公法

◎

　日本国憲法における「主権」の概念に関する次のアからエまでの各記述について，誤っているもの二つの組合せを，後記１から６までの中から選びなさい。

ア

　日本国憲法前文には「われらは，いづれの国家も，自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて，政治道徳の法則は，普遍的なものであり，この法則に従ふことは，自国の主権を維持し，他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」とあるが，ここにいう「主権」は「国家の統治権」を意味する。

イ

　国民主権の意義を，国家が支配権力を行使する権威のより所（国家権力の正統性）が国民に由来することと解する立場からすると，国民主権の原理は，国家権力の行使が全国民の名の下で行われるべきことを意味するにとどまり，実際に国家の意思決定に国民の意思が的確に反映されるような仕組みを作ることまでは要請されない。

ウ

　ポツダム宣言８項には「日本国ノ主権ハ本州，北海道，九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」とあるが，ここにいう「主権」は日本国憲法第１条にいう「主権」の意味とは異なる。

エ

　日本国憲法の国民主権原理が明治憲法の天皇主権の否定として表明されたものだという趣旨からすると，日本国憲法下において，少なくとも天皇は国民ではないことは明らかである。

　１　アとイ　　２　アとウ　　３×アとエ　　４　イとウ　　５　イとエ　　６　ウとエ　　　

◎	日本国憲法における「主権」の概念に関する次のアからエまでの各記述について，誤っているもの二つの組合せを，後記１から６までの中から選びなさい。 (1802) 【国民主権の概念】　* ** 　* ** 　*
ア	日本国憲法前文には「われらは，いづれの国家も，自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて，政治道徳の法則は，普遍的なものであり，この法則に従ふことは，自国の主権を維持し，他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」とあるが，ここにいう「主権」は「国家の統治権」を意味する。誤り。 (1802A) 《前文の自国の主権》　日本国憲法前文には「われらは，いづれの国家も，自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて，政治道徳の法則は，普遍的なものであり，この法則に従ふことは，自国の主権を維持し，他国と対等関係に立たうとする各国の責務であると信ずる」とあるが，ここにいう「主権」は［国家権力の属性としての最高独立性：×国家の統治権］を意味する。 (1802A) 《前文の自国の主権》 ※←　（憲法条）。国民主権の概念は多義的であるが，一般に，①国家の統治権，②国家権力の属性としての最高独立性，③国政についての最高決定権，の三つの異なる意味に用いられる。憲法前文３段にいう「自国の主権」とは，②国家権力の属性としての最高独立性（内にあっては最高，外に対しては独立）を意味し，①の意味ではない。
イ	国民主権の意義を，国家が支配権力を行使する権威のより所（国家権力の正統性）が国民に由来することと解する立場からすると，国民主権の原理は，国家権力の行使が全国民の名の下で行われるべきことを意味するにとどまり，実際に国家の意思決定に国民の意思が的確に反映されるような仕組みを作ることまでは要請されない。正しい。 (1802B) 《純粋代表》　国民主権の意義を，国家が支配権力を行使する権威のより所（国家権力の正統性）が国民に由来することと解する立場からすると，国民主権の原理は，国家権力の行使が全国民の名の下で行われるべきことを意味するにとどまり，実際に国家の意思決定に国民の意思が的確に反映されるような仕組みを作ることまでは要請されない。 (1802B) 《国民主権》 ※←　（憲法条）。国民主権の意義を，国家が支配権力を行使する権威のより所（国家権力の正当性）が国民に由来することと解する立場（ナシオン主義）からすると，国の政治は抽象的な存在である国民の利益となるように行われれば足り，個々の具体的な国民の意思が国政に反映される必要はないと考えられる。よって，実際に国家の意思決定に国民の意思が的確に反映されるような仕組みを作ることまでは要請されない（純粋代表）。
ウ	ポツダム宣言８項には「日本国ノ主権ハ本州，北海道，九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」とあるが，ここにいう「主権」は日本国憲法第１条にいう「主権」の意味とは異なる。正しい。 (1802C) 《ポツダム宣言８項》　ポツダム宣言８項には「日本国ノ主権ハ本州，北海道，九州及四国並ニ吾等ノ決定スル諸小島ニ局限セラルベシ」とあるが，ここにいう「主権」は〔国家の統治権の意味であり〕，日本国憲法第１条にいう「主権」（国政についての最高決定権）の意味とは異なる。 (1802C) 《ポツダム宣言８項》 ※←　（憲法条）。ポッダム宣言８項にいう「主権」は①国家の統治権の意味であるのに対して，日本国憲法１条にいう主権は③国政についての最高決定権の意味であるので，両者の主権の意味は異なる。
エ	日本国憲法の国民主権原理が明治憲法の天皇主権の否定として表明されたものだという趣旨からすると，日本国憲法下において，少なくとも天皇は国民ではないことは明らかである。誤り。 (1802D) 《天皇》　日本国憲法の国民主権原理が明治憲法の天皇主権の否定として表明されたものだという趣旨からすると，日本国憲法下において，少なくとも天皇は国民ではないことは明らかである［とは言えない］。 (1802D) 《天皇》 ※←　（憲法条）。日本国憲法の国民主権原理がどのような趣旨であるかという問題と，日本国憲法下における天皇が国民に含まれるかという問題は，相互に関連するが，論理必然の関係にあるわけではない。したがって，国民主権原理を明治憲法の天皇主権を否定する趣旨であると考えたとしても，天皇が国民に含まれると考えることはできるので，「少なくとも天皇は国民ではないことは明らかである」とは言えない。
	１　アとイ　　２　アとウ　　３×アとエ　　４　イとウ　　５　イとエ　　６　ウとエ