民法

◎

　民法上の留置権と同時履行の抗弁権に関する次の１から５までの記述のうち，判例の趣旨に照らし誤っているものはどれか。

１

　物の修理を内容とする双務契約において，物の修理業者は，修理代金債権を被担保債権として，修理した物を目的物とする留置権を主張することができ，また，同時履行の抗弁権に基づいて，修理代金が支払われるまで修理した物を相手方に引き渡すことを拒絶することもできる。

２

　留置権を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することができるが，同時履行の抗弁権を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することはできない。

３

　物の引渡しを求める訴訟において，留置権の主張が認められる場合は請求棄却判決となるのに対し，同時履行の抗弁権の主張が認められる場合は引換給付判決となる。

４

　不動産が二重に売買され，後に買い受けた者が不動産について所有権の移転の登記をした場合において，先に不動産を買い受けた者は，後に不動産を買い受けた者からの所有権に基づく不動産の明渡請求に対し，売主に対する不動産の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償債権を被担保債権として留置権を主張することはできない。

正しい。
(S2311D) 《二重譲渡》⑥
　不動産が二重に売買され，後に買い受けた者が不動産について所有権の移転の登記をした場合に，先に不動産を買い受けた者は，後に不動産を買い受けた者からの所有権に基づく不動産の明渡請求に対し，売主に対する不動産の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償債権を被担保債権として留置権を主張することはできない（最判昭43.11.21）。
- (S2311D) 《二重譲渡》
  □←　順次譲渡なら，留置できる（最判昭47.11.16）。　　二重譲渡はダメ（最判昭43.11.21）。
  ☆← 　留置権の成立時点（被担保債権の発生時点）で，被担保債権の債務者（売主）と物の明渡請求者（第二の買主）が同一人ではなく，別人だから。
  □←　留置権は，目的物を留置することによって，間接的に債権の履行を強制し得る関係にある者の間で認められるものだから（最判昭43.11.21）。
  
  ※←　不動産の二重売買において，第二の買主のため所有権移転登記がされた場合，第一の買主は，第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し，売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて，留置権を主張することは許されない（最判昭43.11.21）。
  (S6312E) 《二重譲渡》①
  　丙がその所有建物を甲と乙に二重に売り渡し，乙のために所有権移転登記を経由した場合，甲は乙の引渡請求に対し，丙に対する履行不能による損害賠償請求権に基づいて，その建物を留置することができない（最判昭43.11.21）。
  (S6022E) 《二重譲渡》②
  　Ａがその所有する建物をＢに売却して引き渡したが，その旨の登記をする前に，Ａがその建物をＣに売却し，その旨の登記をしたとき，Ｂは，Ａに対する損害賠償債権をもってＣに対し，その建物を留置することが［できない］（最判昭43.11.21）。
  (L0112E) 《二重売買》③
  　Ａがその所有する甲建物をＢに売却して引き渡した後，Ａが甲建物をＣに売却してその旨の登記をした場合に，ＣがＢに対して甲建物の明渡請求をしたとき，Ｂは，Ａの債務不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権として，甲建物を留置することが［できない］（民法295条1項本）（最判昭43.11.21）。
  (S2212A) 《二重譲渡》④
  　ＡがＢ及びＣに対して土地を二重に譲渡し，Ｂに当該土地を引き渡したが，Ｃに登記名義を移転した場合に，ＣがＢに対して当該土地の引渡しを要求したとき，Ｂは，Ａに対する損害賠償請求権に基づいて，当該土地について留置権を主張することが［できない］（最判昭43.11.21）。
  (S1011B) 《二重売買》⑤
  　土地が二重売買され，第二の買主へ所有権移転登記がされた場合，第一の買主は，第二の買主からの土地明渡請求に対して，自己への所有権移転が履行不能となったことを理由として得た損害賠償債権をもって，当該土地につき留置権を主張することは［できない］（最判昭43.11.21）。

