不能犯に関する次の記述中，正しいものはどれか。

• (5423) 【不能犯】

  • **

　通行人の懐中をねらったスリは，たまたまその通行人の懐中が無一物であった場合には，結果発生の危険が絶対にないから不能犯である。

• 誤り
  (5423A) 《窃盗の未遂》
  　通行人の懐中をねらったスリは，たまたまその通行人の懐中が無一物であった場合，結果発生の危険が［ないとは言えないので，窃盗の未遂となる：×絶対にないから不能犯である］（大判大3.7.24）。

  • (5423A) 《窃盗の未遂》
    ※←　通行人が懐中物を所持することは，通常予想されるから（大判大3.7.24）。

　殺害の目的をもって青酸カリを他人に飲ませた場合であっても，それが致死量に達していないときには，結果発生の危険が絶対にないから不能犯である。

• 誤り
  (5423B) 《殺人の未遂》
  　殺害の目的をもって青酸カリを他人に飲ませた場合，それが致死量に達していないときでも，結果発生の危険が絶対に［ないとは言えないので，殺人の未遂となる：×ないから不能犯である］（最判昭27.8.5）。

  • (5423B) 《殺人の未遂》
    ※←　被害者の身体的条件その他の事情のいかんによっては，死の結果発生の危険が絶対にないとは言えないから（最判昭27.8.5）。

　自ら実弾を装填しておいた銃機の引き金を殺人の目的を持って引いた場合であっても，その直前に他人により弾丸を抜き取られてしまっていたときには，結果発生の危険が絶対にないから不能犯である。

• 誤り
  (5423C) 《殺人の未遂》
  　自ら実弾を装填しておいた銃機の引き金を殺人の目的を持って引いた場合，その直前に他人により弾丸を抜き取られてしまっていたときでも，［結果を発生させる可能性を有し，実害を生じる危険があるので，殺人の未遂となる：×結果発生の危険が絶対にないから不能犯である］（福岡高判昭28.11.10）。

  • (5423C) 《殺人の未遂》
    ※←　殺人の目的でピストルの引き金を引く行為は，殺害の結果を発生させる可能性を有するものであって，実害を生じる危険があるから（福岡高判昭28.11.10）。

　硫黄粉末によって毒殺を計り，これを他人に飲ませた場合には，結果発生の危険が絶対にないから不能犯である。

• 正しい
  (5423D) 《傷害罪》
  　硫黄粉末によって毒殺を計り，これを他人に飲ませた場合，結果発生の危険が絶対にないので［殺人罪については］不能犯である（大判大6.9.10）。

  • (5423D) 《傷害罪》
    ※←　ただし，硫黄の粉末によって傷害の結果を引き起こすことは可能であるので，傷害罪が成立する（刑法204条）。