*１７ マニュファクチャーと問屋制度のさまざまな絡み合い・補充と対立
さて、ここで今までわれわれが述べてきたところを綜合してみると、一応次のようになるであろう。すなわち、Ｏ
「農村工業」を土台とする広汎な「問屋制度」の展開はたしかに近世ヨーロッパの経済史を特徴づける事実ではある
が、史実に即してみるとき、そうした「問屋制度」の展開の帰結として産業資本の形成をみるにいたったとは、とう
てぃ考えがたい・⇔むしろヽそうした。‐1:農杼工業りの基盤がヶ刹て卮ならぬ紬中産的生蚤倉」、か齟齔刪晰分な列
昌１’−――‐−ｊ−− 。ｊ。ｔ，……、／− “−゛ ｙｌｌ −−ＩＩＩＩＩｒｒ・
から、産業資本の邇画形態たるマニュファダヂ″Ｌが生誕し戍俔じたとみる方が、史実に即しているように思われる、
と。このことは、ただちに理解しがたいかもしれないが、いま少し説明してみれば、事実は次のとおりである。「問屋
制度」とマニュファクチャーの両者は、さまざまな形で互いに結合しまた対立しつつ、そうした複雑きわまる絡み合
いをとおして、そのなかで右に述べたようなマニュファクチャーの顕著な発達がおこなわれたのであった。そこで、
’マニュファクチャーの発達の基本線をいっそう具体的に見究わめるよすがとして、そうした両者の絡み合いのさまざ
まな仕方を、いちおう追究しておくこととしよう。
第２章 産業資本の形成
φ まず、「農村工業」の基盤の上で成長するマニュファクチャーは、経営の中心に「職場」をもっていたことはも
ちろんであるが、さらにそれを取巻くいわば外業部として、多かれ少なかれさまざまな小生産者たちに仕事の下請を
させており、そうした外業部をもあわせて一個のマニュファクチャーを形づくっていたことは、さきにも述べたとお
りである。たとえば、例のヨークシャー西部「農村工業」地帯の織元（＝マニュファクチャー経営者）については次の
ような事実が明らかにされている。ｏ彼らは通常、多かれ少なかれ自宅で働く半農半エのいわゆる「雇職人織布エ」
たちを抱えていて、出来高払いの工賃で織布工程を下請させた。そうした雇職人たちの多くは自分の織機を所有して
いたが、また織元から織機の貸与をうけているばあいもあった。倹D元たちはまた、多かれ少なかれ近隣の農家の婦
人・小児たちに原料の羊毛を配布し、彼らに紡糸工程を下請させていた。−このような外業部支配の関係はもちろ
ん広義では「問屋制度」とよぶことができるし、、またそうよぶ必要のでてくることも、まもなく判明するはずである
が、それにしてもこのばあいには、「問屋制度」的支配はマニュファクチャー経営の単なる補充物として、それに全く
従属している。こうした性質の「問屋制度」は、さしあたり、「家内労働」という名称でよぶことにしておく。
＊Ｈｅａｔｏｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.y ｐｐ. １０７
ｆ.｢ １１２ ｆ.
