０３ 資本主義以前の生産諸様式
「資本主義」のこのような根本的特徴は、世界史上にみられる他の主要な生産諸様式と比較してみるとき一層よく
わかる。ところで、経済史研究の現段階に即していえば、世界史のうえでＩ必ずしも、各民族の歴史において、と
はいわないＩ継起的な発展段階としてアジア的、古代奴隷制的、封建制的、資本主義的、社会主義的などの生産諸
様式が知られているが、そのうち「資本主義」の成立に先だつアジア的、古代奴隷制的および封建制的などの生産諸
様式はいったいどのような根本的特徴を具えていたのだろうか。さしあたって、次のような点を指摘することもでき
よう。「資本主義」に先だつ生産諸様式においては、そのいずれにあってもヽ経済生活の一般的な土台をなすもの
が商品生産ではなくて、「共同体」（ｊｅｍｅｉｎｄｅ
（土地占取のための単位集団）である。諸個人は共同体の一員として土地
を占取し、この土地によって生産活動を営み、生活需要をみたしていく。もちろん、こうした基本的関係を補充して
多かれ少なかれ商品生産もまた行われるが、このばあいには商品生産の方が派生的・従属的な地位にたっている。
撃ｱのような共同体の基礎のうえにそれぞれ特有な階級的関係が築き上げられているのであるが、基礎をなす共同
体の形態（＝発展段階）の異なるに応してそうした階級的関係（したがって生産関係の総体）もまた異なった姿に構成さ
れている。しかし、こうした指摘だけではな澎理解が困難だと思われるので、以下アジア的な、古代奴隷制的なおよ
び封建制的な生産様式について、それぞれのばあいの代表的な事例をとって簡単な説明を試みておくことにしよう。
＊Ｋａｒl Ｍａｒｘ｢ Ｘｕｒ Ｋｒｉｔｉｋ
ｄｅｒ ｐｏｌｉｔｉｓｃｈｅｎ Ｏｋｏｎｏｍｉｅ｢ Ｖｏｒｒｅｄｅ
ｕ. Einleiｔｕｎｇ（マルクス『経済学批判』序文および序説）石ａ・゛
ｒｏｒｍｅｎ｢ ｄｉｅ ｄｅｒ ｋａｐｉｔａｈｓｔiｓｃｈｅｎ rｒｏｄｕｋｔｉｏｎ ｖｏｒｈｅｒｇｅｈｅｎ（マルクス、飯田貫一訳『資本制生産に先行する諸形態』岩波書店、
マルクス、佐藤進訳「資本制生産に先行する諸形態」河出書房『大思想全集』「マルクス」所収）および、拙著『共同体の基礎
理論』、「著作集」第七巻所収などを参照。拙著にみられる理論的想定は、研究史の現段階においてはもっとも確実性の高いもの
と考えられるが、詳細な点については不明の点がなおきわめて多く、実証的研究の側からする批判が望まれるのである。
＊＊ きわめて抽象的に定式化してみると、次のようになるであろう。日アジア的生産様式のばあいには、血縁制的な「部族」共
同体の基盤のうえにマルクスのいわゆる「普遍的隷従制」Ａｌｌｇｅｍｅｉｎｅ
Ｓｋｌａｖｅｒeiが展開される。そして古代オリエントにみるよ
うに、大規模な治水灌漑とむすびついたときに、あの特徴的な巨大専制諸国家が出現するのである。罔古代奴隷制的生産様
式のぱあいには、「都市」共同体（あるいは「半都市」的農業共同体）を拠点として、その市民たちの支配下に奴隷制が展開され、
そのあいだからいわゆる奴隷制オイコスが形成される。それは古典古代の地中海周辺で典型的な発達をとげた。目封建制的
生産様式のばあいには、「村落」共同体の基盤のうえに農奴制度が展開され、封建的土地所有ｆｅｕｄａｌｅ Ｇｒｕｎｄｅｉｇｅｎｔｕmが築き上
げられる。それは、派生的なギルド制的「都市」共同体の形成によって補充される。こうした封建制は中世の西ヨーロー（で
典型的な発達をとげた。
(1) まず、アジア的生産様式の特徴を示す事例として、古代オリエントの専制諸国家のうちエジプトのばあいをと
ってみることとしよう。もっとも、ひとくちに古代エジプトといってもその歴史は紀元前数千年紀にさかのぼり、と
くにその曙の時代については不明の点がおそろしく多い。しかし、ファラオ（国王、大いなる門の意）による全土統一
が達成された古王国の全盛期（紀元前三千年紀の中葉）には特徴的な経済の組み立ての骨格がすでにできあがっていた
ようである。それは、一言にしていえば、ファラオを最高統制者とし王国の全領域にわたって遂行されるような、自
然経済基調の（もちろん多かれ少なかれ商品生産ないし貨幣経済をも伴った）統制経済であった。そうしたものは、お
そらく、統一前から地方小国家（ノモス）を単位としてもおこなわれていたのであろう。
＊ 古代オリエント、とくに古代エジプトの経済史については、さしあたって次の諸書を参照。Ｍａｘ
Ｗｅｂｅｒ｢ Ａｇｒａｒｖｅｒｈａｌｔniｓｓｅ
ira
Alｔｅｒｔｕm｢ Ｇ. Ａ. ｚｕｒ ｏｏｚ.- ｕ. WiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈＳＳ.
