* １３ 中世都市を拠点とする遠隔地商業
さて、「中世都市」は以上述べたような基本的特徴を共通にそなえながらも、それぞれの規模は大小さまざまである
ばかりでなく、経済的な組み立てもまたぎわめて多様であった。それについてはまず、次のような点を指摘しておく
必要がある。―最初遠隔地間商業のいわば結節点として出発した「中世都市」は、購買力としてそこに放出される
富の量が増加し、周辺の農村に潜在していた手工業者たちが陸続として流れこんでくるとともに、しだいに手工業の
立地という性質をおびるようになった。そればかりでなく、十三世紀以降にもなると西ヨーロッパの各地には到ると
ころ、中心的な大「商工業都市」を取り巻いておびただしい数の衛星的な中小「手工業都市」の群が見られるように
なってくる。とくに遠隔地商業の幹線につらなる地域ではそうした都市の発達はいちしるしかった。イタリアにおけ
るヴェネツィア、ジェノヴァ、フィレンツェなどの都市国家の成長や北ドイツにおける（ンザ都市同盟の形成につい
てはすでに述べたが、十三、四世紀を頂点とするフランデルン（フランダース）の大「毛織物工業都市」ガン、イープル、
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73
産業資本の形成
第２章
‘叭”冖ドー。
‐−・‐
ブリュージュ（ブルッヘ）、クールトレーおよびその周辺の繁栄もとりわけわれわれの目を惹く。
＊ ケーチュケは、人口によって、中世末期のヨーロ″パ諸「都市」をだいたい次のように分類している。（一）世界都市、人口
一〇万以上。コンスタンチノープル、ヴェネツィア、パレルモ、パリ。（二）大都市、人口五万以上。フィレンツェ、ミラノ、
ジェノヴ″、バルセロナ、これに恐らくケルンとロンドン。（三）中都市、人口二万以上。当時の重要な都市は多くこれに属し、
正常型ともいうべきもの。そのうち、（ａ）比較的大なるもの。ボローニア、パドヴ″、ブリュ″セルごこルンペルク、シ’
トラスブルク、リューベ″ク、プラー（、（ｂ）比較的小なるもの。イープル、アントウェルペン、ルーヴ″ン、ランス、ヨーク、
ブリストル、プリマウス、ツユーリ″ヒ、バーゼル、ジュネーヴ、フランクフルトーアムーマイン。（四）小都市、人口五千前
後。（五）微小都市、人口二千以下。最後の両者は十三世紀以降増加した。微小都市は実質上村落とえらぶところのないもの
であるが、そうしたものの歴史的意義については次項でふれるはずである。なお、フランデルンの代表的な都市はこのころす
でに衰退におちいってぃた。以上については、ｘ・入０:ｔｚｓｃｈｋｅ｢ Ａｌｌｇｅｍｅｉｎｅ Wiｒｔｓｃｈａｆ
ｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ ｄｅｓ Miｔｔｅｌａｌｔｅｒｓ｢
ＳＳ. ５７４ ｆ.
ｕ. ａ.; Ｊ. Ｋｕliｓｃｈｅｒ｢ Ａｌｌｇｅｍｅｉｎｅ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢
Ｉ｢ ＳＳ. １６７ ff.などを参照。
＊＊ 前出、匸一国で論及した南欧型については、ここでは重複をさけるために説明を省略しておく。なおＭ.
Ｗｅｂｅｒ｢ Wiｒｔ-
ｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｋｉｃｈｔｅ｢
Ｓ. ２８５ f. (ウェーバー、黒正・青山訳、前掲書、下、二〇六頁以下）を参照。
＊＊＊ この点についてはＫｕliｓｃｈｅｒ｢
ａ. ａ. Ｏ.｢ Ｉ｢ ＳＳ. ２２９-５２.とくにフランデルンの諸都市についてはＨ. Piｒｅｎｎｅ｢ Ｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ
Ｂｅｌ･
ｇｉｅｎＳy Ｉ｢ Ｓ. ２９４ ｆ.｢ ＩＩ｢ ＳＳ.
