその後のインドの農業制度の基礎ともなっていない。
なお、この最後の点については、ヴェーバーは他の個所で、「原始的」なものと想定される「村落共同体」が後の時代にも部分的に確認されうることを指摘し、かつそれに関連して、次のように注記している。すなわち「インドの村落における耕地分配の様式は、ドイツにおけるような耕区と地条の形での混在耕地制をなしてはいなかった。各家族の持分は地味の差に応じて耕地帯の各所に分散していることもあったが（輪作もときに行われていた）、全体として面積を測定し比較しえないような大きな地積のかたまりをなしていた。各家族の所有する犂の数とそれによって耕作しうる土地ということが標準とされたのである。さしあたって土地があり余っており、測定もしなかったのである。……また生活水準を平等にするために耕地の新たな分配もおこなわれた」。