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(0836A) 《表示の錯誤》
※←　（民法条項）。
※←　表示の錯誤とは，言い違いや誤記の類であり，たとえば1,000円と書くっもりでうっかり10,000円と書いた場合をいう。これは当該意思表示によって表示される内容を自分は表示している，という意識がない場合である。すなわち，表示から推断された効果意思に対応する内心的効果意思が欠如しているもので，錯誤が丁意思の不存在」にあたる典型的な場合である。

(0836B) 《意思の不存在》
※←　（民法条項）。
※←　一般に，心裡留保・虚偽表示・錯誤などによる意思表示は，表示に対応する内心の効果意思がないものであるのに対して，詐欺・脅迫による意思表示の場合には，表示に対応する内心の効果意思は存在し，ただその意思決定が自由に行われなかった点で意思表示の成立過程に瑕疵があるものとされる。このことから，前者は「意思の不存在」とよばれるのに対して，後者は「瑕疵ある意思表示」とよばれ区別されるのが通例である。

(0836C) 《動機の錯誤》
※←　（民法条項）。
※←　動機の錯誤とは，たとえば高速自動車道が敷設される予定地だと誤信して，そうでない土地を高価で買った場合のように，表示上の効果意思に対応する内心的効果意思は存在するが（なぜなら，この土地を買おうとしてこの土地を買っているから），ただその内心の意思の決定が誤った判断に基づいてなされたという，いわば意思決定のプロセスに病理的事情があるにすぎないものである。従来の通説は，動機の錯誤は厳密には「意思の不存在」とはいえないことから，原則として95条の適用はなく，例外的にその動機が表示されているときに限り内容の錯誤となり，95条の適用がありうると解しており，判例もこの立場に立つている（大判大3 .12.15)。

(0836D) 《使者》
※←　（民法条項）。
※←　使者とは，本人の決定した意思につき表示の機関として第三者に伝達する役割を果たす者をいう。代理においては，代理人がみずからの自由裁量により意思表示をするのに対して，使者の場合には，自由裁量をする余地がなく，本人の決定した意思がそのまま伝達される。それゆえ，本人側の意思表示に錯誤があるか否かは，使者についてではなく本人について判断されることになる。

(0836E) 《不一致》
※←　（民法条項）。
※←　心裡留保・虚偽表示・錯誤は，いずれも意思と表示との間に不一致がある場合である。ただ，錯誤は意識的に不一致が作り出されるのではなくて，表意者自身がその不一致に気づかないという点で，心裡留保や虚偽表示とは異なるものとされる。このように錯誤の場合には，表意者にはその負担とすべき主観的な帰責事由が原則として存在しないため，意識的に虚偽の表示を行う心裡留保や虚偽表示の場合とは異なり，表意者の保護が制度の中心的な目的となる。