４９６ ff.をみよ。なお、前掲のピレンヌ、大塚・中木訳『資本主義発達の諸段階』にみえる叙述には、
きわめて簡単だが、「中世都市」の発達に関する右のような事実がみごとに浮彫りされていると言ってよい。
ところで、このころからヨーロッパ各地の比較的大きい「都市」には、原料の豊富な供給とか、すぐれた技術的伝
統とかの事情に応して、織物工業、金属工業などの特殊な工業生産が集中しはじめる。著しい例をあげてみると、た
とえばイタリアのフィレンツェ、フランデルンのガンやイープルの繁盛な毛織物工業、ライン河下流のアーヘン（エク
スーラーシャペル）や南ドイツのニュルンベルクの名を高からしめた金物（＝銅器）工業、南ドイツのウルム、コンスタ
ンツ（現在はスイス）一帯にひろがる麻織物工業などがそれであるが、中世末期ともなると、そうした「都市」的手工
業の不均等な発達を軸として、ヨーロと（の各地にはそれぞれ独自な特産物をもち、かつ単なる「中世都市」的な局
地的狭隘さをこえた地域的な市場圈の姿がはっきりと現われてきた。そうした地域的特産物の主要なものとして、だ
いたい次のような国際商品があげられよう。０イタリア諸都市に集散される香料、その他のいわゆる東邦物産。フ
ィレンツェの毛織物。兼欧諸地域の葡萄酒や塩。目南ドイツ産の銀・銅。ニュルンベルクやアーヘンの金物。
紳南ドイツ諸地域の麻・毛織物。泣Xカンディナヅイアの鰊、艝および木材。囚東ドイツの穀物、その他。旧イ
ギリスの羊毛（匸一七三年にはイギリスから三三、〇〇〇袋の羊毛を大陸にむけ輸出）。内フランデルン産の毛織物。
（右のイギリス産羊毛のうち約九〇％は南ネーデルラント、とくにフランデルンに送られて毛織物製造の原料として
用いられ、さらにこの製品のかなりの部分はイタリアのフィレンツェに送られて精巧な染色・仕上げをほどこされた。
ちなみに、イギリス毛織物工業の国民的繁栄はまだこのころにはその緒についたばかりである）。
＊ 中世末期におけるこうした特産物商品については、さしあたうてＫｕliｓｃｈｅｒ｢
ａ. ａ. Ｏ.｢ Ｉ｢ ＳＳ. ２５３-８にみえるすぐれた概観を参
照。
このような諸種の特産物を中心とする地域的市場圈が各地に形づくられてくるとともに、遠隔地間商業に携わる貿
易商人たちの営みもおのずから変化するほかはなかった。彼らはもはや、たえず各地を遍歴して歩くという原始的な
形をすてて、いずれかの「都市」に定住し、そこを拠点として一つの市場圏と他の市場圏のあいだを結ぶ仲立ち商業
を営みは匕めた。そして、そのために、イギリスのマーチャントーアドヴェンチャラーズ（毛織物輸出商組合）にみる
ような一種の商人ギルドが創設され、あるいはまた、南ドイツ、アウクスブルクのフフガー同族会社やボーデン湖畔
（現在のスイス）の大ラーヴェンスブルク会社にみるような会社企業が設立された。そのような会社企業の例を、十五
世紀初頭に設立された北ドイツ都市リューベックのＩ商事会社にとり、当時の仲立ち商業の様相を例解しておこう。
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＿＿_ -』
１１ １ ＩＩ ＩＩＩ
−この商事会社は数人の出資社員からなるいわば端緒的な合名会社であった。社員たちはリューベックに二人、ケ
ルンに二人、ブリュージュに一人、ヴェネツィアに一人というふうに分散して、それぞれ重要都市に定住し、一人の
手代がたえず各地を移動しながら連絡につとめ、このような形で相互に協力しつ１つ、各市場圏間の価格差やその変動
を巧みにつかんで、いわゆる譲渡利潤（＝前期的商業利潤）を獲得した。この商事会社が取扱った主な商品は次のよう
なものである。
原生品。蘆薈樹液、棉花、硼砂、蘇方木、畢澄果、ガルガント薑、藍、生薑、樟脳、肉桂、ゴムラック、没薬、肉
豆屐、丁香、石黄、胡椒、白檀、樹脂、絹、旃那葉、香、莪述、蔗糖（以上東邦物産、一部は北アフリカ産）、
大黍（西アフリカ産）、水銀、朱、サフラン（スペイン産）、緑青（フランス産）、羊毛（イギリス産）、毛皮（北欧
産）。
製造品。諸種の高価な織物（東邦物産）、毛織物（フランデルンおよびイギリス産）、銅製金物（ベルギー産）、金塊、
金糸、金線、麻糸（ケルン産）、帯革（ケルンおよびダンツィ。ヒ産）、数珠（ニュルンベルクおよびリューベ。
ク産）、赤革（リューベック産）、羚羊革ズボン（北ドイツ産）。
＊Ｃｏｍｐａｎｙ ｏｆ Ｍｅｒｃｈａｎｔ
Ａｄｖｅｎｔｕｒｅｒｓ.ときに「冒険商人会社」などとも訳されているが、会社企業ではない。大陸むけに主とし
て毛織物を輸出し、帰り荷として種々の物産を輸入する商人の「制規組合」謚９町１８ヨー司（一種のギルド）。創立は十五世
紀末で、絶対王制期を通じてイギリスの外国貿易展開の基軸となり、財政上でもきわめて重要な地位を占めた。Ｇ.
