平成９年１７問

◎	甲不動産には，順位１番から３番までの抵当権が設定され（第１順位の抵当権者をＡ，第２順位の抵当権者をＢ，第３順位の抵当権者をＣとし，Ｃの抵当権の被担保債権額がＡの抵当権の被担保債権額より大きいものとする），それぞれ登記がされている。この事例において，ＡがＣに対して抵当権の順位を譲渡する場合とＡがＣのために抵当権の順位を放棄する場合の異同に関する次の記述のうち，正しいものはどれか。 (S0917) 【抵当権の順位の譲渡】先順位抵当権者から後順位抵当権者に対してなされる，先順位たる地位の譲渡抵当権の【順位の放棄】先順位抵当権者から後順位抵当権者のためになされる，先順位たる地位の放棄
１	順位の譲渡は１番抵当権の債務者と３番抵当権の債務者が同一でなければすることができないが，順位の放棄はこれらの債務者が異なっていてもすることができる。誤り (S0917A) 《債務者の同一性》（共通）　順位の譲渡は１番抵当権の債務者と３番抵当権の債務者が同一でなければすることができないし，順位の放棄もこれらの債務者が異なっていている場合にはすることが［できない］（民法376条1項後）。 (S0917A) 《債務者の同一性》 □←　なお，「同一の債務者」には，債務者でない抵当権設定者（物上保証人）も含まれる（昭30.7.11民甲1427号回答）。 ※←　抵当権者は，その抵当権を他の債権の担保とし，又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し，若しくは放棄することができる（民法376条1項）。
２	順位の譲渡であればＢの承諾を要するが，順位の放棄であればＢの承諾を要しない。誤り (S0917B) 《中間者の承諾》　順位の譲渡であれば，後順位担保権者（中間者）Ｂの承諾を［要しないし］，順位の放棄であってもＢの承諾を要しない（民法375条）。 (S0917B) 《中間者の承諾》 □←　抵当権の順位の譲渡・放棄は，その当事者間でのみ効力を生じ，中間者Ｂに影響を与えないから。
３	登記は，順位の譲渡については効力発生要件であるが，順位の放棄については第三者に対する対抗要件である。誤り (S0917C) 《効力発生要件》　登記は，［順位の変更：×順位の譲渡］については効力発生要件であるが（民法374条2項），順位の（譲渡および）放棄については第三者に対する対抗要件である（民法376条2項，377条1項）。 (S0917C) 《効力発生要件》 □←　前項の規定による順位の変更は，その登記をしなければ，その効力を生じない（民法374条2項）。 ※←　〔第三者への対抗要件〕　前項の場合において，抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは，その処分の利益を受ける者の権利の順位は，抵当権の登記にした付記の前後による（民法376条2項）。〔債務者等への対抗要件〕　前条の場合には，第467条の規定に従い，主たる債務者に抵当権の処分を通知し，又は主たる債務者がこれを承諾しなければ，これをもって主たる債務者，保証人，抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない（民法377条1項）。
４	Ａは，順位の譲渡がされた場合には１番抵当権者として配当を受けることができないが，順位の放棄がされた場合には１番抵当権者として配当を受けることができる。一応，正しい (S0917D) 《１番抵当権の配当》　第１順位の抵当権者をＡ，第２順位の抵当権者をＢ，第３順位の抵当権者をＣとし，Ｃの抵当権の被担保債権額がＡの抵当権の被担保債権額より大きいものとすれば，第１順位の抵当権者Ａは，順位の譲渡（後順位）がされた場合には（Ｃが全額受領し）１番抵当権者として配当を受けることができないが，順位の放棄（同順位）がされた場合には（按分比例されるので）１番抵当権者として配当を受けることができる（最判昭38.3.1）。 (S0917D) 《１番抵当権の配当》 □←　これが，Ａが第３順位，Ｃが第１順位になるとする順位交換説（絶対的効力説）（最判昭38.3.1） ※←　順位譲渡の効力につき，ＣがＡの１番抵当権を実行して，その配当を自己の３番抵当権の被担保債権の弁済にあてる権利を取得するにすぎないとする相対的効力説によれば，あくまでAが１番抵当権の配当を受けることになる。
５	Ｃが本来受けるべき３番抵当権への配当額については，順位の譲渡がされた場合にはＡがＣに優先するが，順位の放棄がされた場合にはＡとＣがそれぞれの債権額に応じて取得する。一応，誤り (S0917E) 《３番抵当権の配当》　第１順位の抵当権者をＡ，第２順位の抵当権者をＢ，第３順位の抵当権者をＣとし，Ｃの抵当権の被担保債権額がＡの抵当権の被担保債権額より大きいものとするすれば，Ｃが本来受けるべき３番抵当権への配当額については，順位の譲渡（後順位）がされた場合にはＡがＣに優先［することはできない］が，順位の放棄（同順位）がされた場合にはＡとＣがそれぞれの債権額に応じて取得する。 (S0917E) 《３番抵当権の配当》 □←　これも，Ａが第３順位，Ｃが第１順位になるとする順位交換説（絶対的効力説）（最判昭38.3.1） ※←　順位譲渡の効力につき，ＣがＡの１番抵当権を実行して，その配当を自己の３番抵当権の被担保債権の弁済にあてる権利を取得するにすぎないとする相対的効力説によれば，３番抵当権の配当につきAが優先すると解する余地もある。
	正　解　　　４