＊＊ 後出、匸一七頁以下参照。
このような「家内労働」はもちろん他の諸地帯の繊維マニュファクチャーにも卜実は、もっとひろく、繊繿マニ
ュファクチャーとならぶ重要な金属マニュファクチャーなどのばあいにもＩ見出されるが、そればかりでなく、マ
ニュファクチャーが前述したようないくつかの職場の組み合わせという形態をとるようになったばあいにも、また
「マニュファクチャー期」がすでに十八世紀のイギリスに典型的に’みられるような段階に到達してからでさえも、お
よそマニュファクチャーがなおマニュファクチャー（＝分業にもとづく協業）であるかぎり、その経営は多かれ少なか
118
119
第２章 産業資本の形成
れそうした「家内労働」によって補充されていたし、また補充されねばならなかった。しかし、なぜそうだったのか。
ここでは、さしあたって、次の二つの技術的な事情を指摘しておきたい。０十八世紀になってもなお、たとえば織機
のような基本的生産要具を織布工が自分で製作することも可能だったほどで、したがって労働者たちも比較的容易に
小生産者へ上昇しえたｙ｝Ｕ、撃ﾜた「分業にもとづく協業」としてのマニュファクチャーでは、工場（＝機械体系）
のばあいと異なって、諸労働者間に一定の合理的な比例関係が経験的にうちたてられ、したがって経営の構成はおの
ずからそうした労働者の組み合わせ一単位の倍数とならなくてはならぬ。前述したマニュファクチャーの発達した形
態がいくつかの職場の結合体となってくるのもそのためであるが、また諸工程間、たとえば織布と紡糸などのあいだ
に生してくる発展の不均等は、労働者たちの反抗をも含めて、そうした職場内での比例的均衡の成立をたえず妨げ、
そのためにどうしても外側の小生産者たちを外業部として編制し、それで補充しなければならなかったこと。要する
に、質的にも量的にも、なお「狭隘な技術的基礎」（マルクス）のしがらしめるところであったということができよう。
＊ 前出二一一頁。
＊＊ これは周知の事実というべきであろう。いや、むしろ、それが現象の上では余りにも目立ちすぎるために、マニュフ″クチ
″Ｉ経営の中心をなす「職場」がその背後にかくされてしまい、工場制度の前段階は「問屋制度」であるかのような通説が生ま
れてきたのである。そうした点で興味ある事例としては、たとえばＷａｄｓwｏｒｔｈ ａｎｄ
Ｄｅ 」｡ Ｍａｎｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢ ｐｐ. ２８８ ｆ£｡; 」ipｓｏｎ｢
Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Hiｓｔｏｒｙ ｏｆ
Ｅｎｇｌａｎｄ｢ ＩＩ｢ ｐｐ. １７８ ff.をみよ。
＊＊＊ Ｗａｄｓwｏｒtｈ ａｎｄ Ｄｅ Ｌ. Ｍａｎｎ｢ ｏｐ. aｔ.｢
ｐｐ. ４９-５３ ; Ｈｅａｔｏｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔｐｐ. ２９３-４.
１‐ ｊ
＊＊ マルクス『資本論』第一部、第十二章、とくに第三−四節をみよ。なお、すでにしばしば言及したヨークシ″１西部の「農
村工業」地帯、とくにリース周辺では、十六世紀後半「ノーザンーダズン」とよばれる大幅毛織物（長さ匸一ヤール、幅一ヤー
ル四分の三）を毎週四反製造するために、六〇人の労働者のあいだで、次のような比率の分業がおこなわれていたといわれる。
Ｈｅａｔｏｎ{ ｏｐ. ｃｉｔ.} ｐ. １０８
ｆ.
選毛、除塵および染色
紡毛および刷毛
織布および仕上げ
匸一人
三〇人
匸一人（内おそらく四人が仕上げエ）
120
雑役、たとえば原料・製品運搬 六人
求@マニュファクチャーと「問屋制度」の絡み合いは、もちろん右のような「家内労働」だけではなく、いっそう
