刑法

◎

　次の【事例】に関する後記１から５までの各記述のうち，甲に窃盗罪の従犯の成立を肯定する論拠となり得ないものはどれか。
【事例】
　甲は，乙又は乙の友人が窃盗罪を犯そうとしていることを知り，その手助けのため，乙に対し，同罪の遂行に必要な道具を貸したところ，さらに，乙はその道具を友人丙に貸し，丙がこれを用いて同罪を犯した。　なお，丙には同罪の正犯が成立し，乙にはその従犯が成立するものとする。

１

　従犯には独立した犯罪性が認められる。

２

　従犯の幇助には，教唆者を教唆した者については正犯の刑を科すとする刑法第６１条第２項のような規定がない。

３

　共犯は修正された構成要件に該当する行為であるところ，従犯もその構成要件においては「正犯」となる。

４

　幇助は正犯を容易にすることであるという定義からすると，幇助行為が直接的になされたか，間接的になされたかは必ずしも問われない。

５

　教唆犯に対する幇助行為は従犯として処罰される。

　正　解　　　２

◎	次の【事例】に関する後記１から５までの各記述のうち，甲に窃盗罪の従犯の成立を肯定する論拠となり得ないものはどれか。【事例】　甲は，乙又は乙の友人が窃盗罪を犯そうとしていることを知り，その手助けのため，乙に対し，同罪の遂行に必要な道具を貸したところ，さらに，乙はその道具を友人丙に貸し，丙がこれを用いて同罪を犯した。　なお，丙には同罪の正犯が成立し，乙にはその従犯が成立するものとする。 (2803) 【窃盗罪の従犯】 **
１	従犯には独立した犯罪性が認められる。なり得る。 (2803A) 《》　従犯には独立した犯罪性が認められる。 (2803A) 《》 ※←　（法条）。従犯に独立した犯罪性を認めると，従犯に正犯と類似する性格が認められ，従犯を62条１項の「正犯」に含める見解に結び付く。これを前提にすると，丙の従犯たる乙は「正犯」に当たるため，乙を「幇助」した甲に従犯の成立を肯定しうる。よって，設問の記述は甲の従犯の立の肯定の論拠となる。
２	従犯の幇助には，教唆者を教唆した者については正犯の刑を科すとする刑法第６１条第２項のような規定がない。なり得ない。 (2803B) 《》　従犯の幇助には，教唆者を教唆した者については正犯の刑を科すとする刑法第６１条第２項のような規定がない。 (2803B) 《》 ※←（法条）。間接教唆を処罰する明文（61条２項）がある一方で，間接幇助を処罰する明文の根拠はないので，間接幇助を処罰しないという方の趣旨が読み取れる。よって，間接幇助について61条２項のような規定がないことは,【事例】の甲のような間接幇助を肯定する論拠とはなりえず，甲の従犯の成立を肯定する論拠とならない。
３	共犯は修正された構成要件に該当する行為であるところ，従犯もその構成要件においては「正犯」となる。なり得る。 (2803C) 《》　共犯は修正された構成要件に該当する行為であるところ，従犯もその構成要件においては「正犯」となる。 (2803C) 《》 ※←　（法条）。設問の記述は，62条１項の「正犯」に従犯も含めるという考えである。これによると，丙の従犯である乙は，62条１項の「正犯」に当たることになる。よって，乙を幇助した甲に幇助犯が成立することになり，従犯の成立の肯定の論拠となる。
４	幇助は正犯を容易にすることであるという定義からすると，幇助行為が直接的になされたか，間接的になされたかは必ずしも問われない。なり得る。 (2803D) 《》　幇助は正犯を容易にすることであるという定義からすると，幇助行為が直接的になされたか，間接的になされたかは必ずしも問われない。 (2803D) 《》 ※←　（法条）。「幇助」の意義を設問のように解すると，甲は，丙の犯罪を間接的に幇助した者であり，「正犯を幇助した」に当たる。よって，甲の従犯の成立を肯定する論拠となる。
５	教唆犯に対する幇助行為は従犯として処罰される。なり得る。 (2803E) 《》　教唆犯に対する幇助行為は従犯として処罰される。 (2803E) 《》 ※←　（法条）。教唆犯は従犯と並んで狭義の共犯に分類される。そして，教唆犯に対する幇助行為が従犯として扱われるのに対し，従犯に対する幇助行為が従犯として扱わない理由はなく，設問の記述は間接幇助を肯定する論拠となる。よって，【事例】で間接幇助をした甲の従犯の成立を肯定する論拠となる。
	正　解　　　２