４５-９３ (ウェーバー、渡辺・弓削訳「古代社命経済史」七七Ｉ一七六頁ご
Ｄｅｒｓ.｢ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢ ＳＳ. ５９-７０（ウェーバー、黒正・青山訳『一般社会経済史要論』上、Ｊ三六−六〇頁ごＵｅｒｓ.｢
Wiｒｔｓｃｈａｆｔ ｕ. Ｇｅｓｅｔｔｓｃｈａｆｔ｢ ４. Ａｕｆｌ.｢
Ｓ. ６１５ ｆ. (この部分の翻訳は右のヴェーバーの邦訳書、一六一−六頁に収録ご）ｕjo Ｂｒｅｎ-
ｔａｎｏ｡ Ｄａｓ Wtｒｔｓｃｈａｆｔｓｌｅｂｅｎ ｄｅｒ
ａｎｔｉｋｅｎ Ｗｅｌｔ｡ １-２. Ｋａｐ.（ブレンタノ、舟越訳「欧羅巴・古代経済史概説」第一−二章ごＭ.
Ｋｏｓｔｏｖｚｅｆｆ｢ Ａ Hiｓｔｏｒｙ
ｏｆ ｔｈｅ Ａｎｃｉｅｎｔ Woｒｌｄ｢ １９２６｢１など。
その生産的基礎に目をむけ’ると、人口の大部分を占める農民たちは、そして手工業者たちも、それぞれ特定の村落
にいわば原籍をもち（のちのプトレマイオス期の用語にしたがえば「イディア」である）、血縁と呪術の絆によって強
くそこに結びつけられていた。つまり、彼らはそれぞれきわめて強固な血縁制的「共同体」を形づくり（広い意味で
「部族」共同体といってもよいだろう）、その一員として一定の土地に断ちがたく繋がれていたわけである。こうした
血縁制的「共同体」関係がいったん上から支配の手段として用いられるようになったとき、ただそのことによって、
村落全体がおそろしく強い隷従の地位におとされるということは明らかであろう。ファラオは、そして豪族＾ノ゛ル゜ ７
ス）たちも、こうしたやり方で農民その他をしだいに隷農（コローヌス）ともい
うべき隷従の地位におとしいれ、政治的支配の経済的基礎に転化させた。もち
ろんファラオは、そして豪族たちも、他面多かれ少なかれ家内奴隷をも擁して
いたが、その比率が小さかったばかりでなく、一般の隷農との差もしだいに不
明瞭となり、全体がいわば「被護と隷従のヒエラルキア」（階層的体制）を形づ
くるよ’うになっていった。ヴェーバーはこうした関係を、中世フランスの法諺
をもとって（(Ｎｕl ｈｏｍｍｅ ｓａｎｓ maiｔｒｅ))（「だれにも主人がある」）と巧みに表現し
ているが、これこそがマルクスのいわゆる「普遍的隷従制」なのである。この
「普遍的隷従制」を支える行政機構が村長を末端とする広汎なアジア的官僚制
にほかならなかった。あのナイルの治水やピラミッドの建設に用いられた厖大
な労働力はこうした官僚機構によって徴発されたが、前述のファラオの独自な
統制経済もこうした基礎と機構の上にうちたてられたものであった。全土は一
定の共同体間の分業関係によって編制され、いたるところにファラオの倉庫が
設けられた。農民や手工業者たちはその余剰生産物をこの倉庫に納めねばなら
ず、これは力づくで強制された。こうして倉庫に収納された余剰生産物は、こ
んどは一定の計画のもとに、上は王族から下は軍務・僧職・官職にある者、その従者たちにいたるまで、現物で配給
