双務契約から生ずる対立した債務の間に，履行上の牽連関係を認める制度（533条）

　双務契約の当事者の一方は相手方の履行の提供があっても，その提供が継続されない限り同時履行の抗弁権を失うものでないことは所論のとおりである。しかし，原判決によれば売主たる被上告人は本件機械全部を買主たる山路新一に昭和29年６月28日までに約束通り引渡したというのであるから，山路新一は右引渡を受けたことによつて所論同時履行の抗弁権を失ったものというべきであり，従ってその後において，被上告人の代理人川原田某が右機械の「あひる」を取外して持ち帰ったからといって，同人に別個の責任の生ずる可能性のあることは別論として既になされた被上告人の債務の履行に消長を来し，一旦消滅した同時履行の抗弁権が復活する謂れはない（最判昭34.5.14）。

(S6109A) 《相殺》
□←　自働債権として相殺すれば，その債権の消滅により，相手方の同時履行の抗弁権も消失するから，禁止される。

(S6109B) 《債権譲渡》
□←　引受人は，債務者としての地位をそのまま引き継ぐので，同時履行の抗弁権も引き継ぐ。

(S6109C) 《解除》
□←　相手方は、解除に関して、既に同時履行の抗弁権を失っているから。
※←　按スルニ，双務契約ノ当事者ノ一方タル債務者カ，其ノ債務ヲ履行セサル場合ニ於テ，相手方タル債権者カ相当ノ期間ヲ定メテ履行ヲ催告シ，債務者ヲ遅滞ニ付シタルトキハ，其ノ債権者ハ，契約ノ解除ヲ為スコトヲ得ヘキモノトス。而シテ解除権カ未タ行使セラレサル間ニ於テハ，契約ハ依然トシテ存続スルヲ以テ，債権者ハ右ノ債務者ニ対シ其ノ債務ノ履行ヲ請求シ得ヘク，債務者ハ其ノ履行ヲ為シ得ヘシト雖，債務者カ債権者ヲシテ其ノ解除権ヲ消滅セシムルニハ，債務ノ本旨ニ適シタル履行ノ提供ヲ為スト共ニ，遅延ニ因ル賠償ヲモ併セテ提供スルコトヲ要スルモノトス。何トナレハ，債務者ハ此ノ両者ヲ提供スルニ非サレハ，其ノ遅滞ヲ除去スルコトヲ得サレハナリ。是当院判例ノ認ムル所ナリ。故ニ債務者カ此ノ両者ヲ提供シタルトキハ，遅滞ノ効力消滅スルノ結果トシテ，債権者ノ解除権消滅スヘキモ，斯ル提供アル迄ハ，債権者ニ於テ解除権ヲ失フヘキ理由ナク，従テ債権者ハ曩ニ履行ノ催告ヲ為シタル際，自己ノ債務ノ履行ヲ提供シ債務者ヲ遅滞ニ付シタル以上，解除権ヲ行使スルニ当リテハ ，其ノ提供ヲ継続スルコトヲ要セサルモノト謂ハサルヲ得ス（大判昭5.5.31）。

(S6109D) 《抗弁の提出》
□←　被告が，この抗弁を提出する必要がある。

(S6109E) 《現状回復義務》
□←　取消しによる現状回復義務については、規定はなかったが（民121条の2）、判例は、取消しにおける現状回復義務につき、当事者に同時履行の抗弁権を認めている。
※←　右のような事実関係のもとにおいては，右売買契約は，生嶌の詐欺を理由とする上告人の取消の意思表示により有効に取り消されたのであるから，原状に回復するため，被上告人は，上告人に対し，本件（一）の土地について右仮登記の抹消登記手続を，本件（二）の土地について上告人へ所有権移転登記手続をそれぞれなすべき義務があり，また，上告人は，被上告人に対し，右100万円の返還義務を負うものであるところ，上告人，被上告人の右各義務は，民法533条の類推適用により同時履行の関係にあると解すべきであって，被上告人は，上告人から100万円の支払を受けるのと引き換えに右各登記手続をなすべき義務があるとした原審の判断は，正当としてこれを是認することができる（最判昭47.9.7）。
(L0122D) 《未成年者の取消》
　未成年者が行為能力の制限を理由に動産売買契約を取り消した場合，両当事者が互いに負う返還義務は，同時履行の関係にある（民法121条の2第2項）。