広汎かつ複雑なものであった。それには、次の事情をいま一度思い浮べてみなければならない。まず、中世末期あた
りからヨーロッパの各地で展開しはしめた「農村工業」が古い封建的な社会諸制度の基礎を深部から揺がしつつ（いわ
ゆる「封建制の危機」）、古い「中世都市」を基盤とする「問屋制度」を崩壊させるとともに、とくに「農村」地帯を
基盤として押しも押されぬ産業資本（＝マニュファクチャー）をそこここに分出させるにいたったことは、すでに述べ
たとおりである。ところが、他方では、すでに基礎を揺がされは匕めたにせよ、古い封建的諸制度の根はなお堅く、
とくに「中世都市」の或るものは、むしろ「農村工業」の発達を逆に利用しながら、遠隔地間商業の拠点として息を
吹きかえし、またギルド制を新たな形態で再編制し（たとえば、イギリスのカムパニー制やフランスのジュランド制）、
そうしたギルド制をまたもや経済外的な支えとして「問屋制度」が展開され、’しかもその支配網は、いまや「農村」
地帯にまで押しひろげられはしめた。このこともまた、すでに述べたとおりである。以上二つの歴史の潮流は、絶対
王制の形成期からその崩壊期、つまり市民革命期までのいわゆる絶対主義の時代を通じて、もちろん相互に激しく対
抗しつつ、しかも複雑な形で相互に重なりあっていた。そしてそのなかで、マ’こファクチャーと「問屋制度」的支
配のさまざまな絡み合いが作りだされたのであっ刎。
＊ イギリス経済史のうえで、そうした都市のもっとも典型的なものがロンドンであることは、ほとんど問題がない。その他ブリ 21
ストル、エクセター、ノリッジなどその数は多い。拙著「近代欧洲経済史序脱」上の二、二耳七頁注叨、「著作集」第二巻、二
ｋ。
。一四頁注（２）、Ｕ. Ｋ. １ ａｙleｒ｢
Ｌｅｌａｎｄ ｓ ｉｉｎｇｉａｎｄ｢ Ａｎ Hiｓｔｏｒｉｃａｌ
Ｇｅｏｇｒａｐｈｙ ｏｆ Ｅｎｇｌａｎｄ>
ｅｄ. ｂｙ Ｈ. Ｃ. Ｄａｒｂｙ; Ｄｏ.｢ Ｃａｍｄｅｎ'ｓ
Ｅｎｇｌａｎｄ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.など参照。
＊＊ イギリス史上やフランス史上にみられるような正常的な市民革命では、農村地帯のマニュフ″クチ″‐が都市を拠点とする
「問屋制度」を圧服することになる。だからこそ、イギリスにおいても、フランスにおいても、産業革命は「農村工業」の基
盤の上で進行し、新興の工業都市もまたそこから現われてくることになる。この点については次項で、さらにより包括的には、
第三章「封建制から資本主義への移行」で言及するはずである。
ここでも、いちおう、繊繿工業のばあいに事例をとって説明していくことにしよう。さて、こうしたいわば絶対王
制期の「問屋制度」も、さしずめ、その外貌は古い中世のそれに相似していたといってよい。織元、つまりさまざまな
小生産者たちを原料その他の前貸によって支配し組織する問屋制商人は、依然「都市」に住み、準備工程や仕上げ工
程でしばしば自分の職場をもち、また支配下にある染色エ・仕上げエたちも比較的多く「都市」に住居をもっていた。
また、ひろく周辺「農村」の貧農の婦人・小児たちに紡糸工程の下請をさせていた点でも古い「問屋制度」と相違して
いたとはいいがたい。しかし、「首位かつ純正な部分」といわれた織布工程に携わる織布工たちの比較的多数、それに
仕上げ工たちのある者も、もはや「都市」ではなくて、ギルド的規制の力の比較的浸透しがたい「農村」地域に散住
しており、織元はこうした織布エたちをもひろく問屋制支配の網のなかに繋ぎ止めねばならなくなっていたのである。
これは古いものと異なる決定的に重要な点であった。なぜなら、それは「問屋制度」の弛緩を、つまり「農村」地域
にあって独立の成長をとげようとする小生産者たちに対して、彼らをなおも支配の下に繋ぎとめようとする織元の経
