平成１０年１５問

※	登記請求権をその登記原因により，① 物権的登記請求権，② 債権的登記請求権，③ 物権変動の事実そのものに基づいて発生する登記請求権の３種類に分類する見解がある。この見解に立った場合，次のアからオまでの記述に係る登記請求権のうち，③の登記請求権としてしか説明することができないものの組合せはどれか。【物権的登記請求権】 (S1015) 【登記請求権】実体的な権利関係と登記の不一致を解消するため，物権そのものの効力として生ずる【債権的登記請求権】登記をする旨の当事者間の特約の効力として生ずる【物権変動的登記請求権】実体的な権利関係と登記の不一致を解消するため，物権変動の事実そのものから当然に生ずる
ア	Ａがその所有する土地をＢに売却し，ＢがさらにＣに転売し，ＡからＢ，ＢからＣへの各所有権移転登記が経由されたが，その後，ＡＢ間の売買契約が強迫を原因として取り消された場合，ＢはＣに対し，ＢＣ間の所有権移転登記の抹消を請求することができる。 ×　×　○ (S1015A) 《取消による遡及的無効》　Ａがその所有する土地をＢに売却し，ＢがさらにＣに転売し，ＡからＢ，ＢからＣへの各所有権移転登記が経由されたが，その後，ＡＢ間の売買契約が強迫を原因として取り消された場合（ＡＢ間の売買は取消しにより遡及的に無効となり，Ｂは無権利者となるが，登記と物権変動の過程が一致しないので，③ 物権変動の事実そのものに基づいて発生する登記請求権により），ＢはＣに対し，ＢＣ間の所有権移転登記の抹消を請求することができる（最判昭36.4.28）。 (S1015A) 《取消による遡及的無効》　→　Ｂは無権利者 □←　ＢからＣへの所有権移転はなかったことになり，物権変動の過程をそのまま登記に表すという登記法上の要請に従い，Ｂは抹消請求できる。 ※←　物権の効力としてＢがＢＣ間の所有権移転登記の抹消請求はできない。ＢＣ間に，登記に関する特約はない。
イ	Ａがその所有する土地をＢに売却し，ＢがさらにＣに転売した場合において，ＡＢＣの三者間において，登記名義をＡからＣに直接移転することを合意したときは，ＣはＡに対し，その旨の所有権移転登記を請求することができる。 △　○　×　《難問》 (S1015B) 《中間省略登記》　Ａがその所有する土地をＢに売却し，ＢがさらにＣに転売した場合に，ＡＢＣの三者間において，登記名義をＡからＣに直接移転することを合意したとき，（物権変動の過程はＡ→Ｂ→Ｃであるが，特約があるので，② 債権的登記請求権により）ＣはＡに対し，その旨の所有権移転登記を請求することができる（最判昭40.9.21）。 (S1015B) 《中間省略登記》　物権変動の過程はＡ → Ｂ → Ｃ □←　なお，不動産登記法の改正により，Ａ→Ｂ→Ｃという物権変動の過程に反する，ＡからＣへの直接の移転登記請求はできない。 ※←　Ｃは現在の所有者であり，その物権的登記請求権として，自己への移転登記を求めることはできると思われる（登記請求権は，実体的な物権変動に即して生ずる点を強調すれば不可）。
ウ	Ａ所有の土地について，ＡＢの通謀によりＢへの虚偽の所有権移転登記が経由されていたところ，ＣがＡからこの土地を買い受けた場合，ＣはＢに対し，直接自己への所有権移転登記を請求することができる。 ○　×　×　 (S1015C) 《真の所有者からの買受け》　Ａ所有の土地について，ＡＢの通謀によりＢへの虚偽の所有権移転登記が経由されていたところ，ＣがＡからこの土地を買い受けた場合，（Ｃは所有者として，① 物権的登記請求権により）ＣはＢに対し，直接自己への所有権移転登記を請求することができる（最判昭30.7.5）。 (S1015C) 《真の所有者からの買受け》 □←　物権変動は，ＡＣ間で生じているから。 ※←　真の所有者Ａから売買により所有権を取得したＣは，物権的登記請求権としてＢに自己への直接の所有権移転登記を請求できる。ＢＣ間には，売買契約も，特約もない。登記がＢのもとにあっても，ＢからＣへの物権変動が生じたわけではない。
エ	Ａが所有していた土地をＢが時効により取得し，所有権移転登記を経由しないままＣに売却した場合，ＢはＡに対し，所有権移転登記を請求することができる。 ×　×　○ (S1015D) 《時効による物権変動》　Ａが所有していた土地をＢが時効により取得し，所有権移転登記を経由しないままＣに売却した場合，Ｂは（もはや所有者ではないが，時効による物権変動の事実に基づき）Ａに対し，所有権移転登記を請求することができる（大判大5.4.1）。 (S1015D) 《時効による物権変動》　物権変動の過程はＡ → Ｂ → Ｃ □←　時効による物権変動の事実に基づき，元所有者Ｂも，所有権移転登記を請求できる。 ※←　時効取得したＢは，売却により所有権を失っているので，物権的登記請求権を行使し得ない。ＡＢ間に契約関係はなく，もちろん登記に関する特約も存しない。
オ	Ａはその所有する土地をＢに売却した場合，Ｂに対し，所有権移転登記を請求することができる。 ×　○　○ (S1015E) 《当事者間の登記引取請求》　Ａはその所有する土地をＢに売却した場合，（ＡＢ間に物権変動が生じでおり，売主は買主）Ｂに対し，（② 債権的登記請求権，③ 物権変動の事実そのものに基づいて発生する登記請求権による）所有権移転登記を請求することができる（最判昭36.11.24）。 (S1015E) 《当事者間の登記引取請求》　物権変動の過程はＡ → Ｂ □←　この場合，Ａは所有権を失っており，Ａが物権そのものの効力として移転登記を求めることはできない。 ※←　売買契約の当事者間では，登記を移転することも契約内容になっているばすであり，登記の引取りも請求できる。物権変動の過程を登記に反映させるためには，登記引取請求も認められる。
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