民法

◎	Ａ大学の図書館所蔵の書籍甲を，同大学教授Ｂが借り出し，図書館と同一の構内にある自己の研究室で利用していたことを前提として，次の１から４までの各記述のうち，誤っているものを２個選びなさい。 (2610) 【占有回収の訴え】　Ａ大学の図書館所蔵の書籍甲を，同大学教授Ｂが借り出し，図書館と同一の構内にある自己の研究室で利用していた。　Ｂは，Ａ大学が所有している書籍甲を借り，自己の研究室で利用しているところ，ＡとＢは使用貸借関係にあり，甲の占有はＢにあると考えられる。そこで，Ｂが甲の占有を奪われた場合の占有回復の方法として，占有回収の訴え（民200条１項）が考えられる。 **
１	Ｂが海外出張のため１週間大学を留守にしていた間に，Ｃが甲を盗み出して現に所持している場合，Ｂは，Ｃに対し，占有回収の訴えにより甲の返還を求めることができる。正しい。 (2610A) 《海外出張》　Ｂが海外出張のため１週間大学を留守にしていた間に，Ｃが甲を盗み出して現に所持している場合，Ｂは，Ｃに対し，【占有回収の訴え】により甲の返還を求めることができる（民法200条1項）。 (2610A) 《海外出張》 ※←　占有者がその占有を奪われたときは，占有回収の訴えにより，その物の返還及び損害の賠償を請求することができる（民法200条1項）。 ※←　Ｂは海外出張のため一週間大学を留守にしていたが，甲は依然としてＢの研究室内にあり，Ｂは甲を占有していたといえる。そして，Ｃは甲を盗み，その占有をＢから奪ったといえるから，ＢはＣに対して，占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできる。
２	Ｂが目を離した隙に，Ｄが甲を盗み出した上，自己の物と偽ってＥに売却し，引き渡した。甲にはＡ大学図書館の蔵書印が押捺されており，Ｅは，Ｄが甲を横領したものであると考えていた場合であっても，Ｂは，Ｅに対し，占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできない。正しい。 (2610B) 《特定承継人》　Ｂが目を離した隙に，Ｄが甲を盗み出した上，自己の物と偽ってＥに売却し，引き渡した。甲にはＡ大学図書館の蔵書印が押捺されており，Ｅは，Ｄが甲を横領したものであると考えていた場合でも，Ｂは，Ｅに対し，《占有回収の訴え》により甲の返還を求めることはできない（民法200条2項）。 (2610B) 《特定承継人》 ※←　占有回収の訴えは，占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし，その承継人が侵奪の事実を知っていたときは，この限りでない（民法200条2項）。 ※←　占有回収の訴えは，占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし，その承継人が侵奪の事実を知っていたときは，この限りでない。そこで，Ｄが甲を売却した相手方（特定承継人）Ｅが「侵奪の事実を知っていた」といえるかが問題となる。Ｅは，Ｄが甲を横領していたと考えているが，Ｂの占有にあったこと及びＤがこれを侵奪していた事実（＝甲が盗まれた事実）を知っていたわけではない。よって, 200条２項本文より，ＢはＥに対して占有回収の訴えを提起し甲の返還を求めることはできない。
３	Ｂが研究室から自宅に甲を持ち帰る途中，電車内に甲を置き忘れたところ，Ｆがこれを拾得して現に所持している場合，Ｂは，Ｆに対し，占有回収の訴えにより甲の返還を求めることができる。誤り。 (2610C) 《奪われた》　Ｂが研究室から自宅に甲を持ち帰る途中，電車内に甲を置き忘れたところ，Ｆがこれを拾得して現に所持している場合，Ｂは，Ｆに対し，《占有回収の訴え》により甲の返還を求めることは［できない］（民法200条1項）。 (2610C) 《置き忘れた》 ※←　占有者がその占有を奪われたときは，占有回収の訴えにより，その物の返還及び損害の賠償を請求することができる（民法200条1項）。 ※←　民法200条１項に言う「奪われたとき」とは，占有者の意思に反して所持が奪われることが必要である。したがって，遺失したものを他人が拾ったという場合は「奪われたとき」にあたらない。
４	Ｂは，助手Ｇに対し，甲の一部について複写するよう指示して甲を預けたところ，Ｇが目を離した隙にＨが甲を盗み出して現に所持している場合，Ｂは，Ｈに対し，占有回収の訴えにより甲の返還を求めることはできない。誤り。 (2610D) 《占有補助者》　Ｂは，助手Ｇに対し，甲の一部について複写するよう指示して甲を預けたところ，Ｇが目を離した隙にＨが甲を盗み出して現に所持している場合，Ｂは，Ｈに対し，【占有回収の訴え】により甲の返還を求めることが［できる］（民法200条1項）。 (2610D) 《占有補助者》 ※←　占有者がその占有を奪われたときは，占有回収の訴えにより，その物の返還及び損害の賠償を請求することができる（民法200条1項）。 ※←　Ｂは助手Ｇに対し，甲の一部について複写するよう指示して甲を預けているが，Ｂはなお甲の占有を失っているわけではない。すなわち，Ｇは単にＢの手足として甲を所持しているに過ぎないので，占有補助者である。
	正　解　　　３　　４