済外的な強制力が、多かれ少なかれ、弱化しはじめていることを意味したからである。事実、イギリスや南ネーデル
ラント、それに北フランスなどの先進地域で明白にみられたように、「都市」の向上心にとむ織布工たちはギルド規制
からの解放を求めて「農村」地帯に逃れ、本来「農村」地帯で成長しつつあった小生産者たちとともに、「問屋制度」
の支配から独立して自由に経営を拡大し、「農村工業」を基盤とするマニュファクチャー形成の動きに参加していった。
さきの「都市の織元」に対して「農村の織元」とよばれる人々である。そして、イギリスやフランスでは、この動き
を抑えようとするさまざまな政治的努力にもかかわらず、ついに市民革命にいたって「農村工業」の勝利におわるこ
ととなる。しかし、「農村」を基盤とするマニュファクチャーの成長は、どこでもこのように順調に進行したわけでは
なかった。西ドイツでは「都市の織元」の支配はかなりがっちりと農村織布工たちを繋ぎとめ続けたし、さらに東ド
イツのグーツヘルシャフト地域では、問屋制支配が領主規制と露骨に結合しつつ「農村工業」をむしろ惨めな停滞の
Ｏ うちにおとしいれてしまったことも、すでに見たとおりである。それはそれとして、ここでは冫阻翁隻寸ぐゴ曁气Ｉ
制度」の対立と絡み合いのあいだで、さまざまなニュアンスの相違を含みつつ、「問屋制支配のもとに小マニュファク
ー −―Ｆ−ＩＩＩ■−−ｉ−− ！￥１
！！ｌｔｇＩＩ♂ＩＩＩＩ１ＩＩＩ。
チャーが包摂されている」という関係が作りだされていたことを注意しておきたい。
＊Ｊ. Ｋｕliｓｃｈｅｒ｢ Ａｌｌｇｅｍｅｉｎｅ Wiｒｔｓｃｈａｆｔｓｇｅｓｃｈｉｃｈｔｅ｢
ＩＩ｢ ＳＳ. １１３-３７.その他前出、九三頁の注＊に掲出した文献のほかに、Ｗ;
Ｔｒｏｅｌｔｓｃｈ｢ Ｄｉｅ Ｃａｌwｅｒ Ｚｅｕｇｈａｎｄｌｕｎｇｓｋｏｍｐａｇｎｉｅ ｕｎｄ ｉｈｒｅ Ａｒｂｅｉｔｅｒ｢ １８９７; Ｅ. 」ｅｖａｓｓｅｕｒ｢ Ｈｉｓｔｏｉｒｅ ｄｅｓ ｃｌａｓｓｅｓ ｏｕuｒｉｅｒｅｓ
ｅｔ ｄｅ Ｔｉｎｄｕｓｔｒｉｅ ｅｎ Ｆｒａｎｃｅ｢
ＩＩ｢ １９００.金属工業についてはＨ. Hamilｔｏｎ｢ Ｔｈｅ
Ｅｎｇｌｉｓｈ Ｂｒａｓｓ ａｎｄ Ｃｏｐｐｅｒ Ｉｎｄｕｓｔｒｉｅｓ ｔｏ １８００｢
産業資本の形成
第２章
１９２６; W. Ｈ. Ｂ. Ｃｏｕｒt｢ Ｔｈｅ Ｒｉｓｅ ｏｆ Ｍｉｄｌａｎｄ Ｉｎｄｕｓｔｒｉｅｓ １６００-１８３８｢ １９３８; Ａ.
Ｔｈｕｎ｢ Ｄｉｅ Ｉｎｄｕｓｔｒｉｅ am Ｎｉｅｄｅｒｒｈｅｉｎ ｕｎｄ
ｉｈｒｅ Ａｒｂｅｉｔｅｒ｢ １８７９｢ ＩＩなどをあげておく。
＊＊ Ｓ. Ｐ.｢ Ｈｅｎ. ＶＩＩＩ｢ １５３９｢ Ｔｕｄｏｒ
Ｅｃｏｎｏｍｉｃ Ｄｏｃｕｍｅｎｔｓ｢ Ｉ｢
ｐ. １７７.
＊＊＊ 拙著『近代欧洲経済史序説』上の二、第二編、第二章第二節、「著作集」第二巻。私はこの表現をアンウィンの＾ｔｏwｎ
ｃｌｏｔｈｉｅｒ))
丶丶
と((ｃｏｕｎｔｒｙ ｃｌｏｔｈｉｅｒ))から転用した。この両語をむしろ私とほぼ同様の意味に用いるものとしては、フランデルン毛織物工業
に関するコールナールトの研究がある。Ｅ. Ｃｏｏｒｎａｅｒｔ｢ Ｌａ ｄｒａｐｅｒｉｅ-ｓａｙｅｔｔｅｒｉｅ ｃＦＨｏｎｄｓｃｈｏｏｔｅ｢ ｐ. ２７３
ｆ.について参照された
’い。
＊＊＊＊ イギリスについては、拙著、前掲書、上の二、三七九一四〇四頁、「著作集」第二巻、三四四−六四頁、フランスについて
123
122
−− ―Ｉ
−‐‐― −−−Ｉ
はＴａｒle｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢ Ｃｈａｐ. Ｉｌｌをみよ。
なお、絶対王制期を特徴づけるこのような「問屋制度」とマニュファクチャーの絡み合いについては、『二重要な
