民法

◎

　法人の機関による所持と法人の占有との関係につき，

　（甲）法人に直接占有があり，機関個人には直接占有がないという考え方と

　（乙）機関個人が直接占有を有し，法人は機関を占有代理人とする間接占有を有するという考え方

とがあるとしたとき，Ａが，その所有する土地をＢに賃貸し，Ｂがこの土地をＡの承諾を得ずにＣ会社（代表者Ｄ）に転貸し，この土地を引き渡した場合における次の記述のうち，正しいものはどれか。

１

　Ａが無断転貸借を理由に，Ｂとの賃貸借契約を解除することは，甲の考え方によれば認められるが，乙の考え方によれば認められない。

２

　Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｃにその土地の返還を求めるにあたって，まず，Ｂとの賃貸借契約を解除する必要があるか否かについて，甲の考え方によればその必要があるが，乙の考え方によればその必要はない。

３

　Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｄにその土地の返還を求めることは，甲，乙いずれの考え方によっても認められない。

４

　Ｅがその土地の占有を侵奪した場合，Ｄが，占有権に基づいて，Ｅにその土地の返還を求めることは，甲の考え方によれば認められないが，乙の考え方によれば認められる。

　正　解　　　４

◎	法人の機関による所持と法人の占有との関係につき， (5871) 【法人の占有】 **
	（甲）法人に直接占有があり，機関個人には直接占有がないという考え方と (5871A) 《直接占有説》　（甲）法人に直接占有があり，機関個人には直接占有がないという考え方と (5871A) 《直接占有説》 ※←　（民法条）。
	（乙）機関個人が直接占有を有し，法人は機関を占有代理人とする間接占有を有するという考え方 (5871A) 《間接占有説》　（乙）機関個人が直接占有を有し，法人は機関を占有代理人とする間接占有を有するという考え方 (5871A) 《間接占有説》 ※←　（民法条）。
	とがあるとしたとき，Ａが，その所有する土地をＢに賃貸し，Ｂがこの土地をＡの承諾を得ずにＣ会社（代表者Ｄ）に転貸し，この土地を引き渡した場合における次の記述のうち，正しいものはどれか。
１	Ａが無断転貸借を理由に，Ｂとの賃貸借契約を解除することは，甲の考え方によれば認められるが，乙の考え方によれば認められない。誤り。 (5871B) 《無断転貸借》　Ａが無断転貸借を理由に，Ｂとの賃貸借契約を解除することは，直接占有説によれば認められるが，間接占有説によれば［認められる］。 (5871B) 《無断転貸借》 ※←　（民法条）。甲の考え方と乙の考え方との差異は法人の機関が目的物を所持する場合に誰が直接占有者であるかという点にあるにすぎず，どちらに立っても，Ｂが無断転貸借をしていることに変わりなく，Ａばそれを理由にＢとの賃貸借契約を解除することができる。
２	Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｃにその土地の返還を求めるにあたって，まず，Ｂとの賃貸借契約を解除する必要があるか否かについて，甲の考え方によればその必要があるが，乙の考え方によればその必要はない。誤り。 (5871C) 《不法占拠者》　Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｃにその土地の返還を求めるにあたって，まず，Ｂとの賃貸借契約を解除する必要があるか否かについて，［いずれの説によっても、無断転借人が賃貸人にとって不法占拠者にあたるかどうかという観点から問題となる：×甲の考え方によればその必要があるが，乙の考え方によればその必要はない］。 (5871C) 《不法占拠者》 ※←　（民法条）。ＡＢ間の賃貸借契約を解除する必要があるか否かは，（無断）転借人が賃貸人にとって不法占拠者にあたるかどうかという観点から問題となるのであり，転借人であるＣ会社の中で直接占有しているのはだれか，という問題とは関係ない。
３	Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｄにその土地の返還を求めることは，甲，乙いずれの考え方によっても認められない。誤り。 (5871D) 《直接占有者》　Ａがその土地の所有権に基づいて，Ｄにその土地の返還を求めることは，［間接占有説によれば，Ｄが直接占有者であるから，認められる：×甲，乙いずれの考え方によっても認められない］。 (5871D) 《直接占有者》 ※←　（民法条）。所有権に基づく返還請求権の相手方は，現にその物を占有することによって所有権者の占有を妨げている者である。この場合，占有は直接占有・間接占有を問わないが，乙の考え方によれば，Ｄが直接占有者であるから，ＡはＤに対して返還請求することになる。他方，甲の考え方によれば，機関個人は占有補助者ないし占有機関にすぎないから，直接占有者である法人Ｃに対して返還請求することになる。
４	Ｅがその土地の占有を侵奪した場合，Ｄが，占有権に基づいて，Ｅにその土地の返還を求めることは，甲の考え方によれば認められないが，乙の考え方によれば認められる。正しい。 (5871E) 《占有回収の訴え》　Ｅがその土地の占有を侵奪した場合，Ｄが，占有権に基づいて，Ｅにその土地の返還を求めることは，直接占有説によれば認められないが，間接占有説によれば認められる。 (5871E) 《占有回収の訴え》 ※←　（民法条）。占有回収の訴えを提起しうる者は，占有者である（§200 1）。甲の考え方によれば，占有者は法人であって，Ｄは本人たる法人の所持の機関にすぎず，独立の所持は認められず、占有者とはみなされない。これに対して，乙の考え方によれば，Ｄ自身も独立の所持者であり，直接の占有者である。したがって，甲の考え方ではＤは占有回収の訴えを提起しえないが，乙の考え方では提起しうる。
	正　解　　　４