Ｕｎwin｢ Ｔｈｅ
Ｍｅｒｃｈａｎｔ Ａｄｖｅｎｔｕｒｅｒｓ' Ｃｏｍｐａｎｙ in
ｔｈｅ Ｒｅｉｇｎ ｏｆ Eliｚａｂｅｔｈ｢ Ｓｔｕｄｉｅｓ ｉｎ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Ｈｉｓｔｏｒｙ
; Ｅ. 」ipｓｏｎ｢ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Ｈｉｓｔｏｒｙ ｏｆ
、Ｅｎｇｌａｎｄ｢ ｒｅｖ. ｅｄ.｢ Ｉ｢
Ｃｈａｐ. １０｢ ＩＩ｢ Ｃｈａｐ. ２などを参照。
‐＊＊ 宗教改革史の背景に巨姿を聳立させている、南ドイツ、アウクスブルクの大財閥。前出、五九頁のほか、諸田実「ヤコプー
フとガー」『松田智雄編宀巨富への道』所収）、Ｒ. Ｅｈｒｅｎｂｅｒｇ｢ Ｄｉｅ Ｇｒｏｆｉｅｎ ＶｅｒｍＯｇｅｎ｢ Ｉ
（Ｅｒｓtｅｓ Ｋａｐｉｔel( Ｄｉｅ Ｆｕｇｇｅｒ）、詳細には、
産業資本の形成
第２章
たとえばＲ. Ｅｈｒｅｎｂｅｒｇ｢ Ｄａｓ
Ｚｅｉｔａｌｔｅｒ ｄｅｒ Ｆｕｇｇｅｒ｢ １８９６｢１; Ｍ. Ｊａｎｓｅｎ｢ Ｘａｋｏｂ Ｆｕｇｇｅｒ
ｄｅｒ Ｒｅｉｃｈｅ｢ １９１０などを参照。
＊＊＊ ボーデン湖畔のラーヴェンスブルク、コンスタンツなどに本拠をもつ巨大商事会社で、中世末期を通じてイタリアのジェノ
ヴァと、さらにそれをこえて南方と盛んな商品取引を営んだ。南、ドイツでは久しくメルヘン的な言いつたえとなうていた。Ａ.
Ｓｃｈｕlｔｅ｢ Ｄｉｅ Ｇｒｏｆｉｅ
Ｒａｖｅｎｓｂｕｒｇｅｒ Ｈａ.ｎｄｅｌｓｇｅｓｅｌｌｓｃｈ.ａｆｔ｢ ３ Ｂｄｅ.｢ １９２３.簡単には、拙著「株式会社発生史論」後編、第一章、「著
作集」第一巻をみよ。
＊＊＊＊ Ｗ. Ｓｔｉｅｄａ｢ Ｈａｎｓｉｓｃｈ･
Ｖｅｎｅｔｉａｎｉｓｃｈｅ Ｈａｎｄｅｌｓｂｅｚｉｅｈｕｎｇｅｎ im １５.