された。現存の一古文書には右のような記載があるとい‰。配給された現物はまた互いに交換することができたし、
さらにそれを土台として一種の現物振替取引さえ発生した。こうして全国は原理上一個の経済的単位をなし、いわば
王の一家であるかのような観を呈したのであった。その後貨幣経済の発達は、とくにプトレマイオス時代にいたって
統治の機構に種々な変化をもたらしはしたが、そうした経済生活の根本的な組み立てを根本的に揺がすには至らなか
った。
＊ブレンタノ、前掲邦訳書、五−六頁。これはＥｄｕａｒｄ
Ｍｅｙｅｒ｡ Ｋｌｅｉｎｅ Ｓｃｈｒｉｆｔｅｎ｢ １９１０｢ Ｓ. １６３
ｆ.から抜粋されたものである。
(2) つぎに、古代奴隷制的生産様式の特徴的な組み立てを理解するために、古代の地中海周辺地域に例をとること
としよう。この地域はオリエント専制国家のいわば辺境地方として歴史の舞台に登場してくるが、ここでは、「農業共
同体」は、エジプトのばあいのように隷従の絆として作用することなく、むしろ逆に、その成員たちに強力な独立の
手段をあたえることとなった。というのも、そうした農業共同体の性格自体がすでに古いものといち匕るしく異なっ。
ていたからである。すなわち、古い部族制に固有な血縁制的・呪術的な規制力は弛緩し（かつ常時戦闘態勢にある農
民の軍事組織へと編制替えされて、いわば「半都市」（マックスーヴェー。バー）の相貌をおびはじめていたのである。と
くに、歴史の上にその名をとどめているような代表的なばあいにあっては、かずかずのそうした共同体がたがいに結
合し、いわゆるシュノイキスモス（集住）の方法によってしだいに大規模な「都市」共同体（ポリス、キーウィダース）
を形づくり、独立の「都市」国家となっていった。そうした「都市」共同体の内部では、とくにいわゆる民主化の進
行に伴って、共同体の個々の成員たちは多かれ少なかれ自由な、土地所有者にして戦士たる「市民」に成長していっ
たが、他ならぬこうした「市民」によって、あの古典古代に特有な「奴隷」使役が展開されたのであった。
＊ 古典古代のギリシア諸都市、とくにアテーナイおよびローマの経済史については、さしあたって次の諸書を参照° Ｍａｘ We-
ｂｅｒ｢ Ａｇｒａｒｖｅｒｈａｌｔniｓｓｅ im Alｔｅｒｔｕm｢ Ｇ. Ａ. ｘｕｒ Ｓｏｚｕ. WiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈＳＳ. ９３-２７８
（ウェーバー、渡辺・弓削訳『古代社会
経済史』一七七−五〇二頁ごＤｅｒｓ.｢
Ｄｉｅ ｓｏｚiale（ｊｘｔｔｎｄｅ ｄｅｓ Ｕｎｔｅｒｇａｎｇｓ
ｄｅｒ ａｎｔｉｋｅｎ Ｋｕlｔｕｒ｢ ａ. ａ. Ｏ.（ウェーバー、堀米庸三訳
「古代文化没落論」河出書房「大思想全集」「ウェーバー」所収ごＤｅｒｓ.｢
Ｄｉｅ Ｓｔａｄｔ｢ Wiｒｔｓｃｈａｆｔ ｕ. Ｇｅｓｅｌｌｓｃｈａｆｔ｢
４. Ａｕf」（ウェー ０
パー、世良晃志郎訳「都市社会学」ごＤｅｒｓ.｢ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ> ＳＳ.
