次の左欄に掲げたＡの行為についての刑法における正当防衛又は緊急避難の成否に関する記述について，右欄の記載が正しいものはどれか。

• (0824) 【正当防衛】

  • 急迫不正の侵害に対して，自己又は他人の権利を防衛するため，やむを得ずにした行為は，罰しない（刑法36条1項）。

　Ａが道路を歩いていたところ，Ｂがその飼犬をＡにけしかけたので，Ａは，これを避けるためその犬を蹴飛ばしてけがをさせた。　⇔　正当防衛も緊急避難も成立しない。

• 誤り
  (0824A) 《飼主の故意》
  　Ａが道路を歩いていたところ，Ｂがその飼犬をＡにけしかけたので，Ａは，これを避けるためその犬を蹴飛ばしてけがをさせた場合［正当防衛が成立する：×正当防衛も緊急避難も成立しない］。

  • (0824A) 《飼主の故意》
    ※←　動物による侵害であっても，飼主の故意に基づくので，人間の侵害行為と評価できるから。

    無主物		犬をけしかけた
    野良犬	→			↓
    		飼主	の	故意	→	犬を蹴飛ばした	⇒	正当防衛	となる
    				過失
    不可抗力	→			↑
    対物防衛		不注意で襲ってきた

　Ａが道路を歩いていたところ，飼主の不注意で鎖から離れた犬が襲ってきたので，Ａは，これを避けるため，その犬を蹴飛ばしてけがをさせた。　⇔　正当防衛も緊急避難も成立しない。

• 誤り
  (0824B) 《飼主の過失》
  　Ａが道路を歩いていたところ，飼主の不注意で鎖から離れた犬が襲ってきたので，Ａは，これを避けるため，その犬を蹴飛ばしてけがをさせた場合［正当防衛が成立する：×正当防衛も緊急避難も成立しない］。

  • (0824B) 《飼主の過失》
    ※←　動物による侵害であっても，飼主の過失に基づくので，人間の侵害行為と評価できる。

　Ａはバッグを盗まれたので，その犯人を探していたところ，数日後，駅前でＢが自分のバッグを持っているのを発見したのでＢに返すように要求した。しかし，Ｂがこれに応じなかったので，Ａは，実力でバッグを取り返した。　⇔　正当防衛が成立する。

• 誤り
  (0824C) 《自救行為》
  　Ａはバッグを盗まれたので，その犯人を探していたところ，数日後，駅前でＢが自分のバッグを持っているのを発見したのでＢに返すように要求した。しかし，Ｂがこれに応じなかったので，Ａは，実力でバッグを取り返した場合［自救行為として違法性が阻却される余地がある：×正当防衛が成立する］。

  • (0824C) 《自救行為》
    ※←　しかし、急迫の要件を欠くので，正当防衛は成立しない（自救行為）。

　Ｂが背後からＡを刃物で狙っているのを見つけたＣは，Ａを助けるためにＢに組みついた。これを見たＡは，ＣがＢに暴行を加えているものと勘違いして，Ｃを突き飛ばして転倒させた。　⇔　正当防衛が成立する。

• 誤り
  (0824D) 《誤想防衛》
  　Ｂが背後からＡを刃物で狙っているのを見つけたＣは，Ａを助けるためにＢに組みついた（Ｃの行為は正当防衛）。これを見たＡは，ＣがＢに暴行を加えているものと勘違いして，Ｃを突き飛ばして転倒させた場合［誤想防衛となり，責任要素としての故意が阻却される余地がある：×正当防衛が成立する］。

  • (0824D) 《誤想防衛》
    ※←　しかし、適法である正当防衛行為に対して，正当防衛は成立しない（誤想防衛）。

　ＡとＢが口論中，Ｂは，Ａがポケットに手を入れたのを見て，隠し持っているナイフを取り出すものと勘違いし，持っていたナイフでＡに突きかかった。そこで，Ａは，Ｂの足を払い転倒させた。　⇔　正当防衛が成立する。

• 正しい
  (0824E) 《誤想防衛に対する正当防衛》
  　ＡとＢが口論中，Ｂは，Ａがポケットに手を入れたのを見て，隠し持っているナイフを取り出すものと勘違いし，持っていたナイフでＡに突きかかった（Ｂの行為は誤想防衛）。そこで，Ａは，Ｂの足を払い転倒させた場合［正当防衛が成立する］。

  • (0824E) 《誤想防衛に対する正当防衛》
    ※←　すなわち、誤想防衛は，責任要素としての故意を阻却するが，違法性は阻却されないので，Ｂの行為は不正な侵害にあたる（誤想防衛に対する正当防衛）。