刑法

◎

　過失犯に関する次の１から５までの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものはどれか。

１

　監督過失とは, 直接行為者が過失を犯さないように監督する注意義務に違反する過失をいう｡監督過失を認めるには，直接行為者に構成要件的結果が発生することの予見可能性があれば足り，直接行為者を監督すべき立場にある監督者には，構成要件的結果が発生することの予見可能性までは必要とされない。

２

　重過失とは，注意義務違反の程度が著しく，それによって発生した構成要件的結果が重大なものをいう。

３

　信頼の原則は，交通事故の過失犯だけに適用されるものであり，それ以外の過失犯に適用される余地はない。

４

　注意義務に違反して人を負傷させた場合であっても，相手方に重大な過失があったときには,過失相殺が適用されるので，過失の責任を免れることができる。

５

　過失犯の成立に必要な注意義務は，必ずしも法令上の根拠があることを要しない。

　正　解　　　　５

◎	過失犯に関する次の１から５までの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものはどれか。 (2811) 【過失犯】 **
１	監督過失とは, 直接行為者が過失を犯さないように監督する注意義務に違反する過失をいう｡監督過失を認めるには，直接行為者に構成要件的結果が発生することの予見可能性があれば足り，直接行為者を監督すべき立場にある監督者には，構成要件的結果が発生することの予見可能性までは必要とされない。誤り。 (2811A) 《》　監督過失とは, 直接行為者が過失を犯さないように監督する注意義務に違反する過失をいう｡監督過失を認めるには，直接行為者に構成要件的結果が発生することの予見可能性があれば足り，直接行為者を監督すべき立場にある監督者には，構成要件的結果が発生することの予見可能性までは必要とされない。 (2811A) 《》 ※←　（法条）。監督過失とは，直接行為者が過失を犯さないように監督する者の注意義務に違反する過失をいう。これは，監督者が，非監督者の過失を予見し結果を回避できる立場にあることが必要であり，予見義務と結果回避義務を負う。したがって，監督者にも予見可能性が認められることが必要である。
２	重過失とは，注意義務違反の程度が著しく，それによって発生した構成要件的結果が重大なものをいう。誤り。 (2811B) 《》　重過失とは，注意義務違反の程度が著しく，それによって発生した構成要件的結果が重大なものをいう。 (2811B) 《》 ※←（法条）。重過失とは，わずかの注意で結果が予見でき，かつ，結果の発生を容易に回避することができる場合をいう。そのため，結果の重大匪は問題とならない。
３	信頼の原則は，交通事故の過失犯だけに適用されるものであり，それ以外の過失犯に適用される余地はない。誤り。 (2811C) 《》　信頼の原則は，交通事故の過失犯だけに適用されるものであり，それ以外の過失犯に適用される余地はない。 (2811C) 《》 ※←　（法条）。信頼によって，交通事故の原則は，主として交通事犯で問題となるが，交通事犯のような対向型ばかりではなく，組織内において複数のものが互いの適切な行動を信頼して共同作業や分業を行うような組織が他の場合にも問題となる（最判昭63・10・27）。
４	注意義務に違反して人を負傷させた場合であっても，相手方に重大な過失があったときには,過失相殺が適用されるので，過失の責任を免れることができる。誤り。 (2811D) 《》　注意義務に違反して人を負傷させた場合であっても，相手方に重大な過失があったときには,過失相殺が適用されるので，過失の責任を免れることができる。 (2811D) 《》 ※←　（法条）。過失相殺は，民法上の賠償責任を調整する概念であり（民418条，722条２項），刑法上このような概念は存在しない。
５	過失犯の成立に必要な注意義務は，必ずしも法令上の根拠があることを要しない。正しい。 (2811E) 《》　過失犯の成立に必要な注意義務は，必ずしも法令上の根拠があることを要しない。 (2811E) 《》 ※←　（法条）。行政法規には様々な注意義務が規定されているが，これと過失犯における注意義務とは必ずしも一致しない。例えば，道交法の制限速度を順守していても，結果回避のためにはそれだけでは十分ではなく，過失犯における注意義務としてはそれ以上の措置が要求される場合もある。したがって，注意義務は，必ずしも法令上の根拠があることを要しない。
	正　解　　　　５