*　キコ　　　クケ　*

アエオ

　イウカ
本問は，「抵当権の物上代位（§372,§304)］に関する問題である。すなわち，物上代位制度の趣旨をどのように考えるかという問題を前提に，物上代位の客体にまつわる問題（売却代金と賃料）との関連を問うている。　
　物上代位制度の趣旨については，大別して，価値権説と特権説の対立がある。価値権説は，優先弁済的効力を有する抵当権は，抵当目的物の交換価値を把握する権利であり，したがって，売却・賃貸・滅失・損傷によって債務者（抵当権設定者）が受くべき金銭その他の物（価値代表物）は，この抵当権が把握する交換価値の具体化（交換価値のなし崩し的実現）であるといえるから，価値代表物に抵当権の効力が及ぶのは当然であると考える。これに対して，特権説は，抵当権は物権である以上，抵当目的物が消滅すれば抵当権も消滅するはずであるが，抵当権者を保護するために,･法はとくに価値代表物に抵当権の効力が及ぶことを認めたものである（物上代位の制度は法が抵当権者に与えた特権であり，当然に認められるものではない）と考える。
　本問のアの見解は価値権説の立場であり，イの見解は，特権説の立場では，物上代位の目的は交換価値が具体化したものである必要はなく，物上代位の目的にすべきかどうかは，公平の見地から決定することになるから，特権説の立場に立つものといえる。

(1138A) 《趣旨》
※←　価値権説によれば，抵当権は，目的物の交換価値を把握する権利なので，目的物の交換価値が現実化したときに，その具体化された交換価値にその効力を及ぼさせるということです。

(1138B) 《》
※←　価値権説によれば，（目的物の交換価値が現実化しているので），物上代位は認められます。
（1）売却代金に対する物上代位の可否
　　　　　　「売却代金（請求権）は物上代位の客体か」という問題について，価値権説（ア）の立場に立って，目的物の売却によって交換価値が現実化すると考えれば（オ），売却代金に対する物上代位は肯定（エ）されることになる。
　　　　　　これに対して,特権説（イ）の立場に立って,目的物が売却されても抵当権は消滅しない（抵当権には追及力がある）と考えれば（カ），物上代位は否定（ウ）されることになる。
　　　　　　したがって，アーエーオとイーウゞ力が適切な組合せとなり，この段階で(2), (3), (5)に絞られる。　*

(1138C) 《目的物の売却》
※←　肯定説によれば，目的物の売却により，交換価値が現実化するからです。

(1138D) 《目的物の賃貸》
※←　肯定説によれば，抵当権設定者が目的物を使用することができるかどうかの問題と，抵当権設定者が目的物を第三者に使用させていることによって得られる対価がどうなるかの問題とは場面が異なります。
　（民法条項）。　（2）賃料に対する物上代位の可否
　　　　　　「賃料（請求権）は物上代位の客体か」という問題について，キの見解は，そもそも賃料は抵当権が把握している価値の範囲外というのであるから，賃料に対する物上代位を否定する見解である。そして，否定説の論者は，肯定説をとってしまうと，莪順位抵当権者にも賃料に対する物上代位が認められ，もしこの後順位抵当権者が本来なら（抵当権が実行された場合には）配当を受けられないような者の場合，それでも優先的に弁済を受けることになってしまい，抵当権設定者の賃料債権に期待していた設定者の一般債権者の利益を不当に害する（コ）といって，肯定説を批判する。したがって，キーコが適切な組合せとなる。
　　　　　　これに対して，クの見解は，抵当権設定者自身が抵当目的物を使用できるからといって，これを第三者に賃貸した場合の賃料まで完全に取得できると考える必要はなく，両者の問題は場面が異なるというのであるから，賃料に対する物上代位を肯定する見解である。そして，肯定説の論者は，賃借権の存在によって抵当目的物の価格は下落しているのであり，賃料に対する物上代位を肯定することによって,抵当権者を保護する必要がある（ケ）といって，否定説を批判する。*

(1138E) 《反対説の批判》
※←　否定説は，賃借権の存在によって目的物の価格が下落するという事実を無視しています。