**

**

**

(0731A) 《担保的機能》
※←　（民法条項）。相殺により，自働債権と受働債権が対当額において消滅する限りで，相手方に対する債権を確実に回収することができることから，相殺には担保的機能が認められる。しかし，自働債権の債権者が相殺前に受働債権の上に担保物権を有するわけでないのは当然である。

(0731B) 《受働債権の譲渡》
※←　（民法条項）。　「柤殺の制度は，相殺権を行使する債権者の立場からすれば，債務者の資力が不十分な場合においても，自己の債権については確実，かつ十分な弁済を受けたと同様な利益を受けることができる点において，受働債権についてあたかも担保権を有するにも似た地位が与えられるという機能を営む］（最判昭45. 6 .24)。したがって，相殺権は受働債権に付着した制約であるといえる。また，債務者は債権譲渡の通知を受けるまでに譲渡人に対して生じた抗弁事由を，原則として譲受人にも対抗することができる（§468 11）。そして，債務者が債権譲渡の通知前に譲渡人に対して反対債権を取得してさえいれば,反対債権（自働債権）・譲渡債権（受働債権）の弁済期が通知時に到来していたか否かを問わず，また，いずれの債権の弁済期が先に到来する予定であったか否かを問わず，債務者は相殺適状に達した後は相殺することができる（無制限説一判例）。したがって，「受働債権が譲渡されても，自働債権者は，新債権者に対して相殺できる」ということは不適切ではない。*

(0731C) 《受働債権の差押》
※←　（民法条項）。　受働債権の差押え後に第三債務者が受働債権の債権者に対して債権を取得したとしても，その取得した債権を自働債権とする相殺は許されない（§511)。しかし, 511条の趣旨は相殺の合理的期待のない場合に，第三債務者が相殺することによって，差押債権者の利益を害することはできないとする趣旨に基づく。そうだとすれば，受働債権の差押え前に第三債務者が受働債権の債権者に対して債権を取得した場合には相殺の合理的期待があるといえるから，相殺可能な債権が差し押さえられても，その差押えに対して常に柤殺できる（無制限説　　判例）。*

(0731D) 《相殺適状》
※←　（民法条項）。　受働債権が譲渡されても新債権者が債務者に対し同種の債務を負っているときは,債務者は，|日債権者に対する債権を自働債権とする相殺（§468 11 ）と，新債権者に対する債権を自働債権とする相殺の２つの相殺権を有する。この場合，相殺権を行使する頽序については明文の規定はないが，判例（最判昭45. 6.24)は，自働債権と受働債権として複数の元本債権があり，当事者間で相殺の順序の指定がされていなかった事例において，「元本債権相互間の相殺の順序については，民法512条, 489条の趣旨に則り，元本債権が相殺に供しうる状態となるにいたった時期に従う」べきものとした。これは，先に相殺適状に達した債権債務についての相殺期待をより保護すべきであるとの考えによるものであるといえる。したがって，この考えによれば，相殺適状の生ずる頽序に従って相殺権を行使する必要があるといえる。*

(0731E) 《期限の利益の放棄》
※←　（民法条項）。相殺をなすには，自働債権は常に弁済期にあることが必要であるが（そうしないと相手方の期限の利益を一方的に奪うことになってしまうから），受慟債権は必ずしも弁済期にある必要はない。なぜなら，期限の利益は原則として債務者のためにあり（§136 �T），債務者は原則として期限の利益を放棄することができるからである（§136 �U）。