２７０-８９ ｕ. ａ. (ウェーバー、黒正・青山訳『一般社会経 １
済史要論』下、一七三―二二二頁その他ご」ｕjo Ｂｒｅｎtａｎｏ｢ ａ. ａ’Ｏ.｢ ３.-６. Ｋａｐ.（ブレンタノ、前掲邦訳書、第三−六章ごＭ.
Ｋｏｓｔｏｖｚｅｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ１-ｉｌ; Ｄｏ.｢ Ｉ
ｈｅ ｓｏｃｉａｌ ａｎｄ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ
Hiｓｔｏｒｙ ｏｆ ｔｈｅ Ｒｏｍａｎ Ｅｍｐｉｒｅ｢ １９２６
; Ｔ. Ｆｒａｎｋ｢ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Ｈｉｓｔｏｒｙ
ｏｆ Ｒｏｍｅ｡ ２ｎｄ ｅｄ.｢ １９２７.
――また、この時代の経済発展段階に関する論争の原型を示すものとしてＫａｒl Ｂｕｃｈｅｒ｢
Ｂｅｉｔｒｄｇｅ ｚｕｒ
Wiｒｔｓｃｈａｊｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢ １９２２
; Ｅｄｕａｒｄ Ｍｅｙｅｒ｢ Ｄｉｅ wｉｒｔｓｃｈａｆｔｌｉｃｈｅ
Ｅｎｔwｉｃｋｌｕｎｇ ｄｅｓ Ａｌｔｅｒｔｕmｓ｢
１８９５ (論文集Ｋｌｅｉｎｅ Ｓｃｈｒｉｆｔｅｎ｢
１｢１９２４に収録」。邦文文献には次のようなすぐれたものがある。村川堅太郎『ギリシヤ史研究入門』、同氏「羅馬大土地所有
制」（日本評論社『社会構成史体系』所収）、井上智勇『ローマ経済史研究』、増田四郎「古代」（有斐閣刊『西洋経済史』上巻、
所収）など。
＊＊ 古代オリエント諸国家に広い意味で「都市」とよばるべきものが見出されなかったなどということはできない。事実はむし
ろ逆であったといえる。そのことは、たとえば前述した古代エジプトのノモス（地方小部族国家ないし行政区）が研究史上しば
しば「都市」国家などといわれていることによってもわかるであろう。しかし、古代オリエントのいわゆる「都市」なるもの
は、古典古代の地中海周辺にみられたような独立の都市「共同体」ではなく、むしろ「本来の経済的構造の上にのっかった余
分のもの」であり、そうした「諸豪族の物資集積地」にすぎなかった。古代オリエントでは「共同体」としての都市はたかだ
かその萌芽が見いださるに止まったといわれているMaｘ Ｗｅｂｅｒ｢ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢ ＳＳ. ２７０-７(ウェーバー、黒正・青山
訳『一般社会経済史要論』下、一七三―八四頁ごＤｅｒｓ.｡
Ｄｉｅ Ｓtａａｔ｢ Wiｒｔｓｃｈａｆｔ ｕ. Ｇｅｓｅｌｌｓｃｈａｆｔ｡
ＳＳ. ７４４-９ (ウェーバー、世良訳
「都市の類型学」四一Ｉ七一頁) ; Maｒｘ｢ Ｆｏｒmeｒly
ｄｉｅ ｄｅｒ ｋａｐｉｔａｌｉｓｔｉｓｃｈｅｎ Ｐｒｏｄｕｋｔｉｏｎ ｖｏｒｈｅｒｇｅｈｅｎ｢ Ｓ. １５ ｆ.（マルクス、飯田
訳「資本制生産に先行する諸形態」ニー頁）などを参照。
逞ましい成長を開始したばかりの古代諸都市では、アテーナイでも、またローマでも、いわば中産の「市民」たち
が「都市」共同体の中堅を形づくっていた。そうした「市民」は一般に自己所有の耕地でだいたい二、三人あまりの奴
隷を使役してみずから耕作に従っていたといわれている。ところで、戦争の捕虜、したがって購買奴隷の数が増大す
るに伴って、そのような「市民」の一部のもとには、しだいに一層大きい奴隷の集積が形づくられていった。たとえ
