過失犯の共同正犯の成否に関する次の１から５までの記述のうち，明らかに誤っているものはどれか。

• (1223) 【過失犯の共同正犯】　←　共犯の本質論

  • 犯罪共同説と行為共同説の対立

　共犯の本質は，犯罪を実行し，又はこれに加功するという犯罪的意思の共同に存するから，犯罪的結果発生についての無意識を本質とする過失犯については，共同正犯の成立を認める余地はない。

• 正しい
  (1223A) 《無意識的部分》
  　（犯罪共同説によれば），共犯の本質は，犯罪を実行し，又はこれに加功するという犯罪的意思の共同に存するから，犯罪的結果発生についての無意識を本質とする過失犯については，共同正犯の成立を認める余地はない。

  • (1223A) 《無意識的部分》
    ※←　過失犯の本質を無意識的部分にあると捉えると，過失の共同正犯は否定される。

　共犯とは，自己の犯罪遂行の方法的類型にすぎないから，行為・因果関係の共同が存する限り，過失による共同正犯を認めることができる。

• 正しい
  (1223B) 《自然的行為の共同》
  　（行為共同説によれば），共犯とは，自己の犯罪遂行の方法的類型にすぎないから，行為・因果関係の共同が存する限り，過失による共同正犯を認めることができる。

  • (1223B) 《自然的行為の共同》
    ※←　自然的行為の共同があれば，過失犯の共同正犯が成立する。

　共犯の本質は犯罪を共同にすることであると解しても，過失犯についても客観的注意義務に反した危険な行為という実行行為が存する以上は，これを共同にする意思と事実が認められる場合には，過失犯の共同正犯を肯定することができる。

• 正しい
  (1223C) 《客観的注意義務違反》
  　（犯罪共同説によれば），共犯の本質は犯罪を共同にすることであると解しても，過失犯についても客観的注意義務に反した危険な行為という実行行為が存する以上は，これを共同にする意思と事実が認められる場合には，過失犯の共同正犯を肯定することができる（最判昭28.1.23）。

  • (1223C) 《客観的注意義務違反》
    ※←　犯罪共同説から，過失構造論を見直し，過失犯の共同正犯を肯定するための理論構成。

　結果発生の危険が予想される状態の下で，事故防止の具体的対策を講ずるについての相互利用・補充という関係に立ちつつ，結果回避のための共通の注意義務を負う者に共同作業上の落ち度が認められる場合に，初めて過失犯の共同正犯を肯定することができる。

• 正しい
  (1223D) 《共同の注意義務》
  　結果発生の危険が予想される状態の下で，事故防止の具体的対策を講ずるについての相互利用・補充という関係に立ちつつ，結果回避のための共通の注意義務を負う者に共同作業上の落ち度が認められる場合に，初めて過失犯の共同正犯を肯定することができる（東京地判平4.1.23）。

  • (1223D) 《共同の注意義務》
    ※←　広がりすぎた過失犯の共同正犯を限定的に認めようとする最近の理論構成。

　過失犯の構造に関し，結果を認識し，又は予見しなかった心理状態に過失の実体があると解すると，過失犯の共同正犯は肯定しやすいが，過失犯の客観的な行為態様そのものに着目する見解に立つと，過失犯の共同正犯は否定しやすい。

• 誤り
  (1223E) 《客観的な行為態様》
  　過失犯の構造に関し，結果を認識し，又は予見しなかった心理状態に過失の実体があると解すると，（こうした心理状態の共同実行・意思の連絡ということはありえないので）過失犯の共同正犯は［否定］しやすいが，過失犯の客観的な行為態様そのものに着目する見解に立つと，（共同実行の事実を認定することができ）過失犯の共同正犯は［肯定］しやすい。

  • (1223E) 《客観的な行為態様》
    ※←　問題文は，結論が逆になっている。