｀事実を追加しておかねばならない。まず、「農村工業」を基盤としてマニュファクチャーが成長してくるばあい、それ
を経営する「農村の織元」（＝産業資本）のあるものが経営のいち匕るしい拡大とともに、しだいに前期的な性格の商人
と化し、前述の「家内労働」支配を起点に「問屋制度」の網をしだいに広げて、ついに「都市の織元」型の問屋制商
万人にいわゆる上昇・転化をと濮陌ｔいうことである。この事実は、後進地域ではいっそうしばしば見られるが、イギ
リス、南ネーデルラント、フランスなどの先進地域でさえ絶対王制期の前半にはかなり明瞭であり、しかもそのばあ
い、上昇・転化をとげた大「織元」たちの立地である「農村」にはしだいにギルドが作りだされ、ついには特権「都
市」（＝中世都市）に成長する事実さえみられる。そればかりではなく、大「織元」たちは、さまざまな形でしだいに土
地を兼併しつつ、ついには封建的な「寄生地主」Ｔジェントリー）にさえ上昇・転化するのであるが、この点は後段の
問題として割愛しておかねばなら臨べ。それよりも、ここで指摘しておきたいのは、こうした大谷轡澱≒糾椢繝どご。
−１１ −−−――¶−１１１
でもしばしば巨大マニュファクチャーの経営者として現わＩれたということである。しかも、そのばあい、彼らのマニ
ュファクチャーはギルド規制を伴った問屋制支配の頂点にたち、「問屋制度」の維持と強化をたすける関係にあったげ
かりでなく、マニュファクチャー自体の内部組織にも経済外的な規制が深く絡みこみ、「地獄の軍隊」といわれるよう
な様相をさえ呈していたのであった。つまり、この種の大「織元」は結局、「都市の織元」たちと同様、古い封建的な
社会諸制度に足場をもち、そうしたものと基本的な利害を共通にしていたということができる。
＊ 古い封建的な諸制度の残存度がつよく、したがって「農村工業」（＝局地的市場圏）の形成度が弱いばあいには、マニュフ″ク
チ″―の萌芽が少し拡大すれば、たちまちに前期的な「問屋制度」に転化する傾向がみられる。たとえば、、ｒｈｕｎ｢
ａ. ａ. Ｏ.｢ Ｉ-
産業資本の形成
第２章
1２4
ＩＩ; Ｚ.-W. Ｓｎｅｌｌｅｒ｢ 」ａ ｎａｉｓｓａｎｃｅ
ｄｅ l'ｉｎｄｕｓｔｒie ｒｕｒａｌｅ ｄａｎｓ leｓ Ｐａｙｓ-Ｂａｓ ａｕｘ ＸＶ１１０ ｅｔ ＸＶＩ１１６ ｓｉｅｃｌｅｓ｢ Ａｎｎａｔｅｓ ｄｈｉｓｔoiｒｅ ｉｃｏｎ.
ｅｔ ｓｏｃ.｢ １９２９などを参照。
＊＊ たとえば、前出、一〇〇頁注＊＊＊で述べたイギリスのサフォーク州ラヴェナム村と対比しながら、南ネーデルラント、フ
ランデルンのホントスホーテの事情を考察すれば、きわめて興味深い（Ｃｏｏｒｎａｅｒｔ｡
ｏｐ. ｃｉｔ.｢ ｐｐ. ８８ ｆｆ.｢ ２７２( ３７７
ff.）。ところで、口
ウズによると、エリザベス期のイギリスでは三二の都市が「特権都市」に上昇・転化しているというが｢Ａ. 」｡ Ｒｏwｓｅ｢ Ｅｎｇ-
ｌａｎｄ ｏｆ Ｅｌｉｚａｂｅｔｈ｢ ｐｐ. １６６-８｣’とくに西部地方にそうした上昇・転化型の「都市」が多く見出されるのではなかろうか。この
点に関して、角山栄「イギリス農村工業におけるジェントリ織元の成立」『経済理論』三一号、匸一頁にみられる鋭利な指摘に
注目しておきたい。―それにしても、「農村の織元」↓「都市の織元」、農村都市↓ギルド制特権都市、というような上昇・
転化はいりたいどのような事情に起因するのであろうか。これはきわめて重要な問題であるが、さしあたって次のような説明
を試みておこう。「農村」を基盤として形づくられる「局地的市場圈」はもちろん生産諸部門間の不均等発展をその内部にはら
んでいる。この不均等発展は、一方において、「局地的市場圈」が「地域的市場圏」に拡大され、さらに統一的国内市場に成長
していく起動力ともなるのであるが、また他方においては、「局地的市場圏」の拡大・成長が比較的低度な段階で、しかも発展