ば、雄弁で歴史上その名を知られているあのデモステネースが父親から武器と寝台の製造場（エルガステーリオン、す
なわち一種の奴隷マニュファクチャー）を遺産としてうけついだ話は有名であるが、そうした製造場はアテーナイで
他にもみられたし、ローマでも武器、陶器、ガラスなどの製造のために二〇ないし三〇人の奴隷を使役した事例が知
られている。鉱山経営などのばあいにはそうした奴隷の数はそうとう大きかった。しかし、労働奴隷の典型的な集積
がみられたのは、何といっても、ローマの荘園（ウィラールスティカ）のばあいであろう。ローマでは共和政末期あた
りから、とくに帝政期に大って大私有地（ラティフンディウム）がしだいに姿を現わしてくるが、とくに都市の近傍で、
そうした大私有地を基盤にいわゆる荘園（ヴィラ）が形づくられ、そこではしばしば種々な労働奴隷の相当な集積が見
られた。とりわけ、販路をもとめて商品生産の形をとる葡萄酒の醸造やオリーヴの搾油などのばあい、その経営は特
有の陰惨な様相を呈した。マ。クスーヴェーバーはその光景を、兵営にたとえながら、諛のように生き生きと典型化
している。−奴隷営舎つまりinｓｔｒｕｍｅｎｔｕm ｖｏｃａｌｅ（物を言う道具）の住まいは、家畜小舎つまりinｓｔｒｕｍｅｎｔｕm
ｓemiｖｏｃａｌｅ （半ば物を言う道具）の住まいに隣りあっていた。奴隷営舎には寝室があり、病室、拘禁室、手工業奴隷の
仕事場があった。奴隷たちは荘園頭ｖillicｕｓの監視のもとにいっせいに寝させられ、食事させられた。労働は軍隊式
に行われ、毎朝まず分隊にわかれ、奴隷頭moniｔｏｒに監視されながら行進した。こんなことが必要だったのは、奴隷
でもって市場向け生産をやるというようなことは鞭なしで永続したためしがなかったからである。こうした営舎生活
をする奴隷たちは何物をも所有していなかったばかりでなく、自分の家族すらもっていなかった。ただ、商品生産と
して成りたちがたい穀物生産などは、最初から、少なくとも一部は小作の形式をとっていた。−ところでその後奴
隷の反抗がますます増大し、他方購買奴隷の数も減少するに伴って、こうした荘園（ヴィラ）の経営様式はようやく廃
れ、奴隷たちは全般的にコローヌス（隷農）の地位に上昇していくこととなった。そしてそのような基礎過程の変化に
つれて、ローマはその発端とはおよそ様相をことにする「公役制国家」Ｌｅｉｔｕｒｇｉｅｓｔａａｔに転化していくこととなったの
である。
＊ ちなみに、エルガステーリオンはばあいによってはこれと異なうた意味に、たとえば奴隷の賃貸などの意味に用いられている
こともあるようである。なお、マニュフ″クチャーの語義については後出、五を参照。
＊＊ Maｘ Ｗｅｂｅｒ｢ Ｄｉｅ ｓｏｚiale Ｇｒｉｉｎｄｅ ｄｅｓ
Ｕｎtｅｒｇａｎｇｓ ｄｅｒ ａｎｔｉｋｅｎ Ｋｕlｔｕｒ｢ Ｇ. Ａ. ｚ. Ｓｏｚｕ. ＷＧＳ. ２９７
ｆ.(ウェーバー、堀米庸三
訳、前掲邦訳論文、九丿一〇頁ご｛｝ｅｒｓ.｢ Ａｇｒａｒｖｅｒｈａｌｔniｓｓｅ
im Alｔｅｒｔｕm｢ ａ. ａ. Ｏ.｢ ＳＳ. ２４２-８
（ウェーバー、渡辺・弓削訳『古代
社会経済史』四三八−四七頁; Ｂｒｅｎｔａｎｏ｢ ａ. ａ. Ｏ.｢ Ｋａｐ. Ｖ（ブレンタノ、前掲邦訳書、一四二―五七頁）などを参照。
＊＊＊ この段階におけるローマのコローヌス（隷農）制については、小作関係というその外面上の形式からして、これをすでに封建