５

　双務契約の当事者の一方は，相手方から履行の提供があっても，その提供が継続されない限り，同時履行の抗弁権を失わない。

　正　解　　　３　

◎	民法上の留置権と同時履行の抗弁権に関する次の１から５までの記述のうち，判例の趣旨に照らし誤っているものはどれか。 (S2311) 【留置権と同時履行の抗弁権】 **
１	物の修理を内容とする双務契約において，物の修理業者は，修理代金債権を被担保債権として，修理した物を目的物とする留置権を主張することができ，また，同時履行の抗弁権に基づいて，修理代金が支払われるまで修理した物を相手方に引き渡すことを拒絶することもできる。正しい。 (S2311A) 《修理代金債権》（共通）　物の修理を内容とする双務契約において，物の修理業者は，修理代金債権を被担保債権として，修理した物を目的物とする留置権を主張することができる（民法295条1項本）。　また，【同時履行の抗弁権】に基づいて，修理代金が支払われるまで修理した物を相手方に引き渡すことを拒絶することもできる（民法533条）。 (S2311A) 《修理代金債権》 ※←　修理代金債権は，その物に関して生じた債権に当たる（民法295条1項本）。 ※←　修理代金債権と物の引渡請求権は同時履行の関係にある（民法533条）。
２	留置権を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することができるが，同時履行の抗弁権を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することはできない。正しい。 (S2311B) 《消滅請求》　留置権を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することができる（民法301条）。　これに対し，【同時履行の抗弁権】を行使されている者は，相当の担保を供してその消滅を請求することはできない。 (S2311B) 《消滅請求》 ※←　債務者は，相当の担保を供して，留置権の消滅を請求することができる（民法301条）。 ※←　同時履行の抗弁権は，双務契約の対価性から認められる権利であり，このような消滅事由は認められない。
３	物の引渡しを求める訴訟において，留置権の主張が認められる場合は請求棄却判決となるのに対し，同時履行の抗弁権の主張が認められる場合は引換給付判決となる。誤り。 (S2311C) 《引換給付判決》（共通）　物の引渡しを求める訴訟において，留置権の主張が認められる場合は［引換給付判決：×請求棄却判決］となる（最判昭33.3.13）。　同様に，【同時履行の抗弁権】の主張が認められる場合は引換給付判決となる（大判明44.12.11）。 (S2311C) 《引換給付判決》 ※←　物の引渡を求める訴訟において，被告の留置権の抗弁を認容する場合には，原告の請求を全面的に棄却することなく，その物に関して生じた債権の弁済と引換に物の引渡を命ずべきものと解するを相当とする（最判昭33.3.13）。
４	不動産が二重に売買され，後に買い受けた者が不動産について所有権の移転の登記をした場合において，先に不動産を買い受けた者は，後に不動産を買い受けた者からの所有権に基づく不動産の明渡請求に対し，売主に対する不動産の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償債権を被担保債権として留置権を主張することはできない。正しい。 (S2311D) 《二重譲渡》⑥ 　不動産が二重に売買され，後に買い受けた者が不動産について所有権の移転の登記をした場合に，先に不動産を買い受けた者は，後に不動産を買い受けた者からの所有権に基づく不動産の明渡請求に対し，売主に対する不動産の売買契約の債務不履行に基づく損害賠償債権を被担保債権として留置権を主張することはできない（最判昭43.11.21）。 (S2311D) 《二重譲渡》 □←　順次譲渡なら，留置できる（最判昭47.11.16）。　　二重譲渡はダメ（最判昭43.11.21）。 ☆← 　留置権の成立時点（被担保債権の発生時点）で，被担保債権の債務者（売主）と物の明渡請求者（第二の買主）が同一人ではなく，別人だから。 □←　留置権は，目的物を留置することによって，間接的に債権の履行を強制し得る関係にある者の間で認められるものだから（最判昭43.11.21）。 ※←　不動産の二重売買において，第二の買主のため所有権移転登記がされた場合，第一の買主は，第二の買主の右不動産の所有権に基づく明渡請求に対し，売買契約不履行に基づく損害賠償債権をもつて，留置権を主張することは許されない（最判昭43.11.21）。 (S6312E) 《二重譲渡》① 　丙がその所有建物を甲と乙に二重に売り渡し，乙のために所有権移転登記を経由した場合，甲は乙の引渡請求に対し，丙に対する履行不能による損害賠償請求権に基づいて，その建物を留置することができない（最判昭43.11.21）。 (S6022E) 《二重譲渡》② 　Ａがその所有する建物をＢに売却して引き渡したが，その旨の登記をする前に，Ａがその建物をＣに売却し，その旨の登記をしたとき，Ｂは，Ａに対する損害賠償債権をもってＣに対し，その建物を留置することが［できない］（最判昭43.11.21）。 (L0112E) 《二重売買》③ 　Ａがその所有する甲建物をＢに売却して引き渡した後，Ａが甲建物をＣに売却してその旨の登記をした場合に，ＣがＢに対して甲建物の明渡請求をしたとき，Ｂは，Ａの債務不履行に基づく損害賠償請求権を被担保債権として，甲建物を留置することが［できない］（民法295条1項本）（最判昭43.11.21）。 (S2212A) 《二重譲渡》④ 　ＡがＢ及びＣに対して土地を二重に譲渡し，Ｂに当該土地を引き渡したが，Ｃに登記名義を移転した場合に，ＣがＢに対して当該土地の引渡しを要求したとき，Ｂは，Ａに対する損害賠償請求権に基づいて，当該土地について留置権を主張することが［できない］（最判昭43.11.21）。 (S1011B) 《二重売買》⑤ 　土地が二重売買され，第二の買主へ所有権移転登記がされた場合，第一の買主は，第二の買主からの土地明渡請求に対して，自己への所有権移転が履行不能となったことを理由として得た損害賠償債権をもって，当該土地につき留置権を主張することは［できない］（最判昭43.11.21）。
５	双務契約の当事者の一方は，相手方から履行の提供があっても，その提供が継続されない限り，同時履行の抗弁権を失わない。正しい。 (S2311E) 《履行の提供》　双務契約の当事者の一方は，相手方から履行の提供があっても，その提供が継続されない限り，【同時履行の抗弁権】を失わない（最判昭34.5.14）。 (S2311E) 《履行の提供》 □←　同時履行の抗弁権の趣旨である公平の理念に照らし，両債務の牽連性は，いまだ失われていないから。 ※←　双務契約の当事者の一方は，相手方の履行の提供があつても，その提供が継続されないかぎり，同時履行の抗弁権を失うものではない（最判昭34.5.14）。
	正　解　　　３