の不均等性が異常に激しいばあい、その内部での社会的分業の構造は、結果として、さきに述べた中世都市的「首都市場圈」
のそれにいち匕るしく接近してしまう。こうした市場構造の歪み（あるいは「局地的市場圈」の狭隘さ、といってよいだろう）、
これが、「農村の織元」の蓄積基盤と、したがってその社会的性格を前期的なものに転化させ、そしてそれを通じてＥ「都市」の
性格をも転化させるのだ、と考えるべきであろう。すでに述べた諸例の史実について検討されたい。
＊＊＊ これは第三章「封建制から資本主義への移行」における重要なテーマの一つとなるであろう。
＊＊＊＊ 前出、二三−五頁、二九頁注＊＊＊をみよ。
＊＊＊＊＊ このような大「織元」ないし特権的大産業資本はイギリスでもフランスでも市民革命のさいに徹底的に打倒される。この
点では、市民革命は二つの性格ないし型の産業資本同士の対抗としてあらわれてくる。社会経済史家によって「フランス大革
命の反資本主義的傾向」などとよばれているものは、まさにこれである。−なお、絶対王制期のイギリスでは、炭坑業の発
達を基礎に、火薬工業、明礬工業、ガラスエ業などさまざまの工業賭部門が勃興しており、。ネフによ。て「早期産業革命」と 25
さえよばれているのであるが、それらはド″プがすでに指摘しているように、むしろ上昇・転化型のものでありたことに注意
．洫、
ｋ
フ
第２章 産業資本の形成
。丶♂Ｉ廴♂Ｓｒ―ｌ
ｌ−
しなければならない。念のためにいっておくが、そうした特権的企業が打倒されたということと、その生産力がのち何らかの
形で遺産として継承されたということは、決して矛盾するものではない。Ｊ. Ｕ. ＩＮｅｉ｢ Ｉｈｅ
Ｐｒｏｇｒｅｓｓ ｏｆ Ｔｅｃｈｎｏｌｏｇｙ ａｎｄ ｔｈｅ
--ｈ26
１０w-ｉｏw｢ ｅｃｏｎｏｍiｃ Hiｓｔｏｒｙ
Ｋｅｖiew｢ Ｖ／ｌ｢ １９３５ ; Ｈ. Ｌｅｖｙ｢
Ｍｏｎｏｐｏｌｅ｢ Ｋａｒ■
"Ｊ" me ｕｎａ <_。ｅｇｅｎｘｖａｒｔ ｄｅｒ
ｅｎｇｌｉｓｃｈｅｎ Ｉｎｄｕｓｔｒie｢ ２. Ａｕｆｌ.｢ １９２７｢
ＳＳ. ３８-５３; Ｍ. Ｄｏｂｂ｢ Ｓｔｕｄｉｅｓ
ｉｎ
ｔｈｅ uｅｖｅｌｏｐｍｅｎｔ ｏｆ Ｃａｐｉｔａｌｉｓm｢ １９４６｢ ｐｐ. １４２｢
２６４ ;角山栄「イギリスにおける初期産業革命と特権マニュフ″クチ″Ｉ≒経
済理論」創立三十周年記念特集号、などをみよ。
求@市民革命以後におけるマニュファクチャーの動向を見究めるためには、どうしても視野をひとたびはイギリス
に狭めねばならない。そのことはさきに指摘しておいたとおりであるが、「問屋制度」とマニュファクチャーの絡み合
いを論ずるばあいにももちろん同じである。そこで以下では、もっぱらイギリスの史実にもとづいてその基本線を追
究していくことにしよう。イギリスでも、絶対王制期を特徴づける古い「問屋制度」の支配は、市民革命（とくにピュ
ウリタッ革命）にさいして、下から、「農村工業」を基盤として台頭してきた産業資本（＝マニュファクチャー）の利害
によって打ち砕かれたが、しかし十七世紀末の名誉革命あたりから十八世紀末の産業革命期にかけて、「問屋制度」は
三たび新たな形で展開されている。このことは、とくにマニュファクチャーの発達が純粋培養に近かったとさえいわ
れる例のヨークシャー西部Ｈランカシャーの「農村工業」地帯についてみるとき、ほとんど問題なく明らかであるとい
ってょら。それでは、こうした市民革命期以後の、しかも「農村工業」を基盤として展開される「問屋制度」は、い
うたい古いものとどこが異なり、ｔたあの顕著な発展をとげつつあるマ‘一ユファクチャーとどのような関係にたって
いたのであろうか。
＊たとえばｖｖ ａａｓwｏｒｔｎ ａｎａ Ｕｅ
jl. Ｍａｎｎ｢ ｏｐ. ｔｉｔ.｢ Ｂｏｏｋ
Ｉ｢ Ｃｈａｐ. ４.
