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　弁済は債権者（あるいは債権者の代理人など弁済の受領権限のある者）に対してなすべきであり，それ以外の者になした弁済は無効となるのが原則である。しかし，債権の準占有者になした弁済は，弁済者が善意である場合には有効となる（債権・債務は消滅する）（§478)。
　478条が債権の準占有者に対する弁済を有効とした趣旨は，弁済は義務であり，また，日常頻繁に行われることから，弁済の安全・迅速を確保し，もって取引の安全を図ろうとしたことにある。

(1134A) 《債権の準占有者》
※←　（民法条項）。　478条の「債権の準占有者」とは,自己のためにする意思をもって債権を行使する者で（cf　§205),債権者ではないのに取引通念上債権者らしい外観を有する者をいう。具体例としては，債権証書(ex.預金通帳）と印鑑を所持する者，表見相続人などのほか，債権譲渡行為が無効または取り消された場合の事実上の譲受人（大判大7.12. 7)があげられる。したがって，無効な債権譲渡における譲受人もT債権の準占有者」に当たる。*

(1134B) 《詐称代理人》
※←　（民法条項）。本肢は，債権者の代理人と詐称して弁済を受領した者は「債権の準占有者」に当たるかという問題である。すなわち，債務者が，債権者本人と詐称した者に対して弁済をしたのではなく，債権者の代理人と詐称した者に対して弁済をした場合に, 478条により弁済が有効とされうるかという問題である。判例･通説は,債権者の代理人と詐称した者も478条の［債権の準占有者］に当たるとする（最判昭37. 8.21)。その理由としては，�@478条が債権の準占有者に対する弁済を有効とした趣旨は，日常頻繁に行われる弁済の安全･迅速を確保し，もって取引の安全を図ろうとしたことにあり，そうだとすれば，本人と詐称するか代理人と詐称するかで弁済者の保護を区別するのは不合理であるし，また，�A準占有における「自己のためにする意思」は自己の債権として行使する意思のみならず，債権者の代理人として行使する意思を含む広い概念であると考えることができ，また，占有に代理占有が認められるのであるから（§181),準占有にも代理占有を認めない理由はないからであるとする。　*

(1134C) 《有効な弁済》
※←　（民法条項）。　イで述べたように，債権者の代理人と詐称した者も478条の「債権ノ準占有者」に当たるとして弁済者を保護するのが判例・通説であるが，表見代理規定によって弁済者を保護すべきだという反対説もある。確かに，弁済は法律行為ではないが（準法律行為），準法律行為にも，とくに不都合がない限り，法律行為に関する規定を類推適用すべきとする考え方を前提としている。したがって，この反対説によれば，表見代理規定によって弁済が有効となることもありうるし，また，判例・通説の立場でも，詐称代理人の行為が表見代理規定の要件を満たす場合には，表見代理規定の適用または類推適用によって弁済が有効となることもありうるから，本肢は適切とはいえない。*

(1134D) 《善意無過失》
※←　（民法条項）。　平成16年改正により, 478条の規定は弁済者の善意無過失を要件としたので，問題として意味がなくなった。

(1134E) 《弁済の効果》
※←　（民法条項）。　弁済者の弁済が債権の準占有者に対する弁済として認められると，その弁済は有効となり，その債権は消滅する。この弁済の効果は確定的であり（判例・通説），真の債権者は債務者に対して，さらなる弁済も損害賠償も請求することはできない。したがって，前段は適切である。しかし, 478条は本来的に無権利者である債権の準占有者に弁済受領の権限までも与えるものではないから，当然のことながら，真の債権者は債権の準占有者（弁済受領者）に対して,不当利得返還請求（§703,§704)あるいは不法行為による損害賠償（§709)を請求することはできる。したがって，後段は適切ではない。
　　　　　　なお，判例・通説は, 478条の弁済の効果は確定的であると考えるから，弁済者は債権の準占有者（弁済受領者）に対して，その返還を請求することはできない（判例・通説　有力な反対説あり）。