刑法

◎

　次の１から５までの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものはどれか。

１

　甲は，Ａの太ももを蹴って怪我をさせたが，甲には，Ａに傷害を負わせるまでの意思はなかった。甲には傷害罪は成立しない。

２

　甲，乙及び丙が，互いに意思の連絡をすることなく，同一の機会にそれぞれＡに暴行を加えて怪我をさせたところ，その怪我は，乙又は丙いずれかの暴行によるものであり，甲の暴行によるものではなかった。Ａがその怪我により死亡した場合，乙及び丙には傷害致死罪が成立し，甲には傷害罪が成立する。

３

　甲は，四畳半の室内で，Ａを脅す目的で，さやから抜いた日本刀をその面前で数回振り回したところ，誤ってその日本刀の刃先がＡの腕に当たり，Ａに怪我を負わせた。甲には傷害罪は成立しない。

４

　甲は，路上でトラブルとなったＡの顔面を１回殴ったところ，Ａは，その暴行によりバランスを崩し，足下にあった石につまずいて路上に転倒し，頭部を強く打ち付けて怪我をし，これにより数時間後に死亡した。甲がＡの死亡の結果を全く予見していなかった場合でも，甲には傷害致死罪が成立する。

５

　甲は，Ａら数名が殴り合いのけんかをしているところにたまたま通り掛かり,｢もっとやれ｡｣と言ってはやし立てた。Ａらけんかの当事者が怪我をせず，Ａらの暴行が互いの相手に対する暴行罪にとどまる場合でも，甲には現場助勢罪（刑法第２０６条）が成立する。

　正　解　　　４

◎	次の１から５までの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものはどれか。 (2814) 【】 **
１	甲は，Ａの太ももを蹴って怪我をさせたが，甲には，Ａに傷害を負わせるまでの意思はなかった。甲には傷害罪は成立しない。誤り。 (2814A) 《》　甲は，Ａの太ももを蹴って怪我をさせたが，甲には，Ａに傷害を負わせるまでの意思はなかった。甲には傷害罪は成立しない。 (2814A) 《》 ※←　（法条）。判例（最判昭25・11・ 9）は，傷害罪は暴行罪の結果的加重犯であるから，その成立には障害の原因たる暴行についての意思が存すれば足り，特に傷害の意思の存在を必要としないとしている。よって，甲には，Ａに傷害を負わせるまでの意思はなかったとしても，怪我をさせた以上，傷害罪が成立する。
２	甲，乙及び丙が，互いに意思の連絡をすることなく，同一の機会にそれぞれＡに暴行を加えて怪我をさせたところ，その怪我は，乙又は丙いずれかの暴行によるものであり，甲の暴行によるものではなかった。Ａがその怪我により死亡した場合，乙及び丙には傷害致死罪が成立し，甲には傷害罪が成立する。誤り。 (2814B) 《》　甲，乙及び丙が，互いに意思の連絡をすることなく，同一の機会にそれぞれＡに暴行を加えて怪我をさせたところ，その怪我は，乙又は丙いずれかの暴行によるものであり，甲の暴行によるものではなかった。Ａがその怪我により死亡した場合，乙及び丙には傷害致死罪が成立し，甲には傷害罪が成立する。 (2814B) 《》 ※←（法条）。同時傷害の特例の適用要件(207条）の一つとして，「その傷害を生じさせた者を知ることができないとき」が挙げられる。設問の事例のように甲乙丙３人のうち甲の暴行が傷害の原因でないことが明らかである場合には，残りの乙丙にのみ同条の適用があり，甲には適用されない。その結果として，甲は暴行罪が成立するにとどまる。よって，本肢は誤りである。なお，判例（最判昭26・9・20）は，傷害致死罪の場合にも本条が適用されるとしているので，乙及び丙に傷害致死罪成立するとしている点は正しい。
３	甲は，四畳半の室内で，Ａを脅す目的で，さやから抜いた日本刀をその面前で数回振り回したところ，誤ってその日本刀の刃先がＡの腕に当たり，Ａに怪我を負わせた。甲には傷害罪は成立しない。誤り。 (2814C) 《》　甲は，四畳半の室内で，Ａを脅す目的で，さやから抜いた日本刀をその面前で数回振り回したところ，誤ってその日本刀の刃先がＡの腕に当たり，Ａに怪我を負わせた。甲には傷害罪は成立しない。 (2814C) 《》 ※←　（法条）。判例（最決昭39・ 1 ・28百選Ｈ４事件）は，同様の事案において，狭い室内で日本刀を振り回すことは暴行に当たり，そのことを認識していたのであるから，［暴行］が認められるとしている。そして，かかる行為から怪我という「傷害」結果が発生しているので，傷害罪が成立する。
４	甲は，路上でトラブルとなったＡの顔面を１回殴ったところ，Ａは，その暴行によりバランスを崩し，足下にあった石につまずいて路上に転倒し，頭部を強く打ち付けて怪我をし，これにより数時間後に死亡した。甲がＡの死亡の結果を全く予見していなかった場合でも，甲には傷害致死罪が成立する。正しい。 (2814D) 《》　甲は，路上でトラブルとなったＡの顔面を１回殴ったところ，Ａは，その暴行によりバランスを崩し，足下にあった石につまずいて路上に転倒し，頭部を強く打ち付けて怪我をし，これにより数時間後に死亡した。甲がＡの死亡の結果を全く予見していなかった場合でも，甲には傷害致死罪が成立する。 (2814D) 《》 ※←　（法条）。判例（最判昭26・9・20）は，加重結果の致死について，基本犯である傷害結果との間に因果関係がありさえすればよく，過失，すなわち予見可能性は不要であるとしている。よって，設問の事例において，甲がＡの死亡の結果を全く予見していなかった場合でも，甲には　傷害致死罪が成立する。
５	甲は，Ａら数名が殴り合いのけんかをしているところにたまたま通り掛かり,｢もっとやれ｡｣と言ってはやし立てた。Ａらけんかの当事者が怪我をせず，Ａらの暴行が互いの相手に対する暴行罪にとどまる場合でも，甲には現場助勢罪（刑法第２０６条）が成立する。誤り。 (2814E) 《》　甲は，Ａら数名が殴り合いのけんかをしているところにたまたま通り掛かり,｢もっとやれ｡｣と言ってはやし立てた。Ａらけんかの当事者が怪我をせず，Ａらの暴行が互いの相手に対する暴行罪にとどまる場合でも，甲には現場助勢罪（刑法第２０６条）が成立する。 (2814E) 《》 ※←　（法条）。現場助勢罪(206条）は，［前二条の犯罪］，すなわち傷害罪と傷害致死罪「が行われる」ことが要件であり，暴行罪が成立するにすぎないときは適用の対象外である。したがって，暴行罪にとどまる。
	正　解　　　４