平成１５年９問

◎

　占有訴権に関する次のアからオまでの記述のうち，判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは，後記１から５までのうちどれか。

ア

　Ｂは，Ａの車庫から自動車を窃取して乗り回した後，これをＣに売り渡した。Ａは，Ｃに対し，Ｃが自動車の占有を取得した時から１年内に限り，占有回収の訴えにより自動車の返還を請求することができる。

イ

　Ａの宅地の隣接地に堆積されていた大量の土砂が，長雨のため，Ａの宅地に流入しそうになった。Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，土砂がＡの宅地に流入しないようにするための設備を設置することを請求するとともに，損害賠償の担保を請求することができる。

ウ

　Ｂは，Ａからパソコンを詐取し，これをＣに売り渡した。Ｃが詐取の事実を知っていたときは，Ａは，Ｃに対し，占有回収の訴えによってパソコンの返還を請求することができる。

エ

　Ａは，Ｂに預けていた壺の返還を求めていたが，Ｂが言を左右にして返還に応じなかったので，Ｂの自宅に無断で入り，壺を取り戻したところ，Ｂから占有回収の訴えを提起された。Ａは，この訴訟において，抗弁として，壺の所有権が自分にあると主張することはできない。

オ

　Ａの自宅の隣接地にあった大木が落雷を受け，Ａの自宅の庭に倒れ込んだため，Ａは，庭に駐車していた車を有料駐車場に停めざるを得なかった。この場合，Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，占有保持の訴えにより大木の撤去を請求することができるが，損害賠償を請求することはできない。

　１　アイ　　　　２　アオ　　　　３　イウ　　　　４　ウエ　　　　５○エオ

◎	占有訴権に関する次のアからオまでの記述のうち，判例の趣旨に照らし正しいものの組合せは，後記１から５までのうちどれか。 (S1509) 【占有訴権】 **
ア	Ｂは，Ａの車庫から自動車を窃取して乗り回した後，これをＣに売り渡した。Ａは，Ｃに対し，Ｃが自動車の占有を取得した時から１年内に限り，占有回収の訴えにより自動車の返還を請求することができる。誤り。 (S1509A) 《占有回収の訴え》　Ｂは，Ａの車庫から自動車を窃取して乗り回した後，これをＣに売り渡した。Ａは，Ｃに対し，［占有の侵奪があった時：×Ｃが自動車の占有を取得した時］から１年内に限り，【占有回収の訴え】により自動車の返還を請求することができる（民法201条3項）。 (S1509A) 《占有回収の訴え》 ※←＝　占有回収の訴えは，占有を奪われた時から１年以内に提起しなければならない（民法201条3項）。
イ	Ａの宅地の隣接地に堆積されていた大量の土砂が，長雨のため，Ａの宅地に流入しそうになった。Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，土砂がＡの宅地に流入しないようにするための設備を設置することを請求するとともに，損害賠償の担保を請求することができる。誤り。 (S1509B) 《占有保全の訴え》　Ａの宅地の隣接地に堆積されていた大量の土砂が，長雨のため，Ａの宅地に流入しそうになった。Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，土砂がＡの宅地に流入しないようにするための設備を設置することを請求する［か，または：×とともに］，損害賠償の担保を請求することができる（民法199条）。 (S1509B) 《占有保全の訴え》 ※←　占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは，占有保全の訴えにより，その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる（民法199条）。　←　選択的
ウ	Ｂは，Ａからパソコンを詐取し，これをＣに売り渡した。Ｃが詐取の事実を知っていたときは，Ａは，Ｃに対し，占有回収の訴えによってパソコンの返還を請求することができる。誤り。 (S1509C) 《占有回収の訴え》　Ｂは，Ａからパソコンを詐取し，これをＣに売り渡した。Ｃが詐取の事実を知っていたとき，Ａは，Ｃに対し，《占有回収の訴え》によってパソコンの返還を請求することが［できない］（民法200条1項）（大判大11.11.27）。 (S1509C) 《占有回収の訴え》　 ← 占有の侵奪 ◎←　占有者がその占有を奪われたときは，占有回収の訴えにより，その物の返還及び損害の賠償を請求することができる（民法200条1項）。　しかし，
エ	Ａは，Ｂに預けていた壺の返還を求めていたが，Ｂが言を左右にして返還に応じなかったので，Ｂの自宅に無断で入り，壺を取り戻したところ，Ｂから占有回収の訴えを提起された。Ａは，この訴訟において，抗弁として，壺の所有権が自分にあると主張することはできない。正しい。 (S1509D) 《本権との関係》　Ａは，Ｂに預けていた壺の返還を求めていたが，Ｂが言を左右にして返還に応じなかったので，Ｂの自宅に無断で入り，壺を取り戻したところ，Ｂから【占有回収の訴え】を提起された。Ａは，この訴訟において，抗弁として，壺の所有権が自分にあると主張することはできない（民法202条2項）（最判昭40.3.4）。 (S1509D) 《本権との関係》 □←　占有の訴えについては，本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない（民法202条2項）。 ※←　占有の訴に対しては，本権に基づく反訴を提起することができる（最判昭40.3.4）。 ※←　論旨は，原審が占有の訴に対する本権に基づく反訴を適法としてこれを認容したのは，民法202条または民訴法239条の解釈を誤つたものであるという。しかし，民法202条2項は，占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり，従って，占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども，これに対し本権に基づく反訴を提起することは，右法条の禁ずるところではない。そして，本件反訴請求を本訴たる占有の訴における請求と対比すれば，牽連性がないとはいえない。それゆえ，本件反訴を適法と認めてこれを審理認容した原審に所論の違法はないから，論旨は採用できない（最判昭40.3.4）。
オ	Ａの自宅の隣接地にあった大木が落雷を受け，Ａの自宅の庭に倒れ込んだため，Ａは，庭に駐車していた車を有料駐車場に停めざるを得なかった。この場合，Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，占有保持の訴えにより大木の撤去を請求することができるが，損害賠償を請求することはできない。正しい。 (S1509E) 《占有保持の訴え》　Ａの自宅の隣接地にあった大木が落雷を受け，Ａの自宅の庭に倒れ込んだため，Ａは，庭に駐車していた車を有料駐車場に停めざるを得なかった場合，Ａは，当該隣接地の所有者であるＢに対し，【占有保持の訴え】により大木の撤去を請求することができるが，損害賠償を請求することはできない（民法198条）（大判昭9.10.19）。 (S1509E) 《占有保持の訴え》 □←　損害賠償を請求するためには，占有の妨害が生じたことについて相手方に故意または過失があることを要するから（大判昭9.10.19）。 ※←　占有者がその占有を妨害されたときは，占有保持の訴えにより，その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる（民法198条）。
	１　アイ　　　　２　アオ　　　　３　イウ　　　　４　ウエ　　　　５○エオ