Ａが首輪の付いている飼い主不明の犬を発見し，その不明の飼い主のために犬の世話をした場合

　まず，Ａは［他人］たる犬の飼主のために犬の世話という「事務の管理」を「はしめた」といえ（民697条１項），民法697条以下の事務管理の規定の適用がある。

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(2627A) 《報酬》
※←　義務なく他人のために事務の管理を始めた者（以下この章において「管理者」という）は，その事務の性質に従い，最も本人の利益に適合する方法によって，その事務の管理（以下「事務管理」という）をしなければならない（民法697条1項）。
※←　事務管理は，義務のない行為であるから報酬請求権は生じない。　民法697条以下の事務管理の規定の中にも，報酬請求権を認める規定はない。

(2627B) 《善管注意義務》
※←　管理者は，本人の身体，名誉又は財産に対する急迫の危害を免れさせるために事務管理をしたときは，悪意又は重大な過失があるのでなければ，これによって生じた損害を賠償する責任を負わない（民法698条）。
※←　民法698条反対解釈。同条は，緊急事務管理の場合において，悪意又は重大な過失があるのでなければ，これによって生じた侵害を賠償する義務を負わないとして，注意義務を軽減している。この規定の反対解釈として，通常の事務管理者は善良な管理者の注意義務を負うと介されている。

(2627C) 《損害賠償》
※←　第645条から第647条までの規定は，事務管理について準用する（民法701条）。
※←　民法697条以下の事務管理の規程においては，損害賠償についての定めはない。 702条は管理者が積極的に支出した費用に定めているだけで，損害賠償請についての規定ではない。 701条では，委任に関する650条３項は準用されていない。

(2627D) 《動物の占有者》
※←　動物の占有者は，その動物が他人に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし，動物の種類及び性質に従い相当の注意をもってその管理をしたときは，この限りでない（民法718条1項）。
※←　事実上その動物を管理する者に当たるから。　占有が認められるためには，「自己のためにする意思」（占有意思）と「所持」が必要である（民180条）。　占有意思は，所有の意思である必要はなく，所持の意思があれば、これが認められる。　

(2627E) 《留置権》
※←　管理者は，本人のために有益な費用を支出したときは，本人に対し，その償還を請求することができる（民法702条1項）。
※←　犬の治療費は，飼主にとって「有益な費用」であるといえるため，Ａは飼主に対して民法702条１項に基づく費用償還請求権を有する。　かかる請求権は，犬に関して生じた債権ということができるから，「他人の物」たる犬の「占有者」であるＡは，当該費用の償還があるまで，犬を留置することができる(295条１項本文）。