括弧内の犯罪についてその実行の着手が認められないものは，次のうちどれか。

• (5624) 【実行の着手】

  • **

　甲は，通行人乙のポケットから財布をすりとろうとしてそのポケットの外側に手を触れたが，財布が入っていない様子であったのであきらめた。（窃盗）

• 認められる
  (5624A) 《ポケットに触れる》
  　甲は，通行人乙のポケットから財布をすりとろうとしてそのポケットの外側に手を触れたが，財布が入っていない様子であったのであきらめた場合，窃盗の実行の着手が認められる（最判昭29.5.6）。

  • (5624A) 《ポケットに触れる》
    ※←　その時点で，他人の占有が侵害される現実的危険性が認められるから。　ただし，あたり行為は，除かれる。

　甲は，強盗の目的で乙の家に侵入したところ，家人がいなかったので居間の金庫をこじ開けて金をとろうとしたが，失敗してそのまま帰った。（強盗）

• 認められない
  (5624B) 《暴行・脅迫》
  　甲は，強盗の目的で乙の家に侵入したところ，家人がいなかったので居間の金庫をこじ開けて金をとろうとしたが，失敗してそのまま帰った場合，強盗の実行の着手は認められない（最判昭23.6.26）。

  • (5624B) 《暴行・脅迫》
    ※←　相手方の反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が開始されていないから。　せいぜい窃盗罪の実行の着手があったのみ。

　甲は，現に人の住居に使用する家屋を焼燬する目的でこれに接続する犬小屋に放火したが，通行人に消し止められてその犬小屋を焼くだけにとどまった。（現住建造物等放火）

• 認められる
  (5624C) 《火を放つ》
  　甲は，現に人の住居に使用する家屋（現住建造物）を焼燬する目的でこれに接続する犬小屋（非現住建造物）に放火したが，通行人に消し止められてその犬小屋を焼くだけにとどまった場合でも，現住建造物等放火の実行の着手が認められる（大判大12.11.12）。

  • (5624C) 《火を放つ》
    ※←　現住建造物に火が燃え移らなくても，目的物焼燬の現実的危険性が発生しており，現住建造物に対する放火罪の実行の着手が認められるから。

　甲は，乙から金銭をだましとるつもりで，乙に対し返済する意思もないのに「明日返すから金を貸してくれ」とうそを言ったところ，乙は，これをうそだと見破ったが，甲に同情して金を渡した。（詐欺）

• 認められる
  (5624D) 《欺罔行為の開始》
  　甲は，乙から金銭をだましとるつもりで，乙に対し返済する意思もないのに「明日返すから金を貸してくれ」とうそを言ったところ，乙は，これをうそだと見破ったが，甲に同情して金を渡した場合，詐欺の実行の着手が認められる。

  • (5624D) 《欺罔行為の開始》
    ※←　欺罔行為に財物騙取の現実的危険性があるから。　なお，既遂かどうかについては，争いがある。

　催眠術師の甲は，乙に催眠術をかけ，意識に一時的な障害をもたらして金をとろうと思い，部屋で乙に対して催眠術をかけ始めたが，他人が部屋に入ってきたのでその目的を遂げなかった。（昏酔強盗）

• 認められる
  (5624E) 《昏睡させる行為》
  　催眠術師の甲は，乙に催眠術をかけ，意識に一時的な障害をもたらして金をとろうと思い，部屋で乙に対して催眠術をかけ始めたが，他人が部屋に入ってきたのでその目的を遂げなかった場合，昏酔強盗の実行の着手が認められる。

  • (5624E) 《昏睡させる行為》
    ※←　財物窃取の目的で人を昏睡させる行為を開始すれば，実行の着手が認められる。