公法

◎

　最高裁判所昭和41年２月８日判決（民集20巻2号196頁）は，「司法権の固有の内容として裁判所が審判し得る対象は，裁判所法第3条にいう「法律上の争訟」に限られ，いわゆる法律上の争訟とは，法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいうものと解される」と判示している。この判例の見解を前提にした場合，法律上の争訟に関する次のアからオまでの記述につき，それが正しいときは１を，誤っているときは２を選びなさい。

ア

　国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で，選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟は，法律上の争訟に該当しない。

イ

　国家試験における合格・不合格の判定は，学問・技術上の知識，能力，意見等の優劣・当否の判断を内容とする行為であり，試験実施機関の最終判断にゆだねられるから，国家試験における不合格判定が誤りであることを前提とする国家賠償請求訴訟は，法律上の争訟に該当しない。

ウ

　直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の当否については専ら国民の政治判断にゆだねられるべきものであるから，衆議院の解散が無効であることを前提とする訴訟は，法律上の争訟に該当しない。

エ

　具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとり，宗教上の教義に関する判断が請求の当否を決するについての前提問題にすぎなくとも，これに立ち入ることなくしてはその当否を判断することはできず，しかも，それが訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものである場合には，その実質において法令の適用による終局的解決に適しないから，法律上の争訟に該当しない。

オ

　行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず，これがされようとしている場合において，これがされることにより重大な損害が生ずるおそれがあることを理由に，行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟は，法律上の争訟に該当しない。

　　正解　　　１　　１　　２　　１　　２

◎	最高裁判所昭和41年２月８日判決（民集20巻2号196頁）は，「司法権の固有の内容として裁判所が審判し得る対象は，裁判所法第3条にいう「法律上の争訟」に限られ，いわゆる法律上の争訟とは，法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいうものと解される」と判示している。この判例の見解を前提にした場合，法律上の争訟に関する次のアからオまでの記述につき，それが正しいときは１を，誤っているときは２を選びなさい。 (1705) 【司法権の限界】　司法権の固有の内容として裁判所が審判し得る対象は，裁判所法第3条にいう「法律上の争訟」に限られ，いわゆる法律上の争訟とは，法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争をいうものと解される。 ** 　* ** 　*
ア	国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で，選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟は，法律上の争訟に該当しない。正しい。 (1705A) 《民衆訴訟》　国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で，選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟は，《法律上の争訟》に該当しない。 (1705A) 《民衆訴訟》 ※←　（憲法条）。国又は公共団体の機関の法規に適合しない行為の是正を求める訴訟で，選挙人たる資格その他自己の法律上の利益にかかわらない資格で提起する訴訟は，「権利義務に関する当事者間の紛争」に当たらないと解されるので，法律上の争訟に該当しない。なお，本記述の訴訟は，民衆訴訟と呼ばれるものであり（行訴法§５），「法律上の争訟」には当たらないが，特に行政の適法性確保のために法律で訴訟として争うことが認められたものである。
イ	国家試験における合格・不合格の判定は，学問・技術上の知識，能力，意見等の優劣・当否の判断を内容とする行為であり，試験実施機関の最終判断にゆだねられるから，国家試験における不合格判定が誤りであることを前提とする国家賠償請求訴訟は，法律上の争訟に該当しない。正しい。 (1705B) 《国家試験》　国家試験における合格・不合格の判定は，学問・技術上の知識，能力，意見等の優劣・当否の判断を内容とする行為であり，試験実施機関の最終判断にゆだねられるから，国家試験における不合格判定が誤りであることを前提とする国家賠償請求訴訟は，《法律上の争訟》に該当しない。 (1705B) 《国家試験》 ※←　（憲法条）。国家試験における合格・不合格の判定は，試験実施機関の最終判断にゆだねられるから，「法令を適用することによって解決し得ぺき権利義務に関する当事者間の紛争」に当たらないと解されるので，法律上の争訟に該当しない。
ウ	直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の当否については専ら国民の政治判断にゆだねられるべきものであるから，衆議院の解散が無効であることを前提とする訴訟は，法律上の争訟に該当しない。誤り。 (1705C) 《衆議院の解散》　直接国家統治の基本に関する高度に政治性のある国家行為の当否については専ら国民の政治判断にゆだねられるべきものであるが，衆議院の解散が無効であることを前提とする訴訟は，【法律上の争訟】に［該当する］。 (1705C) 《衆議院の解散》 ※←　（憲法条）。衆議院の解散も有効無効の判断が可能であり，これを前提とする訴訟が権利義務に関する当事者間の紛争であれば，「法令を適用することによって解決し得べき権利義務に関する当事者間の紛争」に当たると解される。
エ	具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとり，宗教上の教義に関する判断が請求の当否を決するについての前提問題にすぎなくとも，これに立ち入ることなくしてはその当否を判断することはできず，しかも，それが訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものである場合には，その実質において法令の適用による終局的解決に適しないから，法律上の争訟に該当しない。正しい。 (1705D) 《宗教上の教義》　具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとり，宗教上の教義に関する判断が請求の当否を決するについての前提問題にすぎなくとも，これに立ち入ることなくしてはその当否を判断することはできず，しかも，それが訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものである場合には，その実質において法令の適用による終局的解決に適しないから，《法律上の争訟》に該当しない。 (1705D) 《宗教上の教義》 ※←　（憲法条）。判例（最判昭56.4.7）は，「本件訴訟は，具体的な権利義務ないし法律関係に関する紛争の形式をとっており，その結果信仰の対象の価値又は宗教上の教義に関する判断は，請求の当否を決するについての前提問題であるにとどまるものとされてはいるか，本件訴訟の帰すうを左右する必要不可欠のものと認められ，また…本件訴訟の争点及び当事者の主張立証も右の判断に関するものがその核心となっていると認められることからすれば，結局本件訴訟は，その実質において法令の適用による終局的な解決の不可能なものであって，裁判所法３条にいう法律上の争訟にあたらない」としている。
オ	行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず，これがされようとしている場合において，これがされることにより重大な損害が生ずるおそれがあることを理由に，行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟は，法律上の争訟に該当しない。誤り。 (1705E) 《抗告訴訟》　行政庁が一定の処分又は裁決をすべきでないにもかかわらず，これがされようとしている場合において，これがされることにより重大な損害が生ずるおそれがあることを理由に，行政庁がその処分又は裁決をしてはならない旨を命ずることを求める訴訟は，【法律上の争訟】に［該当する］。 (1705E) 《抗告訴訟》 ※←　（憲法条）。行政庁の処分又は裁決により重大な損害が生ずるおそれがあることを理由にその処分等をしないよう命じることを求めることは，「法令を適用することによって解決し得ぺき権利義務に関する当事者間の紛争」に当たると解される。　なお，本記述の訴訟は，行政事件訴訟のうちの抗告訴訟の一つで，［差止めの訴え］と呼ばれるものであり（行訴法§３－Ⅶ），抗告訴訟は，国民の個人的権利利益の保護を目的とする訴訟（主観訴訟という）であって，裁判所法３条１項にいう「法律上の争訟」に当たるものである。
	正解　　　１　　１　　２　　１　　２