刑法

◎

　次のアからエまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものの組合せは，後記１から５までのうちどれか。

ア

　Ａの知人Ｂは，料理が趣味であり，自宅のパソコンに料理のレシピのデータを保存していた。Ａは，Ｂと口論をした際，Ｂが大事にしている同データを壊してやろうと思い，同パソコンをたたき壊した。同パソコンを壊したＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪は成立せず，器物損壊罪が成立する。

イ

　Ａは，Ｂに成り済まし，銀行の窓口行員Ｃに対し，Ｂ名義の口座の預金をＡ名義の口座に振込入金するよう依頼した。Ｃは，ＡをＢと思い込み，コンピュータの端末を操作して，同銀行が業務用に使用している電子計算機にアクセスし，前記依頼のとおり振込入金の処理をした。Ｂに成り済まし，Ｃに振込入金の処理を行わせたＡの行為について，電子計算機使用詐欺罪が成立する。

ウ

　Ａは，盗んだ財布の中に，不正に作られた電磁的記録をその構成部分とするクレジットカードが入っていることに気付き，同カードを使用するつもりはなかったが，機会があれば友人に見せようと考え，同カードを自己の財布に入れて持ち歩いていた。同カードを持っていたＡの行為について，不正電磁的記録カード所持罪は成立しない。

エ

　Ａは，同僚Ｂのパソコンに，コンピュータウイルスを感染させてＢの業務を妨害しようと考え，コンピュータウイルスを作成したが，自宅のパソコンでその効果を試したところ，市販のウイルス対策ソフトで検出されてしまうことが分かったため，同ウイルスを使用することは断念した。同ウイルスを作成して試した一連のＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪が成立する。

　１　アイ　　　　　２○アウ　　　　　３　アエ　　　　　４　イエ　　　　　５　ウエ

◎	次のアからエまでの各記述を判例の立場に従って検討した場合，正しいものの組合せは，後記１から５までのうちどれか。 (2812) 【】 **
ア	Ａの知人Ｂは，料理が趣味であり，自宅のパソコンに料理のレシピのデータを保存していた。Ａは，Ｂと口論をした際，Ｂが大事にしている同データを壊してやろうと思い，同パソコンをたたき壊した。同パソコンを壊したＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪は成立せず，器物損壊罪が成立する。正しい。 (2812A) 《》　Ａの知人Ｂは，料理が趣味であり，自宅のパソコンに料理のレシピのデータを保存していた。Ａは，Ｂと口論をした際，Ｂが大事にしている同データを壊してやろうと思い，同パソコンをたたき壊した。同パソコンを壊したＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪は成立せず，器物損壊罪が成立する。 (2812A) 《》 ※←　（法条）。業務妨害罪における業務は，職業としての経済活動を典型として社会生活上の活動であることが必要である。そのため，娯楽目的での車の運転や趣味としてのスポーツなどの個人的活動，さらに料理や洗濯など日常の家庭生活は含まれない。設問の事例では，Ａの行為により，Ｂの趣味である料理が害されるにすぎず，これは業務妨害罪における「業務」に当たらないため，Ａの行為には，電子計算機損壊等業務妨害罪は成立せず，器物損壊罪が成立する。
イ	Ａは，Ｂに成り済まし，銀行の窓口行員Ｃに対し，Ｂ名義の口座の預金をＡ名義の口座に振込入金するよう依頼した。Ｃは，ＡをＢと思い込み，コンピュータの端末を操作して，同銀行が業務用に使用している電子計算機にアクセスし，前記依頼のとおり振込入金の処理をした。Ｂに成り済まし，Ｃに振込入金の処理を行わせたＡの行為について，電子計算機使用詐欺罪が成立する。誤り。 (2812B) 《》　Ａは，Ｂに成り済まし，銀行の窓口行員Ｃに対し，Ｂ名義の口座の預金をＡ名義の口座に振込入金するよう依頼した。Ｃは，ＡをＢと思い込み，コンピュータの端末を操作して，同銀行が業務用に使用している電子計算機にアクセスし，前記依頼のとおり振込入金の処理をした。Ｂに成り済まし，Ｃに振込入金の処理を行わせたＡの行為について，電子計算機使用詐欺罪が成立する。 (2812B) 《》 ※←（法条）。電子計算機使用詐欺罪が成立するためには，「前条の規定するもののほか」との文言から，詐欺利得罪が成立しないことが要件となる。設問の事例で詐欺利得罪が成立するか検討するにＡは，Ｂに成り済まし，銀行の窓口行員Ｃに振込入金を依頼したが，Ｃとしては，Ａの成り済ましを知っていたら振込入金処理をしないため，欺罔行為があったといえる。そして，Ｃは錯誤に陥り，振込入金処理をしたことで，Ａは「財産上不法の利益を得」たといえる。したがって，Ａの行為について詐欺利得罪が成立し，電子計算機使用詐欺罪が成立しない。
ウ	Ａは，盗んだ財布の中に，不正に作られた電磁的記録をその構成部分とするクレジットカードが入っていることに気付き，同カードを使用するつもりはなかったが，機会があれば友人に見せようと考え，同カードを自己の財布に入れて持ち歩いていた。同カードを持っていたＡの行為について，不正電磁的記録カード所持罪は成立しない。正しい。 (2812C) 《》　Ａは，盗んだ財布の中に，不正に作られた電磁的記録をその構成部分とするクレジットカードが入っていることに気付き，同カードを使用するつもりはなかったが，機会があれば友人に見せようと考え，同カードを自己の財布に入れて持ち歩いていた。同カードを持っていたＡの行為について，不正電磁的記録カード所持罪は成立しない。 (2812C) 《》 ※←　（法条）。不正電磁的記録カード所持罪(163条の３）が成立するためには，「人の財産上の事務処理を誤らせる目的」があることが必要となる(163条の２第１項）。Ａは，カードを使用するつもりはなく，機会があれば友人に見せようと考えていたにすぎず，かかる目的が認められない。よって，カードを持っていたＡの行為について，不正電磁的記録カード所持罪は成立しない。
エ	Ａは，同僚Ｂのパソコンに，コンピュータウイルスを感染させてＢの業務を妨害しようと考え，コンピュータウイルスを作成したが，自宅のパソコンでその効果を試したところ，市販のウイルス対策ソフトで検出されてしまうことが分かったため，同ウイルスを使用することは断念した。同ウイルスを作成して試した一連のＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪が成立する。誤り。 (2812D) 《》　Ａは，同僚Ｂのパソコンに，コンピュータウイルスを感染させてＢの業務を妨害しようと考え，コンピュータウイルスを作成したが，自宅のパソコンでその効果を試したところ，市販のウイルス対策ソフトで検出されてしまうことが分かったため，同ウイルスを使用することは断念した。同ウイルスを作成して試した一連のＡの行為について，電子計算機損壊等業務妨害罪の未遂罪が成立する。 (2812D) 《》 ※←　（法条）。電子計算機損壊等業務妨害罪(234条の２第１項）の実行行為は，①「電磁的記録を損壊」，②「電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な指令を与え」ること，③「その他の方法により，電子計算機に使用目的に洽うべき動作をさせず，又は使用目的に反する動作をさせ」ることである。設問では，ウィルスを使用することは断念しており，結局所期のいずれの行為の実行に着手もしていないため，未遂罪すら成立しない。
	１　アイ　　　　　２○アウ　　　　　３　アエ　　　　　４　イエ　　　　　５　ウエ