Ｊａｈｒｈｕｎｄｅｒｔ｢ ＳＳ. ４５｢ ９５
£f. ところで、このようなばあ
い、各地に分散している出資社員たちは、それぞれその地での取引に際して会社全体を代表した。したがって、「フ。ガー同族
会社」のように会社企業が家族共同態と緊密に絡まりあっているばあいは別として、当時の合名会社は所在地も商号もおおむ
ね一定せず、あるときは冫ａ乱ｒｒ８日吻〜ｙまたあるときはｂ
ａｎｄ hiｓ ｃｏｍｐａｎｙというふうによばれた。これとともに、当時
の商事会社は各地に数々の支店を設け、支配人をおいで経営にあたらせた。会社企業発達史の概観としては、拙著『株式会社
発生史論』前編第二章、「著作集」第一巻参照。
以上のような組み立ての広域市場圈―以下「首都市場圈」ヨｅｔｒｏｐｏｌｉｔａｎ maｒｋｅｔ ａｒｅａとよぽうＩの成立を基盤と
して、地方間的な商品取引が繁栄に赴くとともに、こんどは比較的大きい諸「中世都市」のあいだに、複雑なニュア
ンスの相違やさまざまな中間形態を含みながらも、「能動型」と「受動型」ともいうべき二つの類型がおのずから分
化してきた。第一の「能動型」というのは、その市民たちが商人としてみずから積極的に各地との商品取引や金融業
務にたずさわり、また遠隔地販売向きの工業生産も多かれ少なかれ営まれているような「中世都市」で、その代表的
なものとしては、たとえばヴェネツィア、ジェノヴァ、ケルン、いくつかの（ンザ都市など、さらに工業都市として
の色彩のいっそう強いものとしては、前述のフィレンツェ、ニュルンベルク、それにガンやイープルなどがあげられ
よう。第二の「受動型」というのは、市民たちがみずから遠隔地との商品取引や輸出工業などに携わらず、むしろ各
地から来集する他都市ないし他国の商人たちの相互間の取引のために「中継市場」ｅｎｔｒｅｐ６ｔたる場所を提供し、仲立
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産業資本の形成
第２章
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ち人などとしてそれに寄生するに止るというような型の都市で、したがってそこでは当然外来商人に対して、あの通
常能動型「中世都市」を特徴づけているような、煩瑣で排外的なギルド的規制が加えられるようなことは全くなかっ
た。つまり、その内部では国籍と言語を問わない一般的な取引の「自由」が支配しており、そうしたいわば特別地区
として、周辺の封建制本来の不自由な環境とはきわだった対照をなしていたといってよい。このような受動型の「中
世都市」は当時ヨーロッパの各地に、大小さまざまの「大市」Ｍｅｓｓｅ｢ ｆａｉｒ｢ ｆｏｉｒｅや「歳市」Ｊａｈｒmaｒｋｔの開催地として
分布されていたが、ここでは、そのうち、「大市都市」Ｍｅｓｓｓｔａｄｔとよばれるにふさわしい主要なもののみを拾って、
中世末期以降の動向を瞥見しておこう。
＊ そのすぐれた概観としてはＫｕliｓｃｈｅｒ｢
ａ. ａ. Ｏ.｢ Ｉ｢ ＳＳ. ２２８-５２ (とくにＳ. ２５２の要約)｢ＩＩ｡ＳＳ. ２２７-５８をみよ。
＊＊ このような、受動型「中世都市」にみられる「自由」は通常近代的（＝資本主義的）「自由」の先駆者だと考えられることが多
い。しかし、この見解には賛成しがたい。そうした「自由」は、むしろさしあたっては、封建的な経済機構（ギルド的「中世都
市」をも含めて）のための必要な補充物として現われていたのであり（いわゆる無概念的自由！）、したがって、マ″クスーヴェ
ーパーなどもしばしば指摘しているように、封建的なまた「中世都市」的な規制と相携え並存しているというのが常態であり
た。こうした「自由」はむしろ封建的社会機構の内部における一個の「特権」（それ自体封建的！）だったのである。真に近代的
