刑法

◎

　正しいものはどれか。

１

　日頃から仲の悪い夫婦が口論のあげく，妻は「もう自殺するしかない」と言い残して家を出て行った。夫は妻が死んでくれた方が好都合だと思って，ひきとめなかったところ，妻が言葉通り自殺した場合には不作為による自殺幇助作が成立する。

２

　１週間の約束で材料置場として土地を借りた建築業者が，地主の立退きの要求にもかかわらず期間経過後も土地を材料置場に使用しつづけた場合は，不作為による不動産侵奪罪が成立する。

３

　医師は正当な理由なく診断を拒むことができない法律上の義務を負っているが，深夜往診を依頼された医師がたいしたことはないと思って患者の家に行かなかったところ，手当がおくれて患者が死亡した場合には不作為による業務上過失致死罪が成立する。

４

　雪の朝，住宅地の自宅の前の道路に浮浪者が倒れているのを発見したが，かかわりあいになるのをおそれて保護も公務所への通知もしなかったところ，浮浪者が凍死した場合には不作為による遺棄致死罪が成立する。

５

　人通りのない山の中の道路で自動車を運転中人をひいたが，そのまま死体をその場に放置して立ち去った。不作為による死体遺棄罪が成立する。

　正　解　　　０

◎	正しいものはどれか。 (4650) 【】 **
１	日頃から仲の悪い夫婦が口論のあげく，妻は「もう自殺するしかない」と言い残して家を出て行った。夫は妻が死んでくれた方が好都合だと思って，ひきとめなかったところ，妻が言葉通り自殺した場合には不作為による自殺幇助作が成立する。誤り。 (4650A) 《》　日頃から仲の悪い夫婦が口論のあげく，妻は「もう自殺するしかない」と言い残して家を出て行った。夫は妻が死んでくれた方が好都合だと思って，ひきとめなかったところ，妻が言葉通り自殺した場合には不作為による自殺幇助作が成立する。 (4650A) 《》 ※←　夫の面前で自殺しようとしている場合なら夫婦の協力扶助義務（民法752条）から、自殺幇助罪が成立する可能性はあるが，本問のように，妻が「もう自殺するしかない」と言い残して家を出て行ったにすぎない場合は，自殺という結果発生の切迫性もなく自殺を防止する義務が生じているとは言い難い。というのは，「作為義務を認めるためには，結果防止のために一定の作為がなされなければ結果が現実に生じてしまうどう切迫した危険のあることが必要」であるからである。（法条）。（最判昭）。
２	１週間の約束で材料置場として土地を借りた建築業者が，地主の立退きの要求にもかかわらず期間経過後も土地を材料置場に使用しつづけた場合は，不作為による不動産侵奪罪が成立する。誤り。 (4650B) 《》　１週間の約束で材料置場として土地を借りた建築業者が，地主の立退きの要求にもかかわらず期間経過後も土地を材料置場に使用しつづけた場合は，不作為による不動産侵奪罪が成立する。 (4650B) 《》 ※←　不動産侵奪罪とは，他人の不動産を侵奪する罪である（235条の２）。侵奪とは，不動産に対する他人の占有を排除して，自己又は第三者の占有に移すすべての行為をいう。他人の土地に無断で建物を建てたり，他人の空き家に住み込んだりすると不動産侵奪罪になる。しかし，土地を借りた者が，期間経過後，引き続きそれを不法に占拠していても，これは「奪取」したとはいえないから，この罪は成立しない。（法条）。（最判昭）。
３	医師は正当な理由なく診断を拒むことができない法律上の義務を負っているが，深夜往診を依頼された医師がたいしたことはないと思って患者の家に行かなかったところ，手当がおくれて患者が死亡した場合には不作為による業務上過失致死罪が成立する。誤り。 (4650C) 《》　医師は正当な理由なく診断を拒むことができない法律（医師法）上の義務を負っているが（この義務が直ちに刑法上の作為義務となるわけではないから），深夜往診を依頼された医師がたいしたことはないと思って患者の家に行かなかった（からといって刑法上の作為義務違反があったとはいえないから）ところ，手当がおくれて患者が死亡した場合には不作為による業務上過失致死罪が成立する（とはいえない）。 (4650C) 《》 ※←　（法条）。（最判昭）。
４	雪の朝，住宅地の自宅の前の道路に浮浪者が倒れているのを発見したが，かかわりあいになるのをおそれて保護も公務所への通知もしなかったところ，浮浪者が凍死した場合には不作為による遺棄致死罪が成立する。誤り。 (4650D) 《》　雪の朝，住宅地の自宅の前の道路に浮浪者が倒れているのを発見した（からといって保護義務は生じない）が，かかわりあいになるのをおそれて保護も公務所への通知もしなかったところ（放置したわけであるから移置行為がない），浮浪者が凍死した場合には不作為による遺棄致死罪が成立する（わけがない）。 (4650D) 《》 ※←　単純遺棄罪の遺棄は，作為による移置に限るとするのが判例・通説である。本肢では移置行為がないから単純遺棄にはならない。（法条）。（最判昭）。
５	人通りのない山の中の道路で自動車を運転中人をひいたが，そのまま死体をその場に放置して立ち去った。不作為による死体遺棄罪が成立する。誤り。 (4650E) 《》　人通りのない山の中の道路で自動車を運転中人をひいたが，そのまま死体をその場に放置して立ち去った。不作為による死体遺棄罪が成立する。 (4650E) 《》 ※←　遺棄とは，社会通念上の埋葬とは認められない方渋で死体などを［その現在場所より他の場所に移して放棄すること］をいうから，人を殺しか者が被害者の死体を単に現場に放置したまま立ち去っても死体遺棄罪とはならない。ただし，死体について葬祭の義務を負う者が，葬祭の意思なく死体を放置したときは，不真正不作為犯としてこ）死体遺棄罪が成立する（東京高判昭40・7・19）。本肢では，葬祭の義務がないから死体遺棄罪とはならない。（法条）。（最判昭）。
	正　解　　　０