この段階における「問屋制度」もまた、ただ外貌を一見するだけでは、絶対王制下のそれにかなり相似していたと
いえよう。問屋制商人としての織元は「都市」に住んでいたし、また「農村」地域にすむさまざまな「前貸仲立ち人」
ｐｕｔｔｅｒｓ-ｏｕｔたちを通して広汎な「農村」織布工や農家の婦人・小児たちの労働を問屋制的に支配していたぽかりでな
く、支配下の生産者のうちにさまざまなマニュファクチャーが含まれており、とくに「前貸仲立ち人」が同時にしば
しばマニュファクチャー経営者であったことは疑いがたい。しかし、それにもかかわらず、前の段階の「問屋制度」
とは、すでに決定的な点で異なるものとなっていた。何よりもまず、この時期には、その他の封建的な社会諸制度と
ともに、特権諸「都市」のギルド制度がその規制力をほとんど喪失し、すでに単なる地方的遺制に化していたばかり
ではない。とくに、例のヨークシャー西部Ｈランカシャーの広汎な「農村工業」地帯などでは、マンチェスターをは匕
めウェイクフィールド、（リファックス、ブラッドフォードなど、織元たちの拠点たる諸「都市」は、すべてギルド
制度のない、つまり以前の工業「村落」が拡大されたままのいわゆるＯｐｅｎ ｔｏwｎｓだったのである。この事実に照応し
て、問屋制支配はもはやあの経済外的な強制力を伴ってはおらず、したがって「問屋制度」そのものが「無数の組織
形態をそのうちに包含しうる緩やかな枠」（ウォズワース）と化して、「問屋制度」とマニュファクチャーの関係は市民
革命以前とまったく異なったものとなってしまっていたのである。事実、日「問屋制度」は、あの顕著な発達をとげ
たさまざまなマニュファクチャーと広汎に並存するものとなっていたばかりでなく、富裕な織元たちは、問屋制前貸
と同時に、マニュファクチャーの製品の販路をうけもち、あるいはその商業手形を割引くなりして、商業および金融
の面でマニュファクチャーの経営を掩護し、むしろそうした産業資本（‥‥マニュファクチャー）の利害に従属するとい
う性格を示すようになっていた。のみならず、喧竕ｮ制支配の下にある小生産者たちも、かつてのように経済外的な
強制力によってその経済的上昇を抑えられるというようなことは、もはや、なかった。むしろ、そうした小生産者の
なかからは、経済的に独立し、その職場を拡大してマニュファクチャー経営者（＝産業資本）に上昇する者がたえず現
127
ｊ
１。
産業資本の形成
第２章
われた。また、そうしたマニュファクチャー経営者のうちのあるものは、前述したような「家内労働」支配をいっそ
う拡大して「前貸仲立ち人」となり、さらにその少数は富裕な織元（＝問屋制商人）ないし商人卜金融業者に、「地主」
にさえ上昇するのがみられた。十八世紀のヨークシャー西部ｎランカシャー地方では、こうしたいわば社会的対流現
象は一つの特徴的な事実をなしていたとさえいわれている。ただそのばあい決定的に重要なのは、「問屋制商人」とな
るにせよ、「地主」となるにせよ、そうした社会的「上昇」がたえずおこなわれたとしても、彼らの歴史的な性格が封
建的・ギルド的なものに「転化」することはもはや機構的にありえなかったということであろう。ともあれ、このよ
うにして産業革命前夜のイギリスでは、「農村工業」とその基盤のうえで成長するマニュファクチャーの経済的利害が
基幹的産業部門（＝いわゆる国民的産業）をすでに全面的につかみとっていたのであった。
＊ 拙稿「問屋制度の近代的形態」『近代資本主義の系譜』前編、「著作集」第三巻、所収、および、とくにヨークシ″Ｉ西部ｎランカ｀
ジャーについては、Ｈｅａtｏｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢
Ｃｈａｐ. ＩＸ ; Ｗａｄｓwｏｒtｈ ａｎｄ Ｄｅ 」｡ Ｍａｎｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢ Ｂｏｏｋ
ＩＩＩ.その他の地帯については、さ
しあたって」ipｓｏｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢
ＩＩ｢ Ｃｈａｐ. Ｉを参照。
＊＊ Ｗａｄｓwｏｒｔｈ ａｎｄ Ｄｅ Ｌ. Ｍａｎｎ｢ ｏｐ. ｔｉｔ.｢ ｐ. ７０
ｅｔｃ.マニュファクチ″１期を通じて、イギリス最大の毛織物工業の中心地であっ
た西部諸州の事情を、上述のヨークシ″−西部Ｉフンカシ″Ｉのそれと本質的に類型を異にしていたと考えることは、ビートン
の指摘しているとおりもちろん誤りであろう（Ｈｅａtｅｎ｢ ｏｐ. ｃｉｔ.｢ｐ. ９２ ｎ. １」。しかし、この地方で「問屋制度」の展開がより顕
著かつ頑強であったこともやはり疑いえない。ところで、そうしたこの地方でさえも、十八世紀となれば、問屋制支配の下に
ある織布エたちは、一人の織元のみに支配されることなく、同時に三、四人、ときには五人の織元と取引をもち、「自分の好む
種類の仕事をえらぷことができた」。そして、それは「彼らの独立心をたかめた」といわれている。」ipｓｏｎ｢
ｏｐ. ｔｉｔ.｢ ＩＩ｢ ｐ. ３２.