な「自由」が実現されるためには、封建制にみるような「特権」と「自由」の並存ということ自体が打破されねばならなかっ
たのである。これについては、第三章における叙述を参照。〔追記・拙稿「宗教改革」、「著作集」第八巻V所収をも参照。〕
＊＊＊ 中世末期のヨーロベ（各地に見出される「大市」ないし「歳市」の開催地のうち、多かれ少なかれ地方的な意義しかもたな
かったと思われるものを拾ってみると、次のごとくである。南ドイツのノエルトリングン、それからジュネーヴ、シュトラス
ブルク（ストラスブール）、ボーツェン、フランデルンのイープル、リール｀など。イギリスではウェストミンスター、ウィンチ
ェスター、ストゥアブリＪソ。フランスではパリ近傍のサンードニの大市をは匕め、ルアン、シ″ロン、ニーム、トゥールー
ズ、それにローヌ河のボーケールなど。−「大市」（「歳市」も含めて）およびその歴史的意義については、本書での見方とかな
り異なるけれども、W. Ｓｏｍｂａｒｔ｢
Ｄｅｒ ｍｏｄｅｒｎｅ Ｋａｐｉｔａｌｉｓmｕｓ｢
ＩＩ／ｌ｢ ３０. Ｋａｐｉｔelにみえる興味ぶかい叙述を参照。
十三世紀から十四世紀半頃にかけて北フランスのシャムパーニュ地方には有名な大市がひらかれ、これが全ヨーロ
ッパ的な規模で遠隔地間の商品取引の中継市場をなしていたことはすでに述べたが、これはもちろんまだ「大市都市」
の姿をとるものではなかった。ところで、十四世紀の半頃からこのシャムパーニュの大市が衰えるとともに、’その遺
産をうけついで、ブリュージュ（ブルッヘ）、フランクフルトーアムーマイン、ジュネーヴ、ノエルトリングンなどの
諸「都市」が「大市都市」として前景に現われてくる。なかでも、フランデルンの港市ブリュージュはその先頭にた
ち、十五世紀を通じて「全キリスト教国の仲立ち人」たる地位を占めた。十五世紀末あたりからこのブリュージュが
退潮にむかいはしめると、それに代ってこんどは同じ南ネーデルラントながら、ブラバントの港市アントウェルペン
（アントワープ）が他を圧して中継市場としての繁栄を開始することになる。
＊ 前出、六一−二頁。
＊＊ ブリュージュについては、Ｒ. Ｈａｐｋｅ｢ Ｂｒｉｉｇｇｅｓ
Ｅｎｔwｉｃｋｌｕｎｇ ｚｕm miｔｔｅｌａｌｔｅｒｌｉｃｈｅｎ Ｗｅｌｔmaｒｋｔ｢ １９０８をみよ。
＊＊＊ アントウェルペンについては、Ｈ. Piｒｅｎｎｅ｢ Ｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ
Ｂｅｌｇｉｅｎｓ｢ Ｉ｢ ＳＳ. ２９４ ff｢ ＩＩ｢ ＳＳ. ４９６
ｆｆ.; Ｒ. Ｅｈｒｅｎｂｅｒｇ｢ Ｄａｓ
Ｚｅｉｔａｌｔｅｒ
ｄｅｒ Ｆｕｇｇｅｒ｢ ＩＩ｢ Ｚweiｔｅｒ Ａｂｓｃｈｎｉｔｔ｢
Ｉ. Ｋａｐｉtel; Ｊ. Ａ. Ｇｏｒiｓ｢ Ｅｔｕｄｅｓ
ｓｕｒ ｌｅｓ ｃｏｌｏｎｉｅｓ maｒｃｈａｎｄｅｓ meｒｉｄｉｏｎａｌｅｓ ｄ Ａｎｖｅｒｓ ｄｅ １４８８
ａ １５６７｢ １９２５.それに興味ぶかい史料として（ｊｕｉｃｃｉａｒdini'ｓ Ｄｅｓｃｒｉｐｔｉｏｎｓ ｏｆ ｔｈｅ Ｔｒａｄｅ ｏｆ Ａｎｔwｅｒｐ｢ １５６０气Ｔｕｄｏｒ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ
Ｄｏｃｕｍｅｎｔｓ｢ ｅｄ. ｂｙ Ｔａwｎｅｙ
ａｎｄ Ｐｏwｅｒ｢ ＩＩＩ｢ ｐｐ. １４９-７３をみよ。
あたかもこの十五世紀末から、地理上の諸発見にともなって、あの「商業革命」とよばれる世界商業上の一大飛躍
が展開されることはさきにも触れたとおりであるが、それを機に歴史の舞台に巨姿を現わしてくる世界商業の二大分
野―東インド貿易と新大陸貿易−が、ともにその起点をこの港市アントウェルペンにおき、それを通じて互い‘に
接合されることとなったため、いまやアントウェルペンは押しも押されぬ「世界の中継市場」W
elｔｅｍｐｏｒiｕmに成り
