(1301A) 《統治権の総覧者》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　統治権の総覧者たる地位が前面に出ていたため，象徴としての地位が背後に隠れていたに過ぎない。
　　大日本帝国憲法下において，天皇は「国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬」する地位にあった（大日本帝国憲法§４）。そこで，前半部分は正しい。　また，大日本帝国憲法下において，天皇は，統治権を総覧する地位に当然に付随して，日本国の象徴としての地位を有し，象徴としての役割をより強く果たしていた。｡なぜなら，天皇が国家の命運を左右するような権限をもち，それを行使している場合にこそ，人は天皇を見るとき，同時に国家を想起し，国家の運命を強く意識するからである。そこで，後半部分は誤りである。

(1301B) 《国事行為の効果》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　天皇が私人として行った私的行為の効果は，私人としての天皇に帰属し，日本国には帰属しない。
天皇は，国家機関として国事行為を行うが，その他に，私人として私的行為（例：生物学の研究，散策）を行うことができる。そして，国事行為の効果は日本国に帰属するが，私人として行った私的行為の効果は日本国には帰属しない。そこで，「国事行為であるかどうかを問わず」という点で誤りである。

(1301C) 《象徴としての行為》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　�B研究した生物学の成果を発表することは，私人として行う行為であり，象徴としての行為に該当しない。
�@外国を訪問することド�A全国植樹祭に出席することは，国事行為に該当せず，また純粋に私的な行為にも該当しない。そこで，国事行為にも純粋な私的行為にもあたらない，公的な行為を行うことの合憲性およびその根拠について争いがある。　この点につき，天皇は国事行為,私的行為の他に汀象徴としての行為」をもなしうるとして，合憲性を基礎づける立場がある。このように，天皇の「象徴としての行為」を肯定する立場によれば，�@外国を親善訪問すること，�A全国植樹祭に出席することは，［象徴としての行為］に該当するものとして合憲であると考えられる。　他方，�B研究した生物学の成果を発表することは，天皇が私人として行う純粋な私的行為であって（Ｂ参照），「象徴としての行為上には該当しない。

(1301D) 《象徴としての行為の否認》
　否認する立場でも，�B研究した生物学の成果を発表することは，私人としての行為として合憲である。
天皇の「象徴としての行為」の行為を否認する立場によれば，�@外国を親善訪問すること，�A全国植樹祭に出席すること，といった公的行為については，合憲性に疑義が生じる。しかし，�B研究した生物学の成果を発表することについては，天皇が私人として私的行為を行っているにすぎず（Ｂ参照），合憲と解するのが一般である。

(1301E) 《内閣のコントロール》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　国事行為に準じて，内閣のコントロールが必要である。
天皇の「象徴としての行為」を肯定する立場も，公的な行為を無制限に許容するわけではなく，他の規定の趣旨に抵触しない限度で公的な行為を許容するものである。そこで，天皇は「国政に関する権能を有しない」こと（§４後段）から，国政に関する行為ではあってはならないという制約が付される。また，国事行為について，内閣の助言と承認が要求されていること（§７）との均衡上，公的な行為についても，内閣の直接または間接の輔佐と責任において行われるべきという制約が付される（宮内庁法§１参照）。

(1301F) 《刑事責任》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　天皇が刑事責任を問われることがない点について，争いはない。
天皇の刑事責任については，天皇の象徴たる地位と相容れないとしてこれを否定する説がある。また，摂政が在任中訴追されない旨を定めた皇室典範21条との均衡において，生前退位の認められていない天皇は終身「在任中」であり，訴追されない存在であるから，刑事責任を問われることもないとする説もある。いずれにしても，天皇が刑事責任を問われることはないと考えられる。

(1301G) 《民事裁判権》
※←　（憲法条）。（最判昭）。　そもそも天皇に民事裁判権が及んでいないから。
天皇を被告とする民事訴訟が提起された事案で，最高裁判所は「天皇は日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であることにかんがみ，天皇には民事裁判権は及ばないものと解するのが相当である」と判示し，天皇の象徴たる地位を直接の根拠に民事裁判権を否定した（最判平元｡11.20)。そして，天皇が象徴たる地位を有する点は，被告となる場合でも原告となる場合でも変わらない。そうであれば，天皇が原告となる場合にも民事裁判権は及ばず，天皇が原告として民事訴訟を提起することも許されないという理解も可能であるといえる。