登記請求権については，契約上の履行請求権としての性格を有するもの（以下「債権的登記請求権」という），物権的請求権としての性格を有するもの（以下「物権的登記請求権」という），物権変動の過程を忠実に反映させることを内容とするもの（以下「物権変動的登記請求権」という）に分けて説明する多元説の立場がある。

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(1528A) 《転売後》
※←　まず，ＡＢは不動産売買契約の当事者であり，買主Ｂは売主Ａに対して契約上の履行請求として登記請求をなしうる。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，債権的登記請求権として説明することができる。　
　また，本記述の不動産の所有権はＡ→Ｂ→Ｃと移転している以上，ＡからＢへ所有権移転登記をすることによって物権変動の過程を忠実に反映させることになる。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，物権変動的登記請求権として説明することができる。
　他方，不動産の所有権はすでにＣに移転し，Ｂは所有権を有しないから，Ｂは所有権に基づく物権的請求権を行使することができない。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，物権的登記請求権としては説明することができない。
（民法条項）。ＢはすでにＣに対して本件不動産を売却していることから，Ｂには物権すなわち所有権が現在は帰属していないので，物権的登記請求権としては説明することができない。これに対して，債権的登記請求権および物権変動的登記請求権としては説明できる。前者については，ＢはＡから本件不動産を買い受けていることから売買契約に基づく履行請求権を有していること，後者については，Ａ→Ｂ→Ｃと売買が行われていることから，Ｂは物権変動の過程を忠実に反映させることを内容とする登記請求権を有していること，からである。

(1528B) 《時効消滅後》
※←　まず，ＡＢ間の売買契約により不動産の所有権はＢに移転し，Ｂは所有権を有するから，所有権に基づく物権的請求権を行使することができる（しかも所有権は消滅時効にかからない）。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，物権的登記請求権として説明することができる。
　　　　　　また，本記述の不動産の所有権はＡ→Ｂと移転している以上，ＡからＢへ所有権移転登記をすることによって物権変動の過程を忠実に反映させることになる。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，物権変動的登記請求権として説明することができる。よって，本記述は誤っている。
　　　　　　なお，Ａの売買契約上の債務は時効消滅しているから，Ｂは契約上の履行請求として登記請求をすることはできない。したがって，ＢのＡに対する所有権移転登記手続請求権は，債権的登記請求権としては説明することができない。
（民法条項）。本件では，売買契約上の債務が時効消滅しているので，Ｂの債権的登記請求権として説明することはできない。しかし，ＢはＡから本件不動産を買い受け，所有権を有していることから，物権的登記請求権として説明することができる。さらに，Ｂは，前述のようにＡから本件不動産を買い受けていることから，物権変動の過程を忠実に反映させることを内容とする登記請求権を有しているので，物権変動的登記請求権として説明することができる。

(1528C) 《同時履行の抗弁権》
※←　同時履行の抗弁権（§533)は，双務契約において対価的関係にある債務の履行について認められる法律効果である。そこで，Ｂの登記請求権が債権的登記請求権に基づく場合には，Ａの登記移転債務とＢの代金支払債務とは対価的関係にあることから，Ａが売買代金の支払との同時履行を主張することを難なく説明できる。他方，物権的登記請求権と物権変動的登記請求権に基づく場合には，本来，契約上の債務の履行とは無関係であるととから，Ａの同時履行の主張を説明するのは困難である。しかし，同時履行を主張できないとすると不公平な結果となる。そこで，物権的登記請求権・物権変動的登記請求権を同時履行の抗弁権による制約の付された権利と捉えて，これらの権利に基づき登記請求がなされた場合でも同時履行の主張をなしうると解されている。よって，「説明することができない」わけではない。
（民法条項）。同時履行の抗弁（民533条）は債権関係により成立するため，債権的登記請求権として説明することができる。また，代金が完済されていない場合には，物権的登記請求権も残額の支払いとの同時履行の抗弁権が付着した請求権として存在することになる。よって，物権的請求権としては説明できないとする点で誤りである。

(1528D) 《登記引取請求》
※←　不動産の買主が所有権移転登記を受ける権利を有するだけでなく，義務（一種の受領義務）を負うと考える立場によれば，売主Ａは買主Ｂに対し移転登記を受けるよう請求することができる。したがって，ＡのＢに対する登記引取請求権たる所有権移転登記手続請求権は，債権的登記請求権として説明することができる。
　　　　　　また，本記述の不動産の所有権はＡ→Ｂと移転している以上，ＡからＢへ所有権移転登記をすることによって物権変動の過程を忠実に反映させることになる。したがって，ＡのＢに対する登記引取請求権たる所有権移転登記手続請求権は，物権変動的登記請求権として説明することができる。よって，本記述は誤っている。
（民法条項）。Ａは，Ｂに本件不動産を売却していることから，売買契約上の履行請求権を有し，債権的登記請求権として説明することができる。また，Ａは，ＡからＢに対する所有権移転という物権変動の過程を忠実に反映させることを内容とする請求権を有することから，物権変動的登記請求権としても説明することができる。

(1528E) 《中間省略登記》
※←　ＡがＢに、ＢがＣに不動産を順次売却した場合，Ｃは不動産の所有権を有するから，所有権に基づく物権的請求権を行使することができる。したがって，ＣのＡに対する直接の所有権移転登記手続請求権は，物権的登記請求権として説明することができる。他方，本記述の不動産の所有権はＡ→Ｂ４Ｃと移転している以上，Ａから直接Ｃへ所有権移転登記をしても物権変動の過程を忠実に反映させることにならない。したがって，ＣのＡに対する直接の所有権移転登記手続請求権は，物権変動的登記請求権として説明することはできない。
（民法条項）。本件不動産はＡ→Ｂ→Ｃと順次売却されているので，本件不動産の所有権はＣに帰属している。よって，物権的登記請求権として説明することができる。また，Ａ→Ｂ→Ｃと所有権が移転していることから，物権変動の過程を忠実に反映させることを内容とする物権変動的登記請求権としても説明することができる。