＊＊＊ 拙稿「信用関係の展開」大塚久雄編『資本主義の成立』河出書房「経済学新大系」十一、「著作集」第五巻所収をみよ。なお、
具体的な事例はＷａｄｓwｏｒtｈ ａｎｄ Ｄｅ 」｡ Ｍａｎｎ｢
ｉｂｉｄ.に数多掲載されているが、とくにＪ. ａｎｄ
Ｎ. Philipｓ ａｎｄ Ｃｏｍｐａｎｙのばあい
を参照° Ｏｐ. Ciｔ.｢ ｐ. ２８８ ｆｆ.
それはそれとして、つＥＥ革命後に展開される「問屋制度」はいったいどのような生産的基盤のうえに築かれていた
のだろｙ」ｎ卜更実の示すところは、ほぼ次のとおりである。すなわち、「農村工業」を基盤とする「中産的生産者層」
の両極分解とそれに照応するマニュファクチャーの発達は、すでに述べたように、十八世紀のイギリスではそうとう
の進展ぶりを示していた。［方ではさまざまな形のマニュファクチャーとその雇傭労働者層が形成され、他方では、
その競争力に押されて貧窮化する小生産者の群はますます増大していた。「問屋制度」はもはや、マニュファクチャー
ヘ上昇しようとする小生産者層の向上的部分をも自己の経済外的な規制の中にとりこもうとするような努力を不可能
とされており、むしろ「中産的生産者層」の両極分解（＝マニュファクチャーの形成）をすでに与えられた事実として
前提し、そのうえで、両極分解の結果貧窮化していく広汎な小生産者下層の上に前貸支配の網を広げていたのである。
これを「問屋制度の近代的形態」ともよぶことができるであろう。ただ、さきにも述べた独自の「狭隘な技術的基礎」
のために、マニュファクチャーは、「中産的生産者層」を完全に分解しつくすことなく、むしろ自己の存立に必要な補
充物として、かえって小生産者層を多かれ少なかれ広汎に再生産していくほかはない。こうして、マニュファクチャ
ーが産業資本の支配的な生産的基礎であるかぎり、「問屋制度」はこのような近代的形態をとりながら存統することが
同時近代的形態う肖
すでにポールーマントゥーが鋭利に指摘したとおりである。つまり、産業資本の歴史的形成を推進していく根源的な
「深部の力」は、この段階においても、やはり明らかに『中産的生産者層』の両極分解とそれによるマニュフ″クチ
ャー（―産業資本）の発達であった。
＊ 拙稿「問屋制度の近代的形態」『近代資本主義の系譜』前編、二〇九頁以下、「著作集」第三巻、二〇八頁以下をみよ。
＊＊ これは前述の社会的対流現象と矛盾することがらではない。社会的上昇が個々の生産者に関するものであるに対して、これ
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第２章 産業資本の形成
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は全機構的な動向である。分かりきりたことと思うが、念のため一言しておく。
＊＊＊ 前出、匸一三−四頁。
＊＊＊＊ ｒ. Ｍａｎｔｏｕｘ｢ １ ｈｅ ｉｎｄｕｓｔｒｉａｌ
Ｒｅｖｏｌｕｔｉｏｎ in ｔｈｅ Ｅｉｇｈｔｅｅｎｔｈ Ｃｅｎｔｕｒｙ｢
ｐ. ２７０ （マント。、徳増・井上・遠藤訳「産業革命」
五一九−二○頁）および前出、一三〇頁以下を参照。
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