平成１３年１０問

※

　転抵当の法律構成については，大別して，次の甲説と乙説の対立がある。転抵当に関する後記１から５までの論点のうち，甲説と乙説のいずれの説を探るかによって結論が異なるものはどれか。

甲説：　転抵当とは，抵当権と被担保債権とに共同して質権を設定するものである。
- 【債権抵当権共同質入説】　　　　　(S1310) 【転抵当の法律構成】
  被担保債権も，質権の対象となっている。
  →　転抵当権者は，原抵当権者の債務者に対して，債権の直接取立が可能。
乙説：　転抵当とは，被担保債権から切り離して抵当権が把握する交換価値そのものに更に抵当権を設定するものである。
- 【抵当権再度質入説】　通説・判例（大決昭7.8.29）
  原抵当権設定者の利害に影響を及ぼさない。
  被担保債権は，質権の対象となっていない。
  →　転抵当権者は，原抵当権者の債務者に対し，債権の直接取立は不可。

１

　抵当権者は，原抵当権設定者の承諾がない場合でも，転抵当権を設定することができるか。

２

　抵当権の一部に転抵当権を設定することができるか。

３

　転抵当権者は，原抵当権の被担保債権を直接取り立てることができるか。

４

　転抵当権者は，原抵当権の被担保債権の弁済期が到来する前でも，転抵当権に基づき原抵当権を実行することができるか。

５

　転抵当権は，その被担保債権額が原抵当権の被担保債権額を上回る場合でも有効か。

　正　解　　　３

※	転抵当の法律構成については，大別して，次の甲説と乙説の対立がある。転抵当に関する後記１から５までの論点のうち，甲説と乙説のいずれの説を探るかによって結論が異なるものはどれか。甲説：　転抵当とは，抵当権と被担保債権とに共同して質権を設定するものである。【債権抵当権共同質入説】　　　　　(S1310) 【転抵当の法律構成】被担保債権も，質権の対象となっている。 →　転抵当権者は，原抵当権者の債務者に対して，債権の直接取立が可能。乙説：　転抵当とは，被担保債権から切り離して抵当権が把握する交換価値そのものに更に抵当権を設定するものである。【抵当権再度質入説】　通説・判例（大決昭7.8.29）原抵当権設定者の利害に影響を及ぼさない。被担保債権は，質権の対象となっていない。 →　転抵当権者は，原抵当権者の債務者に対し，債権の直接取立は不可。
１	抵当権者は，原抵当権設定者の承諾がない場合でも，転抵当権を設定することができるか。同じ (S1310A) 《責任転抵当》（共通）　［債権抵当権共同質入説によっても，抵当権再度質入説によっても］，抵当権者は，原抵当権設定者の承諾がない場合でも，転抵当権を設定することができる。 (S1310A) 《責任転抵当》 ※←　転抵当には，民法298条2項のような規定がないので，承諾転抵当に限定されるわけではない。
２	抵当権の一部に転抵当権を設定することができるか。同じ (S1310B) 《一部の設定》　［債権抵当権共同質入説によっても，抵当権再度質入説によっても］，（転抵当権者が把握した）抵当権の一部に転抵当権を設定することができる。 (S1310B) 《一部の設定》 ※←　これを禁止する理由は存しない。
３	転抵当権者は，原抵当権の被担保債権を直接取り立てることができるか。異なる (S1310C) 《直接取立て》　［債権抵当権共同質入説によれば，被担保債権も，質権の対象となっているので］，転抵当権者は，原抵当権の被担保債権を直接取り立てることができる（民法367条1項）。 (S1310C) 《直接取立て》 ※←　抵当権再度質入説によれば，被担保債権は，質権の対象となっていないので，転抵当権者は，原抵当権者の債務者に対し，債権の直接取立は不可。
４	転抵当権者は，原抵当権の被担保債権の弁済期が到来する前でも，転抵当権に基づき原抵当権を実行することができるか。同じ (S1310D) 《弁済期前》（共通）　［債権抵当権共同質入説によっても，抵当権再度質入説によっても］，転抵当権者は，原抵当権の被担保債権の弁済期が到来する前には，転抵当権に基づき原抵当権を実行することができない。 (S1310D) 《弁済期前》 ※←　転抵当権と原抵当権の弁済期がともに到来することが必要。
５	転抵当権は，その被担保債権額が原抵当権の被担保債権額を上回る場合でも有効か。同じ (S1310E) 《被担保債権額》（共通）　［債権抵当権共同質入説によっても，抵当権再度質入説によっても］，転抵当権は，その被担保債権額が原抵当権の被担保債権額を上回る場合でも有効である。 (S1310E) 《被担保債権額》 ※←　たとえ超えても，原抵当権の被担保債権の範囲内で優先弁済力を有すると解すれば足りる。
	正　解　　　３