上り、十六世紀には「それ以後世界の重要な商業諸国民すべての商業をこれほどまでに集中した市場は現われていな
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第２章 産業資本の形成
い」（エーレンペルク）といわれるほどの繁栄を示すにいたった。もっとも、このころのアントウェルペンは、実は、
もはや単純に受動型「中世都市」などといいうるものではない。それは、この港市の繁栄開始がフランデルンやブラ
バントの農村毛織物工業と、さらにまた前述のマーチャントーアドヴェンチャラーズ組合の活動を通じてイギリスの
農村毛織物工業と密接に関連していたという事実を思いあわせるだけでも明らかであろう。しかしまた他面において、
この十六世紀の「世界の中継市場」のうちに受動型「中世都市」のあの「自由」の命脈がなお生き生きと受けつがれ
ていたことも否定できない。アントウェルペンの取引所は、その建物に「民族と言語のいかんを問わずあらゆる商人
の使用のために」と記されていたというが、まさしく「悪魔のつどう殿堂で、そこには金融業者、遠洋航海の船乗り、
投機や先物取引をやる者、巨大商人−そして金儲けさえできるなら、どんな手段でも、暗殺さえも喜んでやる詐欺
師や山師までが群り集うていた」（ピレンヌ）。各地から参集する商人たちのあいだで自由な商品取引や手のこんだ金
融操作がなされていたばかりでなく、すでにさまざまな投機や富籤までがさかんに行われていた。
＊ 商業革命については、前出、六二頁以下および、詳細には、拙著『近代欧洲経済史序説』上のＩ、第一章、「著作集」第二巻を
参照。
＊＊ 農村工業の繁栄とその資本主義的性格については、次項の叙述をみよ。
このアントウェルペンも十六世紀末以降、オランダ独立戦争の渦中に衰退におちいってしまう。そして十七世紀に
は、その遺産をうけついで、アムステルダム、ロンドン、（ムブルクの三港市が鼎立してあらわれてくる。そのうち、
受動型「中世都市」の性格をより色濃く残していたのはアムステルダムと（ムブルクで、とくに新興国オランダの港
市アムステルダムの取引所と振替銀行はそうした伝統の最後の開花といってもよいだろう。これに反して、いちはや
く近代的な性格を増していったロンドンは、十八世紀の後半には、他を圧して「世界の中継市場」の地位を独占する
ようになる。‐なお、十六、七世紀の交にあいついで設立されたオラｙダ、イギリス両国の東インド会社がこうした過渡
的な市場基盤のうえに脚をおくものであったことも、ついでながら、記憶に止めておくべきである。
＊ こうしたアムステルダムの性格については、さしあたってＣ.
Ｈ. Wilｓｏｎ｢ Ｔｈｅ Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Ｄｅｃｌｉｎｅ ｏｆ
ｔｈｅ Ｎｅtｈｅｒｌａｎｄｓ｢ Ｃａｒｕｓ-
Wilｓｏｎ (ｅｄ.）｢ ｏｐ. ｃｉｔ.; W.
ｖａｎ Ｒａｖｅｓｔｅｙｎ｢ Ｏｎｄｅｒｚｏｅｋｉｎｇｅｎ
ｏｖｅｒ ｄｅ ｅｃｏｎｏｍｉｓｃｈｅ ｅｎ
ｓｏｃｉｃｄｅ ｏｎｔｘｖｉｋｋｅｌｉｎｇ
ｖａｎ Amｓｔｅｒｄａｍy １９０６;
Ｅ. Ｂａａｓｃｈ｢ Ｈｏｌｌａｎｄｉｓｃｈｅ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢ １９２７などを参照。なおアムステルダム振替銀行は（ムブルク銀行によって
模倣され、その伝統はプロイセン銀行にうけつがれていく。これを、イングランド銀行のきわめて独自な近代的発達と対比せ
よ。Ｊ. Ｇ. ｖａｎ Dillen｢ｅｃ」）｢
Hiｓｔｏｒｙ ｏｆ ｔｈｅ Ｐｒｉｎｃｉｐａｌ
Ｐｕｂｌｉｃ Ｂａｎｋｓ｢ １９３４に収載の諸論文を参照。
＊＊ この両国の東インド会社については、さしあたりて拙著「株式会社発生史論」後編、第三、四章、「著作集」第一巻を参照。
*