的農奴制、少なくともその先駆形態と考えるのが、通例の見解となっている。しかし少なくとも現在のところ、私にはこの見
解に賛成する根拠がないと思われる。むしろ、これは古典古代的「奴隷」制の単なる転化形態にすぎないのではないかと考え
ている。その理由は何よりも、本来の封建的農奴制が特殊歴史的な形態の「共同体」関係を土台とし、それと深く内面的に結
合しているにもかかわらず、ここではその事実が全く見られないということに関連している。この点については、なお後段の
諸所、とくに第三章の冒頭を参照。
(3) いま一つの封建制的生産様式は、周知のように、中世の西ヨーロフ（の国々で典型的な発達をとげた。この封
建的生産様式について立ち入った説明をおこなうことは、後段第三章における課題であるから、ここではさしあたっ
て必要なかぎりでその基本的特徴にふれておくことにしたい。もともとローマ帝国の辺境であった西ヨーロッパ地域
では、農民たちのあいだから、旧来の支配機構を下から揺がし掘りくずしつつ、新たな形態の「農業共同体」がしだ
いに形づくられて来、しかもそうした共同体がやがてまた農民たちにとって新たな隷従の絆に転化するにいたった。
つまり、このような新たな共同体の基盤の上にうちたてられた領主−農奴という階級的関係、そうした生産様式が封
建制にほかならなかったのである。そのばあい、「農業共同体」が農民たちの隷従の絆となったという、ただその形だ
けからみると、封建制は前述したアジア的生産様式にいちおう相似しているといえよう。しかし、基礎を形づくって
いる共同体の相違に応じて、その上に築き上げられた封建制的支配の組み立て、つまり領主−農奴の関係も基本的な
点でアジア的な専制国家とはもちろん明白に異なるものであった。何よりもまず、封建制的支配のもとにある農民
（つまり広義における「農奴」）の経済が、アジア的な「隷農」（コローヌス）と比べたばあい、領主の経済に対してすで
にある程度の相対的な自立性をかちえていたことはどうしても否みえない。標準的な封建制農民はしばしば封建的
「自営農民」ｓｅｌｂｓｔwiｒｔｓｃｈａｆｔｅ乱ｅｒ Ｂａｕｅｒなどとも表現されているように、自己の「保有地」をもち（いわゆるＵｎｔｅｒ-
ｅｉｇｅｎｔｕm―）’それを基盤に多かれ少なかれ自給自足の経済を営みうるような能力をそなえていたのである。したが
うて、封建制のもとでは、「領主経済」はそうした「農民経済」からその余剰労働力を駆りだし、あるいは余剰生産物
を取りたてて、これをその収入とするという形をとるほかなかったし、またそこには当然に、「共同体」関係を梃子と
して利用するところのいわゆる経済外的強制がきわめて露わな形で伴わざるをえなかった。このようなものが他なら
ぬ「封建地代」で、経済史の観点からみるとき、それにはだいたい次の二つの形がみられる。０領主が自己の直営耕
地に農民たちを集めて無償の「耕作賦役」ｐｒｅｄｉａｌ ｓｅｒｖｉｃｅｓに従わせる形、つまり労働地代。撃るいは農民経済の
余剰生産物を「年貢」ｒｅｎｔとして現物でか、または貨幣の形で納めさせる形、つまり生産物地代ないし貨幣地代。中
世西ヨーロッパの封建国家はだいたいこうした経済的基礎の上に築かれたのであった。なお、そのほか、封建制的生
産様式においてはあの特徴的な中世「都市」とギルド制度がつぎつぎに姿を現わし、またそれを拠点として商品生産、
ないしは貨幣経済がそれなりに相当の広がりを見せるようになるが、そうしたものが以上のような封建制の根本的な
組み立てを直ちに揺がすものとなったとは、このばあいとうてい考えがたいのであって、その点は後段で詳論するこ
とにしたい。