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(2911A) 《無罪とされた者》
※←　（憲法40条）。
刑事裁判が，有罪・無罪を判断するプロセスである以上，抑留・拘禁された者が無罪となることも当然予想されることであり，その者が無罪となったからといって，その者に対する抑留・拘禁が直ちに違法となるわけではない。しかし，無罪とされた者は，本来必要のない抑留・拘禁という人権制限を受けている。憲法40条は，このような者に対して相応の補償をすることによって，公平の要請を満たそうとするものである。

(2911B) 《国家賠償》
※←　（憲法条）。憲法17条は，国家賠償について定めたものである。刑事補償法は憲法40条の具体的実施を定めたものであるところ，同法５条１項は，同法により補償を受けるべき者が国家賠償法により損害賠償請求することを妨げないとしている。そして，同法１条１項は，刑事訴訟法による通常手続等において無罪の裁判を受けた者が，同法等によって未決の抑留・拘禁を受けた場合には，その者は国に対して抑留・拘禁による補償を請求することができるとしている。
※←　無罪判決を受けた刑事被告人であっても，抑留・拘禁を理由として憲法17条に定める国家賠償を求めることができる。

(2911C) 《無罪判決限定説》
※←　（憲法条）。
憲法40条の［無罪の判決を受けたとき］の意味については，大きく二つの説が対立している。一つは，無罪判決が確定したとき（又は一旦確定していた有罪判決が再審の結果を取り消されて無罪判決を言い渡されたとき）を意味すると解する説（Ａ説）である。もう一つは，厳密に形式上の無罪の裁判に限定されることなく，自由を拘束したことの根拠の不存在が明らかになった場合には補償請求ができるとする説（Ｂ説）である。Ａ説は，同文言の意味を限定的に捉える見解であり，Ａ説によれば，同条は免訴や公訴棄却の裁判を受けた場合を含まない。本肢は，前段においてＡ説を採っているにもかかわらず，後段で免訴や公訴棄却の裁判を含むとする点で誤りである。
　　なお，「無罪の判決を受けたとき」の意味については，Ａ説のように限定的に捉えるのが一般的であり，判例（最決昭31.12.24）も同文言の意味について限定的に解している。もっとも，刑事補償法25条は，「免訴又は控訴棄却の裁判をすべき事由がなかったならば無罪の判決を受けるべきものと認められる充分な事由がある」ときについても補償を認めており，刑事補償法による補償の対象は，無罪の確定判決に限定されているわけではない。

(2911D) 《実質的考察》
※←　（憲法条）。判例（最決昭31.12.24）は，「抑留または拘禁された被疑事実が不起訴となった場合は同条の補償の問題を生じない」とした上で，「憲法40条にいう『抑留又は拘禁』中には，無罪となった公訴事実に基く抑留または拘禁はもとより，たとえ不起訴となった事実に基く抑留または拘禁であっても，そのうちに実質上は，無罪となった事実についての抑留または拘禁であると認められるものがあるときは，その部分の抑留及び拘禁もまたこれを包含する」としている。同判例は，その理由として「或る被疑事実により逮捕または勾留中，その逮捕状または勾留状に記載されていない他の被疑事実につき取り調べ，前者の事実は不起訴となったが，後者の事実につき公訴が提起され後無罪の裁判を受けた場合において，その無罪となった事実についての取調が，右不起訴となった事実に対する逮捕勾留を利用してなされたものと認められる場合においては，これを実質的に考察するときは，售事実につき各別に逮捕勾留して取り調べた場合と何ら区別すべき理由がない（最決昭31.12.24）」ということを挙げている。